東京薬科大学は、リン脂質代謝酵素ホスホリパーゼCδ1(PLCδ1)が皮膚バリアの働きに不可欠な役割をしていることを発見したと発表した。

同研究は、ゲノム病態医科学研究室の中村由和講師、深見希代子教授、金丸佳織特別研究員らの研究グループによるもので、4月21日に英国科学誌「Cell Death & Differentiation」の電子版に掲載された。

PLCδ1に現象により皮膚バリアの働きが失われ、p38 MAPKが活性化。p38 MAPKの働きを抑えると、乾癬の症状は軽減する。

乾癬は、原因が未だ完全にはわかっていない炎症性皮膚疾患だが、近年になり皮膚バリアの働きに重要な役割をする遺伝子が変異することにより乾癬の発症リスクが高まることが報告され、皮膚バリアの異常と乾癬との関係が注目されている。同研究グループは、以前にリン脂質代謝酵素であるPLCδ1が乾癬病変部で減少していることや、PLCδ1を持たないマウスは乾癬に似た特徴を持つ皮膚炎を発症することを発見しており、PLCδ1の減少が乾癬の発症や悪化に関係している可能性が示唆されていた。

同研究では、皮膚の細胞でPLCδ1が減ることにより乾癬の発症リスクとなり得る皮膚バリアの働きの低下が引き起こされることを明らかにした(図1)。また、PLCδ1が減少している皮膚の細胞ではp38 MAPKというリン酸化酵素が異常に活性化していることが判明したという。そこで、PLCδ1が減少している皮膚の細胞にp38 MAPKの働きを抑える薬剤を加えたところ、皮膚バリアの働きが回復。さらに、皮膚バリアの働きの低下により発症リスクが高まる炎症性皮膚疾患である乾癬の患者の皮膚や乾癬モデルマウスの皮膚においても、p38 MAPKが異常に活性化されていることが確認され(図2)、乾癬モデルマウスにp38 MAPKの働きを抑える薬剤を塗ることで皮膚炎症状を軽減することにも成功したということだ(図3)。

また、皮膚のバリアとしての働きが弱まることは乾癬の発症リスクを高めるだけでなく、アトピー性皮膚炎の原因にもなるという。アトピー性皮膚炎の病変部においてもPLCδ1は減少しており、PLCδ1が乾癬だけでなく、皮膚バリアの働きが低下する皮膚疾患の多くに関係している可能性が考えられる。同研究成果は、PLCδ1やPLCδ1により調節される各種のタンパク質を標的とした皮膚バリアの改善法や皮膚疾患治療法の開発へつながることが期待されている。