「いつでも、どこでも、一人でも多くの人においしいコーヒーを届けたい」を創業精神に、農園における原料の栽培から加工、販売、そして品質保証まで、コーヒーに関わるあらゆる事業を手がけるUCC上島珈琲(以下UCC)。同社では、オフィス、ホテル、外食等の業務向け及びご家庭に向けたコーヒーシステム・サービスとして、「DRIP POD」を提供している。

本格的なコーヒーがボタン1つで楽しめる手軽さとバラエティ豊かな抽出用カプセルから、多くの好評を得ているDRIP POD。しかしその一方で、カプセルの在庫管理や提供タイミングについての課題を抱えていた。そして、その課題解消の手段として取り組んでいるのが、コーヒーマシンのIoT化プロジェクトである。

本記事では、このIoT化プロジェクトの担当者であるソロフレッシュコーヒーシステム事業開発部 部長の西野 壮平氏に話を伺い、同プロジェクトがもたらした効果と可能性について解説する。

  • プロのハンドドリップをボタンひとつで実現するUCC独自開発のDRIP PODと、厳選された14種類のコーヒー・紅茶カプセルが楽しめるDRIP POD

    プロのハンドドリップをボタンひとつで実現するUCC独自開発のDRIP PODと、厳選された14種類のコーヒー・紅茶・お茶カプセルが楽しめるDRIP POD

在庫管理及び配送の効率化による環境に配慮した新しい飲用体験の創出としてIoTを検討

DRIP PODの定期サービスでは、密封パックされたコーヒーや紅茶などのカプセルが毎月一定数提供される。カプセルは14種類の中からユーザーが自由に選ぶことができるが、どうしてもカプセルの消費ペースに差が生じてしまう。

ユーザーが定期便を利用する場合はユーザー本人からのリクエストで出荷月を調整することや単品購入を合わせることで、ある程度は在庫のバランスをとることも可能だ。だが、ユーザーが最適な在庫数を常時確保できるようになることは既存のシステムでは難しかった。

結果として、在庫切れを起こす商品や、賞味期限が切れて破棄せざるを得ない商品が生じてしまう。また、配送の回数が増加するとともにCO2排出量の増加にも繋がる。これは、ユーザーの飲用体験や環境への取組観点から考えて、決して好ましい状況とは言えない。この状況を解決する手段として西野氏が着目したのがIoTの活用だった。

「あらゆるものがインターネットにつながるIoTの技術を活用すれば、カプセルの使用状況をリアルタイムで収集することができます。そのデータを見える化して、配送する協力会社や販売代理店に提供できれば、適切なタイミングで適切な量の商品をお客様の元にお届けできるようになると考えました。そうなれば、お客様は余り過ぎる事も在庫切れを心配することもなく、いつでも、自分の好きな飲料を楽しめることができ、さらには配送の効率化によるCO2削減や食品ロスの減少が可能になるはずだと考えました」(西野氏)

  • ソロフレッシュコーヒーシステム 事業開発部 部長 西野壮平氏

    ソロフレッシュコーヒーシステム 事業開発部 部長 西野壮平氏

京セラとの二人三脚で続けた試行錯誤

IoT化へのチャレンジを決意したUCC。しかし、コーヒー一筋に歩んできた同社には、IoT化を実現するための知識も経験も十分なものとは言えなかった。そこで西野氏は、様々な企業とコンタクトをとり情報を収集。そして「私たちの想いをもっとも汲んでくれるパートナー」として選んだ相手が、長年の携帯電話や通信モジュールの開発・製造経験を活かしIoT通信機器を提供している京セラだった。

コーヒーマシンをIoT化するには、データを取得するためのセンシング機能やインターネットと接続するための通信機能などを追加する必要があった。センサー内蔵の小型IoT機器を開発しており、なおかつハードウェアのカスタマイズ経験も豊富な京セラは、西野氏にとって非常に心強い存在だった。

「コーヒーマシンを設置する場所を京セラさんに伝えると、有線LANやWi-Fiなどではなく、SIMを用いたモバイル接続の方が適していると助言をいただき、『GPS マルチユニット』を活用したマシンのIoT化を提案いただきました」(西野氏)

IoT向けのLTE通信であるLTE Cat.M1(*1)でデータを送信するGPSマルチユニットを使えば、新たに配線工事をしたり既存設備を変更することなく後付けで設置が可能。既に無線通信機器としての認証を取得済のためIoT化したコーヒーマシンで新たに認証を取得する必要がなく、また小型であるため、既存のコーヒーマシンへの取り付けも難しくはない。

しかし、コーヒーマシンのIoT化は、UCCはもちろん京セラにとっても初めての経験だ。当初はカプセルの在庫を効率化するためには、どのような情報が必要か。その情報を得るためには、何を検出すべきか。その仕様を決定するために、何度となく議論を繰り返したとのことだ。

「例えば、抽出ボタンを押した回数を検知すれば、使用した量の情報は収集できます。では、カプセルの種類は何を検出すればわかるのか。それらの情報を配送会社や販売代理店の方々にも分かりやすいように見える化するにはどうすればいいか。そのような検討に5ヶ月ほど費やしました。京セラの皆さんも、親身になって根気強く付き合っていただき、そしてなんとか実証実験ができる段階まで来たというのが現状です」(西野氏)

  • 内蔵のGPSと3つのセンサーで人・物の位置追跡や状態監視が手軽に実現する京セラの「GPSマルチユニット」

    内蔵のGPSと3つのセンサーで人・物の位置追跡や状態監視が手軽に実現する京セラの「GPSマルチユニット」

2018年10月にキックオフされた同プロジェクト。仕様のアイデアをまとめ、プロトタイプを作成して検証実験を重ね、そして2019年10月に開催されたCEATEC2019でIoT化されたコーヒーマシンが初披露された。実証実験では、クラウド上で一元管理された在庫情報の活用により、在庫管理や配送の効率化はもちろんのこと、営業活動のリソースやコストも低減され、新規開拓のフォローなどに工数を振り分けることが可能となった。

  • オフィス・飲食店用一杯抽出システム DP2000のIoT実証機

    オフィス・飲食店用一杯抽出システム DP2000のIoT実証機

IoTの活用で「その時、その場所、その人に、最適なコーヒー」を

「今はまだテスト段階なので、これからいろいろ検討と改善を繰り返していく必要があります。先ほど挙げた種類の選別については、今でも苦労しています。ここは非常に重要なポイントなので、京セラさんと相談しながら慎重に進めていきたいと考えています。IoTの用語も構造もよくわかっていない私たちを親身になって支えていただいている。京セラの皆さんには感謝しています」と西野氏は語る。

本プロジェクトの先には、まだまだ様々な可能性が広がっている。 在庫管理と配送のコストがさらに軽減されれば、オフィスだけではなく一般家庭でも気軽に楽しめるカプセルの数と価格のサービスが提供できるようになるかもしれない。また環境に配慮したシステムの中で、ユーザーはその時の状況や気分にあった最もおいしいコーヒーやお茶を自分の好きなタイミングに、1杯ずつだれでも手軽に味わうことが可能となる。

緊急事態宣言も解除されたとはいうものの、まだ外出を控えたい中、好きなものを食べたり飲んだりすることも難しい状況が続いている。さらにこれからは、オフィスではなく自宅で仕事することも増えてくることだろう。 UCCの創業理念である「いつでも、どこでも、一人でも多くの人においしいコーヒーを届けたい」を実現するためには、今以上に幅広い層に向けてサービスを提供していく必要がある。本プロジェクトによって、現在そして将来のライフスタイルに適した新たな飲料提供サービスが登場することを期待したい。

京セラ担当者より


京セラ担当者

UCC様の課題解決のためのIoTシステム構築に仕様のアイデア出しから参加させていただき、これまでの通信機器開発では得られない経験を積むことができました。 GPSマルチユニットと既存の機器を組み合わせることは初めてのチャレンジでしたが、簡単にIoT化が可能であるということを証明するよい事例になりました。 この経験を活かし、様々なお客様の価値創出、課題解決に貢献していきたいと思います。

<注釈>
*1 3GPPがリリース13で規定したLPWA用無線通信規格

※LTEは、ETSIの商標です。
※その他社名および商品名は、それぞれ各社の登録商標または商標です。

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