いまの場所にたどり着くまでに、どんな選択があったのか――。この連載では、道を切り開き始めた次代の担い手たちに、歩んできた決断の背景と、その先に見据える未来を聞いていく。それぞれの選択がどのように現在をつくり、次の挑戦へつながっていくのかを、記録していく試みだ。
本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ 金魚番長。ともにNSC東京校24期生で、箕輪智征さんは1994年9月12日生まれ(東京都調布市出身)、古市勇介さんは1994年4月15日生まれ(東京都目黒区出身)。2019年にコンビ結成以来、賞レースでは上位入賞者の常連となっている。所属する吉本興業 東京本部にて話を聞いた。
今でも両親からは反対の声、それでもお笑いを辞めないワケ
――お笑い芸人を目指したきっかけについて教えて下さい。
古市さん(以下、敬称略):子どもの頃から、とにかく目立つ仕事がしたいと思ってました。だから正直なところ、アイドル、歌手、なんでも良かったんですが、消去法で芸人になりました。はじめて「将来、芸人になるのかな」って思ったのは、小学生のときです。バナナマンさん、おぎやはぎさんなど、東京でお笑いをやっているコンビが好きでした。
箕輪さん(以下、敬称略):大学では工学部に入っていたんですが、どうも自分に合っていなくて。高校生のときはお笑い芸人に憧れていたので、いざ目指してみよう、と思って。憧れの芸人はサンドウィッチマンさん、大学生の頃は千鳥さんがめっちゃ面白いと思って見ていました。
――お笑い芸人以外の選択肢も考えましたか?
古市:お医者さんですかね。手塚治虫の漫画「ブラック・ジャック」を読んで、格好良いなと憧れて。まぁ、学校の成績的に無理でした。
箕輪:うちは両親が教師だったので教職の道か、あとはプロ野球のピッチャーに憧れた時期もありました。大学では自動車メーカーへの就職も考えていました。
――お笑い芸人を目指す選択に、周囲の反対はありましたか?
古市:母親はそれほど、でも父親は最初は反対していました。NSCを首席で卒業して以降は、その父も応援してくれています。子どもの頃から明るかったので、友だちに「NSCに行く」って打ち明けたときは「だろうね」って反応でした。
箕輪:うちは反対されました。なんなら、今でも結構、言われています。「もうちょい頑張らないと」とか、「ちゃんと貯金してんのか」という感じで。普段は淡々としているんですが、たまにグサっと言われますね。
――これまで、芸人を辞めたいと思ったことは?
古市:去年、同棲していた彼女にフラれちゃって、6日ほど仕事を飛んだときがあって。仕事も「辞める辞める」と言ってたんですが、周囲からは辞めるようには見えてなかったみたい。だから、辞めないのかも知れません。
箕輪:何を言ってんのか分かんないよ(笑)。
古市:ははは。だから、そこまで苦しんだ時期がないというか。バイトでギリ生きていける、そんでバイトも辞められた、そんでここまで来ているんで。そもそも、ほかの仕事もできないですし。
箕輪:ボクは、ネタが浮かばないときに「辞めたいな」と思うことはあります。でも好きなことができているんだから、それで苦しんで「辞めたい」と思うのは違いますよね。親には「35まで結果が出なかったら辞める」と言ってきました。...いま考えると、これまで自分がやってきたことって、本質的にどこか自分の中で好きじゃなかった部分もあったのかな。でもお笑いに関しては、失敗も笑いのネタになるし、これまで大きな挫折は経験してこなかったように思います。
本番当日のネタ変更も「絶対こっちだな、と」
――迷ったときの選択肢で、大事にしていることは?
箕輪:ネタ選びで言うと、最終的には古市に決めてもらっています。ネタを作っている身からすると「こっちの方が良いかな」とかはあるんですが、古市のパフォーマンスが上がるネタが良いので。
古市:賞レースのネタ選びは、周りの芸人にどう思われたか、も意識しています。「良かったよ」と言われる頻度が高いネタとか。近くの芸人に相談を持ちかけるときは、たいてい気持ちを後押しして欲しいときですね。自分の中では決まってて、そのうえで「こっちの方が良いよね」って。昨年は、直感で選んで失敗しちゃったんですが。
当日になってネタを変えてもらうこともあります。マイナビLaughter Night(2023年6月)では、それまで準備していたネタではなくて、別のネタに変更したうえで色々足して、ということをやりました。当日になって「絶対にこっちだな」と、ふと思っちゃうんです。そのネタで勝ったイメージまで浮かんできて。もちろん、それで外すときもあります(笑)。昨年なんかは、ちゃんとミスっちゃった。
箕輪:当日変更はキツいっすよね(苦笑)。でも、こっちもなんか分かるんです、こいつ変えそうだなって。だからマイナビLaughter Nightのときは、もしあっちのネタに変更になったらこれ入れて、とか前もって考えてました。古市は露骨に顔に出るから分かりやすいので(笑)。組んでみたら分かると思います。
――古市さんは、ネタ覚えが早いともお聞きしました。
古市:まぁツッコミなので、これ言われたらこれ言う、みたいなのはあるので。ボクきっかけで喋らないので、極端な話ですがネタを通しで稽古しなくても、いけるっちゃいけるんです。たぶん、ツッコミの芸人はみんなそうだと思います。
箕輪:「なんだよ~」って言えば良いもんな。
古市:そう、最悪「なんだよ~」って言えば成立しちゃう(笑)。そんな気持ちでやっているのもあるかもしれないです。
――相方を選んだ理由について教えて下さい。
古市:NSCのネタ見せのときに「ちょっと良いな」と思っていました。その後のライブの打ち上げで、居酒屋で箕輪がめっちゃボケてたんです。普段からボケるところも良いな、と思って組みました。
箕輪:古市は声がでかい、あと変な声、っていうところですね。もともと、面白くないことでも増幅して面白くしてくれる人が良いな、と思ってて。普通の人と古市が同じことを喋っても、古市の方が面白いじゃないですか。そこが良い。
――相方の決断で、今でも忘れられないことはありますか?
古市:あれは3年目くらいだったと思うんですが、素敵じゃないかの吉野さんに「箕輪はすぐに降りるよな」って言われたんです。降りるというのは、たとえばギャグをして滑ったら「うわ、めっちゃ滑ってるじゃないですか」みたいに冷静になって俯瞰からコメントすることを言ったりするんですが、そのあとくらいから、突然、箕輪がめっちゃ前に出るようになって。横で見ていて「何か心の中で決めたんかな」と思いました。そこから、周りも箕輪の味方になっていきました。
箕輪:そうかもしれないですね。それまでは滑るのもめちゃ怖かったし、自分の中で前に出れないのをずっと感じていました。それが「もう良いか」ってなったのがその頃です。
それとテレビで海外のタレントさんを見たときに、「まじですごいな。『ここでお金を稼がないとマジで帰れないぞ』って覚悟してるから前に出れるんだな」って思ったことがあって。だから出たての頃は「海外から出稼ぎに来た人」をイメージして、プレッシャーを自分にかけていました(笑)。そうでもしないと勇気も出ませんでした。出れば周囲がなんとかしてくれるもんですし。
古市:2人とも、やっちゃいけないことをして怒られることもまだまだ多いんですが、人は他人にあまり興味ないというか、どうせ覚えてないもんです。悪いことをしても。
箕輪:それで仕事を飛んでますからね、周りに迷惑をかけまくっている(笑)。
古市:それは良くなかったんですが(笑)、お笑いの平場においての話ですね。
賞レースは“1年間の証明書”、今後は「ずっとネタが面白い芸人でいたい」
――2人にとって、賞レースはどのような位置づけですか?
古市:そこに向かって1年を過ごす、というイメージですね。いま皆んなそうだと思います。賞レースがないと、ただ寄席をやっているだけ、になっちゃう。
箕輪:期末テストというか。サボっていたら結果に出ちゃうし、ちゃんと1年間芸人として面白いことをやってきました、の証明書を出してもらうというかね。
古市:大きな大会の前はノドを大事にして、あとはM-1の出囃子を聞いてテンションを上げて。舞台に出ている自分、ウケている客席をイメージします。スイッチで気持ちを切り替えるというよりは、ジワジワと盛り上げていく感じです。
箕輪:舞台にかけたネタに手応えがあったときは「これ賞レースに持っていくと良いかもな」って2人で確認したりもしています。
――今後は、どんな活動をしていきたいですか?
古市:単独ライブ、劇場に出ながら、賞レース、そしてテレビにも出て、たくさんの人に笑ってもらえる存在になりたいです。
箕輪:それもありますし、ずっとネタが面白い芸人でいたいですね。落ちたな、と思われたくないですね。
――コンビとして最大規模の単独ライブツアー「自画自燦燦」を仙台・福岡・大阪・東京の4大都市で行いますね。
古市:そうなんです。「自画自燦燦」は、ついている作家のアイデアです。四字熟語の最後の音を繰り返すことで、ラップっぽい響きを出しています。2人とも自分のことが結構好きだし、ちょうど良いかなと思って。
箕輪:まだまだ準備しなくちゃいけないことがあるんですが、頑張ります。
古市:皆さん、福岡に来てください。福岡です。福岡に、お願いします(笑)。迷われている方は、福岡。モツ鍋が美味しいので、泊まってください。
――お二人の人柄が伝わってくるインタビューになりました。お忙しいところ、ありがとうございました。
取材:葉山澪
構成/撮影: 近藤謙太郎
金魚番長単独ライブツアー「自画自燦燦」
【出演】 金魚番長
【料金】前売 3,000円|当日 3,500円 |配信(東京のみ) 1,800円 ※ツアー共通料金
【公演スケジュール】
●仙台公演 ※アフタートーク公演別売りあり
日程:5月17日(日) 開場12:30|開演13:00|終演14:00
場所:仙台市シルバーセンター 交流ホール
●福岡公演
日程:6月14日(日) 開場20:15|開演20:30|終演21:30
場所:よしもと福岡 大和証券劇場
●大阪公演
日程:7月5日(日) 開場19:00|開演19:30|終演20:30
場所:よしもと漫才劇場
●東京公演 ※配信あり
日程:8月2日(日) 開場19:00|開演19:30|終演20:30
場所:ルミネtheよしもと












