2020年4月、中小企業・個人事業主向けの業務ソフトなどを提供する弥生へ新卒入社した山ノ上里桜子さん。開発本部に配属された後は、同社サービスのバックエンドエンジニアとして開発経験を積み、2023年6月からはPM(プロジェクトマネジメント)業務に就いている。

東京外国語大学でスペイン語を専攻していた山ノ上さんは、昔からITに関心があったわけではなく、プログラミングの経験もなかった。だが、現在は着実にITエンジニアとしてのキャリアを歩んでいる。

新卒・文系・プログラミング未経験でIT業界に飛び込んだきっかけや、どのように仕事に慣れていったかなど、これまでの経験を山ノ上さんに聞いた。

弥生

開発本部 次世代プロダクト開発 インボイスチーム subPM
山ノ上里桜子さん
2020年4月、弥生に新卒入社。自社クラウドサービスの販売管理システムの開発エンジニアとしてバックエンドを担当。 同チームのサブPMを経て、現在は請求書等の証憑をデジタルデータとして一元管理する「スマート証憑管理」サービスの開発チームで、サブPdM(プロダクトマネージャー)を務める。

バックエンドで経験を積んで開発マネジメントに挑戦

--入社してからこれまでに、どのような業務を経験してきたのか教えてください。

山ノ上さん(以下、敬称略):2020年4月に入社して半年ほどの研修を受けた後は、既存のクラウドサービスの販売管理システムをアップデートする「新課金チーム」に配属されました。

同チームでは、開発エンジニアとして主にバックエンドを担当し、要件定義やプログラミング、テストなどの業務に就きました。開発で担当したのは、契約いただいたお客様の情報を特定条件で抽出してCSVに定期的にアウトプットする機能など、これまで実装していなかった機能です。また、すでに完成したWebページの契約画面に要素を追加したり、文言を加えたりといったフロント業務も一部担当しました。

2023年1月からは開発から離れて、新課金チームの中で2~3人の開発エンジニアが進める小さめのサブプロジェクトのPMとして、プロジェクトの計画作成や他チームとの調整を担当してきました。

2023年6月に予定していた追加機能がすべてリリースされ、7月からは請求書などの証憑をデジタルデータとして一元管理できる「スマート証憑管理」というサービスの開発チームに異動し、2023年7月からサブPdM(プロダクトマネージャー)を担当しています。

--ITエンジニアは、大きく3つのキャリアパスがあると聞きます。特定の分野を深堀りするスペシャリスト、他の言語や領域に仕事の幅を広げていくジェネラリスト、人やプロジェクトを管理するマネジメントですが、山ノ上さんはマネジメントに関心を持たれたのですね。

山ノ上:2年くらい開発の仕事を経験していく中で、「誰かが決めたものの一部に関わるだけじゃなくて、全体がどういう流れになっているのか把握していたい」と思うようになっていたので、それを実現するにはマネジメントの方向が適しているなと考えました。

元々、人の教育には興味があったんです。大学時代には教員免許を取得しました。また、自分には全体を管理するというか、把握していたい性分があるとも思っていて、上司との1on1ミーティングなどでキャリアの話をする中でマネジメントに挑戦したい旨を伝えました。

語学学習とハンドメイド - プログラミングを身近にした自分の経験

--大学時代のお話が出ましたが、外国語学部の学生でプログラミングをする仕事に就く人って多いんですか? 個人的には、「語学を生かした仕事」や「海外・異文化と接点のある仕事」などに関心を持つ方が多い印象でした。

山ノ上:数十名の先輩、後輩、同級生の知り合いでもプログラマーはほとんど聞いたことがないので、珍しいと思います。

所属していたサークルの同級生で、プログラミングをするエンジニアになったのは12人中、私を含めて2人でした。IT業界への就職だと、他にはプログラミングはしないネットワークエンジニアが1人、ITコンサルタントが1人でした。

貿易など国際的な活動をする企業に就職する友人は多かったです。私も大学入学当初は旅行代理店や商社のほか、漠然と外国語を使った仕事を自分の就職先としてイメージしていました。

ただ、大学3年生の時にスペインに1年間留学して、日本と異なる生活習慣や文化、公共空間の清潔さなどに触れる中で、「自分は日本に居を構えて出張で海外に行くぐらいでいいかな」と思ったんです。就活では、以前から関心のあった教育業界のほか、大学でよく説明会が開かれていたコンサルティングやITも候補としました。

--何がきっかけでITの仕事に関心を持ったのですか?

山ノ上:大学で開かれていた「文系からIT業界!」みたいなテーマの説明会と、プログラミングを体験できるワークショップです。

最初は「文系からITに行く道ってあるのかな?」と思っていたぐらいでしたが、ITの知識や経験がなくてもIT業界で働いている人が結構いることを知って、「スキルが身について食いっぱぐれなさそうだし」と思って志望する業界にITを加えました。

情報収集の一環でワークショップに参加したのですが、意外なところで、開発の仕事と自分との間に親和性を感じられました。1つは語学学習です。文法を学んで、単語を覚えて、一定のルールでテキストを並べると意味が通るところから、「プログラミングは外国語を勉強するのと一緒だな」と思いました。

もう1つが、“ものづくり”です。実は、個人的な趣味でアクセサリーやスマホケースなどのハンドメイドをしているのですが、自分の手で何かができあがる体験ができて、プログラミングが結構楽しかったんです。

弥生には総合職で採用されました。当時は研修を経て、開発本部かマーケティング本部のどちらかの希望を出して配属が決まったのですが、開発をやるなら研修が手厚い新卒のうちのほうが良いと考え、私は開発本部に希望を出しました。

開発者が働きやすく、アイデアを生み出せる環境を作る

--エンジニアの実務ではどんなことが大変でした? 不安になったことはありましたか?

山ノ上:IT独特の耳慣れない単語が多くあって、それらを理解していくのが大変でした。言語や開発環境にまつわる言葉が多かったですね。例えば、Javaは言葉としては聞いたことがありますが、「フレームワーク」は初耳でしたし、概念を理解しにくかったです。

先輩社員の方々は、ミーティングやチャットでのコミュニケーションなどでそうした言葉を当たり前のように使うので、2年目ぐらいまではわからない言葉が出てくる度にWebで調べて、Qiitaの記事などを読んで基本的な言葉や概念を学んでいきました。

また、IT関連の知識を網羅的に身に付けられると聞いていたので、基本情報技術者の資格は取りました。参考書を1冊やり通しましたね。

私の場合は、できないことで不安になるより、「開発の基礎を勉強して、アウトプットしたものが動いて楽しいな」という気持ちでした。振り返ってみると、コツコツと勉強するのが苦にならない性分なのは、エンジニアとしてプラスに働いたかなと思います。

大学在学時はスペイン語が専攻でしたが、興味のある言語の授業は積極的に履修していましたね。卒業のための単位に必要なかったのに、「カッコよくて学んでみたい」と思ってアラビア語の授業にも参加していたんです。

--バックエンドの開発担当からPMになって、実務や学ぶことについてどのような変化がありましたか?

山ノ上:開発業務をしていた頃は、実務も学ぶことも技術的なことが中心で、自分ができることを増やしていくイメージでした。PM業務に就いてからはプロジェクトの全体最適化のため、自分以外の人に必要なことを考え、動いていると思います。

具体的な業務としては、いつまでにどの機能を開発するか検討したり、サービスリリース日を調整したりしています。担当するサービスは他のサービスと機能連携している部分もあるので、リリース日の調整では他のサービス・製品や、他の開発チームに影響がないか関係者と連絡を取っています。同時に、リリース後のお客様対応をスムーズに進めるため、カスタマーサポートの担当部署にも情報連携しています。

新課金チームは3年近く関わってきたサービスなので、ある作業にどれぐらいの時間が必要か何となくわかるし不測の事態を想像しやすかったです。現在は担当するサービスが変わったので、サービスの中身を理解し開発メンバーの方との関係構築をイチから進めています。

また、新課金チームではウォーターフォールで開発していましたが、新しく担当したスマート証憑管理の開発チームはアジャイルで開発を進めているので、アジャイルの手法について学んでいるところです。

--目標としているPM像のようなものはあるのですか?

山ノ上:開発チームが働きやすく、いろいろなアイデアを生み出せるように、開発環境を整えたり、どんな手法を取り入れるか考えたりすることに注力していきたいです。

まずは、PM・PdMとして独り立ちできるように、開発チームとはどうあるべきか、スクラムをうまく実践するにはどうすればいいかなどを勉強しています。

最近は先輩PMの仕事を見ていて、プロジェクトやプロダクトの顔になっている人は自信をもって振る舞うことが大事だと思うようになりました。やはり、自信がないリーダーを見ていると、チームのメンバーは不安になると思うんです。

自信がなくて答えづらい時でも、何か質問された時にはうまく返して、不明点や自信のないことは後で確認して共有するほうがチームの士気も下がらず、業務も円滑に進むのではないでしょうか。

ITに深く関わることで世界の見え方が変わって、自分の道も広がる

--これからIT業界で働こうと考えている人にメッセージをお願いします。

山ノ上: 仕事を通じてITに深く関わることで世界の見え方が変わって、自分の道も広がると思うので、個人的にIT業界で働くことはオススメです。

例えば、当たり前のように使っているスマートフォンやWebサービスについて、「中身はどうなっているかな?」って思うようになるし、実際に中身を調べて、理解が深まることで新しい技術やサービスに対して無駄に怯えなくて済みます。

「スマホの家計簿アプリに銀行口座を連携する」ことについて、「何となく怖い」と思う人は少なくありません。でも、ITについての知識が増えることで、「こういうAPIで連携しているから、多分こういうことは起こらないだろう。気を付けるべきはこういうことだな」と、ITというものをより具体的に捉えられると思います。

新卒でも中途でも、未経験でITの仕事をするのはアリだと思っています。社内にもITと異なる業界で何年も働いていて、勉強してエンジニアになった人が何人もいます。

今時はエンジニアスクールなど、独学以外で学ぶ方法もあります。私なら、やってみて楽しかったら続けるといったように気軽に、でも、無理はせずチャレンジしてみます。