ジャクソンホール経済シンポジウム(2025年8月22日)後の世界経済は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待と日本銀行(日銀)の慎重な金融政策が交錯し、不確実性が高まりました。この状況は為替市場や株式市場に影響を与え、日米間の関税交渉も大きな要因となっています。
以下では、FRBの9月16日の利下げ、年内あと2回の利下げ織り込み、日銀の政策決定会合での現状維持、ETF売却決定、日米関税合意の履行などを踏まえ、世界経済と為替の方向性を整理します。
世界経済の状況
ジャクソンホールにおいてFRBのパウエル議長は、インフレが2%目標に向かって低下している一方で、雇用市場のリスクが高まっていると指摘しました。米経済はソフトランディングが期待されるものの、トランプ政権の関税政策や地政学的リスクが景気後退の懸念を強めています。グローバル経済では、米中貿易摩擦や欧州のエネルギー価格高騰が成長を抑制する可能性があり、投資家はデータ依存型の金融政策に注目しています。
9月16日・17日のFOMCでは、FRBが政策金利を0.25%引き下げ、4.00~4.25%としました。これは2025年初の利下げで、労働市場の軟化に対応したものです。市場は年内あと2回の利下げ(計0.5%程度)を織り込んでいます。利下げ期待は米ドル安を促し、S&P500やナスダックは上昇傾向を示しています。ただし、トランプ政権が推進する関税強化(例:中国製品への50%超の関税)はインフレ再燃のリスクを伴い、経済の不透明感を高めています。
一方、日本経済は円安による輸出競争力の恩恵を受ける反面、輸入物価の上昇でインフレ圧力が続いています。日銀はジャクソンホールで植田総裁がややタカ派的な発言を行い利上げの可能性を示唆しましたが、9月19日の政策決定会合では短期金利を0.5%に据え置く一方、ETFを年間約3,300億円のペースで売却開始することを決定しました。この売却は株価や為替に軽微な影響を与えたものの、市場の方向性を変えるほどではありません(日銀のETF残高は簿価ベースで約37兆円あり、単純計算で売却終了まで113年かかる規模です)。また、会合では2人の理事が0.75%への利上げを提案しましたが否決され、慎重姿勢が維持されています。
日米関税交渉と為替への影響
日米関係では、9月4日にトランプ大統領が、関税措置に関する7月の日米合意を履行する大統領令に署名し、日本からの自動車・部品関税を15%に引き下げ、日本は5,500億ドルの対米投資と米農産物の輸入拡大を約束しました。これにより日米間の貿易摩擦は一時的に緩和され、円安圧力が和らぐ可能性があります。
為替の方向性
ドル/円は、ジャクソンホール後のFRB利下げ開始を受けてドル安・円高方向に145円台を目指すとの見方がありましたが、9月19日時点では147円台後半でレンジ相場が続いています。
今後はFRBの利下げと年内の日銀利上げ観測を背景に、年内は140~145円のレンジで推移する可能性が高いと見られます。ただし、以下の要因が為替に影響を与える可能性があります。
1.FRBの利下げペース
市場予想通り2回の利下げが実施されればドル安・円高が進む可能性があります。一方、インフレ再燃や米経済指標の改善で利下げペースが鈍れば、ドル/円は150円台へ再上昇するリスクもあります。
2.日銀の政策動向
日銀のハト派姿勢は円安を支えますが、インフレ圧力が強まれば利上げ観測が高まり円高要因となります。ETF売却は規模が小さいため市場全体への影響は限定的と見られています。ただし、株価の下押しにつながる場合には投資家心理が悪化し、リスク回避的な円買いを誘発する可能性があります。その結果、円安圧力を抑制する方向に働く余地があります。
3.日米貿易と地政学
関税交渉の妥結は円安圧力を軽減しますが、米国の対中関税強化は世界経済に波及し、リスクオフの円買いを誘発する可能性があります。
今後の展望
世界経済は、米国の利下げサイクルとトランプ政権の保護主義政策が共存する複雑な局面にあります。FRBの金融緩和策はドル安を促し、日銀の慎重姿勢は円安を維持する一方、日米の経済協調が円高圧力を強める可能性もあります。
投資家は、米国の雇用・インフレ指標、日銀の次回会合(10月30日~31日)、および地政学的リスクを注視する必要があります。
為替市場では、ドル/円は短期的には145~150円のレンジで推移しつつ、中期的には米経済の動向次第で130円台への下落や150円台への上昇も視野に入ります。リスク管理を徹底し、最新の経済指標や政策決定に基づき柔軟に対応することが引き続き重要です。

