皆さんに日頃ご愛読いただいているTECH+は「高度なテクノロジーであってもわかりやすく理解できる」「必要なテクノロジーが適切に選択できる」といった姿を目指すテクノロジーとビジネスの課題解決をつなげるメディアです。

そのTECH+は、主に「企業IT」と「テクノロジー」という2つのジャンルに分かれて記者が所属していて、それぞれの担当のニュースを日々追っています。

この企画は、そんなTECH+の記者としてITの先端に日々触れている編集部員たちが「バーチャルとリアルが高度に入り混じった未来」「病気にならない未来」「遊園地がITでより進化した未来」の3点からITが進んだ未来について徹底討論するというもの。

座談会にはTECH+編集部で記者として活躍する5名と営業部やイベント部の10万人記念企画メンバー3名が参加し、テーマに沿って自由にトークを繰り広げました。

「バーチャルとリアルが高度に入り混じった未来」を考える

--今日は編集部員を中心に「ITが進んだ未来」について考えていきたいと思います。前編のテーマは「バーチャルとリアルが高度に入り混じった未来」です。VR/AR/MRの違いやデジタルツイン技術の進化、最新のVR機器、メタバースを活用したイベントなどに編集部員の皆さんは参加することが多いと思いますが、印象に残っているものなどありますか?

早川:メタバース関連の取材で1番記憶に残っているのは、山形東高等学校、NTTコミュニケーションズ、レノボ・ジャパンの3者が共同で実施した模擬国連です。模擬国連とは、実際の国連会議と同様に生徒が議論・交渉・決議採択をする過程を体験するもので、国際問題への理解や交渉術の深化を図る効果が期待できることから、世界中の大学や高校で採用されています。しかし、昨今は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、Web会議システムを用いてオンラインでの模擬国連を行う際、システム上の制約により多対多の交渉時のディスカッションを満足に深められないといった課題が発生してしまっていることも少なくありません。そこで、バーチャル空間でイベントの開催やコンテンツの展示などに活用できるXRプラットフォームを活用してメタバース上に模擬国連を再現して、アバターを活用しながら模擬国連を行うことにしたのがこの取り組みです。

浅野:興味深いですね。その模擬国連はお互いがアバター同士で行われたんですか?

早川:はい。参加者はそれぞれがアバターになってメタバース空間内を動き回ったり、他のアバターとのチャットや音声によるコミュニケーションを自由に体験したりすることができます。近付くと声が大きくなる、というような取り組みも行われていました。ただ、通信もまだまだ万全とは言えないし、普及するにはまだまだ課題がたくさんあるように感じました。

熊谷:僕が担当した記事で面白いと思ったのは、 NTT、NTTデータ、香味醗酵が開始した「メタバースで匂いを届ける」実証実験です。これはNTTが開発を進める次世代光イジングマシンとNTTデータのデータ分析技術を活用して、少数の匂い成分でさまざまな匂いや香りを瞬時に再構成する実機検証で、これが上手くいけば、匂い情報の記録や保存、転送、再現が可能になり、映像産業やメタバースに匂い情報を実装した新たな産業の創出も期待できるそうです。視覚やと聴覚に関してはすでにメタバース上で届けることができているので、ここに嗅覚まで加わったら大きな進展がありそうですよね。

--皆さん最先端の技術の取材にたくさん参加されているんですね。続いて今回、このテーマを語る上で外せないキーワードになるかなと思うのですが、「VR」「AR」「MR」の違いについて考えていきましょう。

今井:仕事をしていて何度もその言葉聞く機会はありますが、いざ説明しようと思うと難しいですね……。VRはヘッドセットやゴーグルなどのデバイスを装着して、100%バーチャルの世界に入り込む体験ができる技術ですよね?

熊谷:そうです! VRは日本語だと「仮想現実」と言って空間の中に入り込む技術のことを指しています。一方でARは「拡張現実」、MRは「複合現実」のことを指しています。

鶴海:ARは、スマートフォンやタブレット、サングラス型のARグラスを通して見ることで、リアルな世界にデジタル情報を付加し「現実を拡張する」技術です。1番有名なものだと「ポケモンGO」でしょうか。画面を通して現実世界を見ると、そこにはないはずの物が映し出される。これがまさにARです。

田鍋:ARとVRが「技術」だったのに対してMRは「体験」です。ARとMRの区別は少しややこしいですが、MRは、ARをさらに発展させた技術と考えてもらうと分かりやすいです。ARはデバイス越しにデジタル情報を表示させるだけで直接触れて操作することができませんが、MRはデジタル情報に直接触れて操作したり、情報を書き換えたりすることができます。

今井:なるほど、そんな違いがあるんですね! なんだか小さい頃に思い描いていた「未来」がそのまま実現しているような気がします。

浅野:私たちの子ども時代を思い返すと今聞いた話はまさに「未来」の話というイメージですが、今の子どもたちにとっては当たり前にあるものと思うと少し不思議な感じがしますよね。私の子どもは2008年生まれでまだ学生ですが、小さい頃から友達と遊ぶのは「ゲームの中」でした。自分の子どもの年齢で、わざわざリアルで集まる必要もなく、バーチャル空間で待ち合わせてバーチャル空間で解散するのがスタンダードだと思っている世代がいることを思うと技術の進歩のスピード感を感じますね。

髙橋:ゲームでいうと、わたしは推し活をしていてVRやARの技術を感じたタイミングがありました。わたしの好きなアイドルグループが登場するゲームなのですが、これがまさにAR技術を活用したもので、画面内に登場するメンバーを操作してハートを投げるという仕様になっています。まるで大好きなメンバーが自分の家の中など身近なリアル空間にいるみたいでとてもテンションが上がります!

早川:確かにエンタメジャンル、特にゲーム関連はARやVRの技術と相性が良さそうですよね。

鶴海:普段、宇宙関連のことを多く取材している僕からすると「現実ではできないこと」も相性が良いかも、と思います。今までは、宇宙は宇宙飛行士しか体験できないものでしたが、VRが進歩したことで「宇宙飛行士でも見られない景色」を地球にいながら体験することができるようになっています。そう思うとリアルで行けないところのVRも面白いですよね。

--皆さんのお話を聞いていると、すごく未来の話に感じますが今まさに行われている技術だということに驚きますね。私が子どもの頃から考えてもかなり技術が進歩しているように感じますが、これから先の10年でどのくらい技術は進歩すると思いますか?

田鍋:1番大きく変わるのはデバイスでしょうね。今はVRゴーグルやホロレンズ(マイクロソフト社のワイヤレスで頭につけるタイプのホログラフィックコンピューティング)など、大きくて持ち運びの難しい高価なものが主流になっています。法人向けのMRデバイスとして発売されているHoloLens 2は42万円と大変高額で、なかなか気軽には手が出せない代物になっています。これでは良い技術があっても広まりませんし、恐らくここが大きく変わっていくでしょうね。

熊谷:そうですね。個人で考えてみても普段使っている「スマホ」は大きく変化すると思います。スマホ自体がなくなることはないでしょうが、画面を映すデバイスがどんどん軽くなって、いつかは靴やシャツなどの衣類と合体する日が来るかもしれません。……まあそれは当分先のことだと思いますが、眼鏡でARを見られるようになるのはほんの数年先の未来だと思いますよ。

--楽しいお話ありがとうございました。後編では「病気にならない未来」「遊園地がITでより進化した未来」の2点を皆さんと一緒に考えていきたいと思います。