中古市場で高い人気を誇るロレックスだが、その相場は常に一定とは限らない。本連載では、腕時計専門店「OURO」の買取実績をもとに、前月から価格が大きく動いたモデルをピックアップ。いくら上がったのか、あるいは下がったのか、その背景とともにロレックスの最新相場を読み解く。

デイトナ Ref.126500LNの価格が上昇。為替はどれくらい影響したのか?

2026年夏、為替市場では大きな動きがありました。

財務省によると、7月30日から8月26日までの外国為替平衡操作額は15兆3,993億円。米国東部時間7月31日には、28年ぶりとなる日米協調での円買い介入も実施されました。

高級腕時計を保有している方であれば、「円安になるとロレックスの相場は上がり、円高になると下がる」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

確かに、為替はロレックスの二次流通価格に大きな影響を与える要素の一つです。

しかし、実際に国内外で時計を売買していると、時計価格は単純な為替換算だけでは説明できません。

為替が変わることで、日本から海外へ時計を販売した際の採算が変わります。そして採算が変われば、時計が世界のどの地域へ流れるのか、どの程度の数量が流れるのかも変化します。

その結果、各国の在庫量と需要のバランスが変わり、最終的には時計そのものの価格が調整されていきます。

今回、その仕組みが比較的分かりやすく表れたのが、ロレックスを代表する人気モデル、コスモグラフ デイトナ Ref.126500LNでした。

  • ロレックス デイトナ Ref.126500LN

    ロレックス デイトナ Ref.126500LN

円高になると、なぜ海外への販売が止まるのか

まず押さえておきたいのは、円高になったからといって、海外の買い手が突然デイトナを欲しくなくなるわけではないということです。

日本の時計事業者は、国内では基本的に円建てで商品を仕入れ、海外にはドルなどの外貨建てで販売します。

例えば日本で600万円で仕入れた時計を4万ドルで販売するとします。

1ドル160円であれば、4万ドルは640万円です。ところが1ドル150円になれば600万円、145円まで円高になれば580万円です。

時計そのもののドル建て販売価格が変わっていなくても、円転した際の売上は大きく変わります。

つまり急激に円高が進むと、それまで成立していた外貨建ての販売価格では、日本側のサプライヤーが利益を確保できなくなるのです。

このとき起きるのは、「海外の需要がなくなる」という現象ではありません。

日本側が、その価格では海外へ商品を供給できなくなるということです。

為替が変えるのは価格ではなく、まず「商流」

ここから時計市場特有の価格調整が始まります。

日本から海外への供給が減っても、その地域に存在する時計への需要が同じように減少するとは限りません。

特にデイトナ Ref.126500LNのように、世界各国で継続的に取引されている人気モデルでは、比較的需要が厚く、供給量が減ったからといってすぐに需要まで消えるわけではありません。

すると、円高→日本側の採算悪化→日本からの供給減少→海外市場の在庫減少→海外側の買値・売値上昇、という調整が起こります。

今回も、円高局面を経た後、OUROが海外市場の取引現場で確認したRef.126500LNのドル建て価格は、最終的に約800ドル上昇しました。

ここが今回の相場を見るうえで重要なポイントです。

円高になったにもかかわらず、海外では時計そのもののドル建て価格が上昇したのです。

これは為替換算では説明できません。

日本からの供給が減ったことで、需要の強い海外市場に商品不足が発生し、その不足を埋めるために時計そのものの価格が上昇したと考えることができます。

こうした価格上昇を、ここでは「需給プレミアム」と考えると分かりやすいでしょう。

なぜデイトナでは価格調整が速いのか

もちろん、すべてのロレックスが同じように動くわけではありません。

Ref.126500LNでこうした動きが比較的早く表れた背景には、デイトナそのものの世界的な需要の強さがあります。

  • ロレックス デイトナ Ref.126500LN

    ロレックス デイトナ Ref.126500LN

デイトナは日本だけではなく、香港、中国、米国、ヨーロッパなど世界各国で常に取引されています。

ある地域で在庫が不足した場合、別の市場から商品を持ってこられないか、世界中の事業者が価格を比較します。

それまでの価格では商品が集まらなければ、買値を上げる。買値を上げれば販売価格も上がる。その価格を見て、別の地域でも価格が修正される。

こうして地域間の価格差が縮小していきます。

OUROの取引現場でも、デイトナは他のモデルと比較して、こうした国際的な価格差の修正が非常に速いモデルの一つです。

ロレックスの中でも特に流動性が高く、世界中に買い手がいるからこそ、金融市場や為替による外的要因が、需給を通じて短期間で価格へ反映されやすいと考えています。

ただし、円高になれば必ず海外価格が上がるわけではない

一方で、この仕組みを「円高になれば供給不足になり、時計価格が上がる」と単純化することもできません。

時計相場を決めるもう一つの重要な要素が、その時点で需要がどれだけ満たされているかです。

例えば海外の販売店や事業者がすでに十分な在庫を持っており、その地域の需要もある程度満たされているとします。

その状態で円高になり、日本からの供給が減ったとしても、海外側はすぐには困りません。

商品を確保するために価格を引き上げる必要がないからです。

この場合、日本側では海外販売の採算が合わない一方、海外側も買値を上げようとしないため、価格調整が起きるのではなく、単純にマーケットの取引量が減少し、商流が停滞することも十分にあります。

つまり、重要なのは為替だけではありません。

同じ円高でも、需要が強く商品が不足している市場では価格が上昇する。一方、需要が満たされている市場では取引そのものが停滞する。この違いが生まれます。

今回のRef.126500LNでは、円高によって日本側の供給条件が悪化した一方で、海外側の需要が強く残っていたため、マーケットが止まるのではなく、海外価格が上昇する方向へ調整されたと見ることができます。

為替が戻っても、時計価格が元に戻るとは限らない

そして今回もう一つ興味深いのが、その後の動きです。

為替が再び円安方向へ戻れば、日本側から見た海外販売の採算は改善します。

ここだけを見ると、単純に「円高になる前の状態に戻った」と考えられます。

しかし、時計市場は同じ状態には戻っていません。円高だった期間に、海外のドル建て価格そのものが約800ドル上昇しているからです。

つまり、円高による供給減少→海外在庫不足→ドル建て価格上昇→為替が円安方向へ戻る、という順番で動いた場合、再び日本から海外へ販売できるようになった時点では、円高になる前よりも海外市場そのものの価格が高くなっています。

そのため国内の価格には、為替が戻ったことによる採算改善だけでなく、海外市場で形成された需給プレミアムも反映されることになります。

これが、実際の為替変動幅以上に時計価格が上昇するケースがある理由です。

OUROのRef.126500LNホワイトの買取価格を見ると、7月26日に627万円を付けた後、8月9日には603万円、9月6日には598万円まで下落しました。

その後は再び上昇し、9月19日時点では607万5,000円となっています。

今年の高値627万円と比較すると、現在も19万5,000円、約20万円の差があります。

ただし、この20万円をそのまま「これから20万円上がる余地がある」と考えることはできません。

高値を付けた当時と現在では、為替水準だけではなく、海外市場の在庫量や需要、売価そのものが変わっています。

一方、今後も現在のような商流が続き、需要の強い地域で供給不足が解消されない場合には、海外市場の販売価格がさらに上方修正される可能性もあります。

その場合、ドル円が今年の円安局面と同じ水準まで戻らなくても、海外価格そのものの上昇によって国内の買取価格が高値へ近づくことも考えられます。

逆に、日本からの供給が増え、海外在庫が十分に確保されれば、今回形成された需給プレミアムが縮小する可能性もあります。

そのため、デイトナだから今後も一方向に価格が上昇すると考えるのも適切ではありません。

2026年1月末から9月上旬にかけての週次推移は、Ref.126500LNの買取相場で公開中

時計を売るなら「円安かどうか」だけでは足りない

ここまでの動きを見ると、時計の売却タイミングを考える際に「円安だから売ろう」「円高だから待とう」と為替だけで判断することが難しい理由が見えてきます。

見るべきなのは、為替のさらに先です。

現在の為替で、日本から海外への販売が成立しているのか。

その販売先で時計は不足しているのか、それとも需要はすでに満たされているのか。

海外市場のドル建て価格そのものが上昇しているのか。

こうした要素まで確認することで、現在の時計価格が単純な為替によるものなのか、それとも世界的な需給によって押し上げられているのかが見えてきます。

これは地政学的な出来事についても同様です。

戦争や関税、物流規制、各国の金融政策などが直接ロレックスの価格を決めるというよりも、そうした出来事によって時計をどの国からどの国へ動かせるのか、どこで在庫が不足するのかが変化し、その結果として価格へ影響します。

つまり時計相場は、

金融・地政学→為替や物流条件の変化→世界の商流変化→各地域の在庫変化→需要と供給の調整→海外価格の変化→国内買取価格

という経路で動いています。

今回のデイトナ Ref.126500LNの値動きは、その仕組みが非常に分かりやすく表れた事例といえます。

「為替が時計価格を動かす」のではなく、為替が時計の商流を変え、その商流の変化に対して世界の需給がどう反応するかによって、最終的な時計価格が形成される。

ロレックスの売却タイミングを考えるうえでも、国内の買取価格やドル円だけではなく、その背景にある世界の商流を見ることが重要になっています。

型番別の買取相場の推移は、OUROコラムで公開中。