戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家など1000人を超えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきた渡辺秀和氏(株式会社コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役社長CEO)が、キャリアアップを目指すビジネスパーソンの疑問・お悩みに答えます。
今回のお悩みは「仕事として社会貢献活動に携わりたいのですが、年収面が不安でなかなか転職に踏み出せません」です。
Q. 仕事として社会貢献活動に携わりたいのですが、年収面が不安でなかなか転職に踏み出せません
A. 近年、「社会課題の解決」と「ハイキャリア」を両立できる仕事が増えています
ソーシャルビジネスに吹く「追い風」
ビジネスの枠組みで社会課題の解決に挑む「ソーシャルビジネス」が存在感を増しています。SDGsやESG投資を推進する有名企業をはじめ、先端テクノロジーを活用するソーシャルスタートアップ、異業種間連携による取り組みなど、ソーシャルビジネス関連の経済ニュースを目にしない日はありません。
このような中、「社会課題解決系の仕事に就きたい」という志を持つ方々が増えています。ビジネスパーソンのキャリア設計を支援する私たちの会社でも、そのようなご相談が急増している状況です。また、私が大学で担当するキャリアデザインの授業では、就職先を考える際の基準として「社会的インパクト」と「やりがい」を重視している学生が多く見受けられるようになりました。
一方で、「社会貢献系の仕事は収入が低いのでは」と懸念する声も、いまだに多く聞かれます。
確かに、以前の社会貢献系の求人に、高年収の条件が少なかったのは事実です。しかし近年は、社会貢献系の仕事においても十分な報酬を得られるポジションが増えています。背景には、テクノロジーの急速な進展や行政による規制緩和などにより、高い収益性を保ちながら社会課題の解決に取り組めるビジネスチャンスが広がったことがあげられます。
また、ESG投資の拡大も要因のひとつです。2023年度時点で、社会的リターンと経済的リターンを同時に追求する「インパクト投資」の残高は、国内で約11.5兆円(※)という報告もあります。前年度からほぼ倍増するなど右肩あがりの成長を続けており、今後もさらなる拡大が見込まれます。ソーシャルビジネスは今、まさに追い風なのです。
※日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2023年度調査-(GSG国内諮問委員会)
収入面の懸念を払拭する、社会貢献系・3つのキャリア
「社会課題の解決」×「ハイキャリア」を目指せる転職先として、具体的にはどのような企業があるのでしょうか。今回は、特に注目されている「ソーシャルスタートアップ」「コンサルティングファーム・シンクタンク」「ベンチャーキャピタル」に焦点を当てて紹介します。
社会課題を先端テクノロジーで解決するソーシャルスタートアップ
AIやIoT、バイオテクノロジーに代表される先進技術が、金融や医療、教育、HR、農業・林業、食などの幅広い産業でイノベーションを起こしています。その潮流の中、先端テクノロジーを用いて社会課題を解決しようとするスタートアップが続々と誕生しており、事業開発や経営企画、経営幹部候補などのポジションで積極的な人材募集を行っています。
スタートアップの事業内容も、実に多種多様です。例えば、行動科学の知見やビッグデータ解析に基づいた、予防医療の促進。AI教材やデジタルツールの活用による、学習支援の推進。あるいは、高齢化や人材不足といった、従来の手法だけでは解決が難しかった課題に最新技術で取り組むなど、さまざまな領域で社会課題への挑戦が進んでいます。
以前は、スタートアップへの転職には年収面での不安がありました。しかし、近年は大規模な資金調達に成功する企業が増えています。その結果、高い報酬で知られるコンサル業界や総合商社、メガバンクと同等レベルの待遇を提供するスタートアップも珍しくなくなりました。
ただし、スタートアップの経営状況は大きく変化しやすいものです。転職先として検討する際には、ビジネス基盤や財務状況をしっかり確認することが重要です。
SDGs・ESG関連プロジェクトが増加するコンサル・シンクタンク
近年、企業経営においてSDGsやESGへの対応は欠かせない課題です。しかし、専門的な知見を有している企業はまだまだ少なく、その結果、コンサルティングファームやシンクタンクに対するSDGs・ESG関連プロジェクトの依頼が急増しています。
具体的には、中国・新疆ウイグル自治区などでの人権問題を契機とした、サプライチェーンにおける人権デューデリジェンス(※)のプロジェクトや、気候変動リスクの把握、温室効果ガスの適正な算出などがあげられます。これらの分野は「戦略的リスクマネジメント」と呼ばれ、数多くのプロジェクトが進行中です。
※Due diligence:M&Aにおける企業価値査定や、投資対象となる企業の資産価値、リスクを調査すること
そのほか、サーキュラー・エコノミーの実現に向けた新規事業戦略、再生可能エネルギー事業の立ち上げ支援など、社会課題の解決を目的とするビジネス創出プロジェクトにも多くのコンサルファームが取り組んでいます。
魅力は報酬面にも。コンサルティングファームは一般的な大企業より年収水準が高く、20代で年収1000~1500万円に達することも少なくありません。
ソーシャルスタートアップを支援するベンチャーキャピタル
社会課題を解決するために、事業投資を通じて関わるというキャリアも選択肢のひとつです。例えば、ベンチャーキャピタル(VC)のメンバーの一員として、ソーシャルスタートアップの支援に取り組むという道があります。昨今は、GLIN Impact Capitalのようにソーシャルインパクト投資を専門とするVCも登場しています。
一般的に、VCは収入の一部が成功報酬として支払われる体系です。そのため、投資先のビジネスが成功すれば大きなインセンティブが得られるという特徴があります。また、複数のスタートアップを支援することで、同時にさまざまな社会課題の解決に関われるのも魅力と言えるでしょう。
「キャリアの階段」を活用し、志の実現へ
ここまで読んで、「自分にはスキルや経験が足りないから、社会貢献系の仕事への転職は難しい」と感じた方もいるかもしれません。実際、前述した企業の多くは、社会課題に関する知識や経営・事業投資のスキルを求める傾向があります。
しかし、ソーシャル領域に特化していない一般的なコンサルティングファームは、業界未経験者の採用も積極的に行っています。また、ソーシャル領域に限定しなければ、企画やマーケティングなどのポジションでポテンシャル採用を実施している企業も多数あります。
希望に沿った社会課題解決系の仕事への転職が難しい場合は、まずソーシャル領域以外のコンサルティングファームやスタートアップでスキルや経験を培い、その後にチャレンジするという方法もあります。このように中間地点となる「キャリアの階段」を設けることで、実現の可能性を大きく高められるのです。
テクノロジーの進化やビジネス環境の変化により、適切なキャリア設計を行えば、社会課題の解決とハイキャリアの両立が可能な時代となりました。社会貢献というすばらしい志に向けて、中長期的な視点でキャリア設計に取り組んでいただければ幸いです。