岡山大学は、交通事故などを原因とする脳外傷後に生じる脳腫脹の機序を明らかにし、急性脳腫脹に対する新しい治療法を開発したと発表した。成果は、岡山大大学院医歯薬学総合研究科薬理学の西堀正洋教授と脳神経外科学伊達勲教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、4月4日付けで米国科学誌「Annals of Neurology」オンライン版に掲載された。

脳外傷は、交通事故や転落事故を最大の原因とし、脳外科臨床あるいは救急医療において頻繁に経験される病態の1つだ。高齢化の進行する日本において、事故の犠牲となる高齢者の割合も多く、また一方で、脳外傷を含む不慮の事故は若年層の死因の上位を占めている。

脳外傷では、受傷部位を中心として脳の腫れが形成されるのが特徴だ。その程度が重篤であれば、脳ヘルニアの状態となり生命予後に直接影響する。しかし、脳外傷によって生じる脳腫脹と、随伴する神経障害に対しエビデンスのある有効な治療法は現在存在しない。

脳外傷はまた、神経後遺症を高頻度に生じ、性格変化、高次脳機能障害、認知機能障害、運動・知覚機能障害など、患者本人ならびに家族に種々の負担を負わせることも稀ではない。

今回の研究では、ラットを用いて脳外傷のモデルを作製した。このモデルラットでは、受傷局所において神経細胞の核内にあるタンパク質「HMGB1」が細胞外に放出されることがわかった。

そこで、研究グループが脳の血液-脳関門を護る働きがあることをすでに突き止めている「抗HMGB1単クローン抗体」を受傷後投与したところ、脳の腫れと脳血管の透過性亢進を80%以上抑制することに成功したのである。同時にラットの麻痺側患肢の運動も、著明に改善された。

脳外傷時には、脳内炎症が同時に発生するが、炎症反応に関係する分子の遺伝子発現も抗HMGB1抗体の投与で強く抑制された形だ。抗体治療は、受傷後3時間で投与しても50%以上脳の腫れを抑制できたので、実際の臨床現場での使用に可能性を開くと考えられるという。

今回は、ラットの脳外傷モデルを使って得られた成果だが、治療効果の程度が非常に大きく優れていること、実際の臨床現場に即した受傷後の治療薬投与でも効果が認められたことから、非常に有望な臨床治療薬になる可能性を秘めている。研究グループは臨床応用に向けて、今後も研究を続けていく予定とした。