ゲーム業界において、これまでユーザーが体験する範囲は、ゲーム機の中のパーソナルな空間に集約されていました。しかし現在ではそれがゲーム機の外にまで拡大しており、インターネットを利用した外部交流なども盛んに行われています。Webやマスメディア、リアルな交友などあらゆる接点を駆使して「サービスとしてのユーザー体験」を提供することが、昨今のゲームメーカーには求められているといえるでしょう。こうした時代の変遷をかねてより見据え、優れたユーザー体験を提供し続けているのが、株式会社カプコンです。

同社が注力するのは、「ゲームを楽しんでいるユーザー」に向けたWeb活用です。2010年という早期からこれに取り組んできた同社では、2017年、秒間500件ものI/Oにも対応できる拡張性を確保すべく、Webサービスの提供基盤をパブリッククラウドへ移行します。PaaSによる拡張性とゲーム基盤としての親和性、そして対応力を評価して同社が採用したのは、マイクロソフトが提供するMicrosoft Azureと株式会社インターネットイニシアティブが提供するIIJ GIOを組み合わせたマルチクラウドでした。

株式会社カプコンが運営するWebサービス、「RESIDENT EVIL.NET」

プロファイル

1983年の創業後、「ストリートファイター」シリーズや「バイオハザード」シリーズなど、数々の名作ゲームを世に送り出してきた株式会社カプコン外部サイトへ移動するため、別ウィンドウで開きます。世界有数のゲーム研究開発力を持つ同社は、ゲーム開発のみならずゲームエンジンの開発にも取り組んでおり、さらに ひとつのヒットタイトルを多角的に展開する「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」によって、業界トップクラスの営業利益率を誇っています。

導入の背景とねらい
100万人が利用するゲーム基盤「RESIDENT EVIL.NET」。その I/Oへ柔軟に対応するには、クラウドサービスへ移行する必要があった

株式会社カプコン制作部 第四制作室 金森 恒治氏

横スクロール型アクション ゲームの名作「ロックマン」シリーズ、対戦格闘ゲームのブームを生み出した「ストリートファイター」シリーズなど、株式会社カプコン(以下、カプコン)は古くから、先駆者的なタイトルをいくつも生み出してきました。同社は近年、代表作である「バイオハザード」シリーズのユーザー向けに「RESIDENT EVIL.NET」を提供するなど、ゲームだけで完結しない「ユーザー体験の創出」にも注力しています。

株式会社カプコン 制作部 第四制作室 金森 恒治氏は、同社におけるユーザー体験の取り組みについて、次のように説明します。

「インターネットの普及にともない、ユーザーの余暇の使い方が多様化しています。今後もお客様の心をつかみ続けるには、優れたゲームの提供も然ることながら、いかにして『ゲーム機と接していない時間』で接点を生みだすかも重要となっています。我々のチームが注力しているのは、そのための、『ゲームを楽しんでいるユーザー』に向けたWeb活用です。いまでこそ類似のWebサービスは増えていますが、当社では2010年から先んじてこの取り組みを続けてきました」(金森氏)。

カプコンは『ロストプラネット2』を発売した2010年より、同社初のWeb連動サービス「コマンドコロニー」を提供開始しています。さらに2年後の2012年からは、前述の「RESIDENT EVIL.NET」も提供を開始。『バイオハザード6』の発売と同時期から提供を開始した「RESIDENT EVIL.NET」上で、ユーザーは、自動集計されたセーブデータを閲覧しながら全世界のプレイヤーの動向を参照したり、競ったりすることが可能です。

このような連動Webサービスを提供するうえで考慮せねばならない事項に、サービスの安定提供が挙げられます。「たとえば『RESIDENT EVIL.NET』では、ユーザーが実機側でセーブするたび、連動Webサービスの基盤にあるデータベースと通信が行われます。仮に基盤側で不具合が発生した場合、連動Webサービスが利用できなくなるだけでなく、実機側のゲームにも影響を与えてしまいます」と金森氏が語るように、連動Webサービスに発生する障害は、ゲームタイトルがもつブランド、そして企業イメージに深刻なダメージを与えてしまうのです。

障害発生を防ぐには、まず、ピーク時のI/Oに対応可能な基盤を整備せねばなりません。しかし、ユーザーのセーブ頻度は、発売直後か否か、イベントやキャンペーンが走っているかどうか、そしてどの時間帯かなどによって大きく増減します。「バイオハザード」シリーズの場合、そのユーザー数は100万人にも達します。「ユーザー数×セーブ回数」という、膨大かつ不規則なI/Oに耐えるためには、高い可用性、そして柔軟な拡張性が基盤に求められるのです。

この連動Webサービスの提供基盤(以下、ゲーム基盤)について、カプコンはこれまで、株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)の提供する「iBPS(Integration&Business Platform Service)」を利用してきました。しかし、iBPSの運用開始から数年が経過した 2015年末、同社はこの基盤の刷新を計画します。

iBPSでは、基盤だけでなくその運用についてもIIJへアウトソースしていました。仮に提供基盤を刷新する場合、運用体制もゼロベースで見直す必要があります。しかし、こうしたハードルを越えてでも、移行を進めることには大きな意義があったと、株式会社カプコン UX デザインプロダクション室 内田 哲治氏と林 裕輔氏は語ります。

株式会社カプコン UX デザインプロダクション室内田 哲治氏

株式会社カプコン UX デザインプロダクション室林 裕輔氏

「iBPSは、オンプレミスに近い可用性を持ちながら、拡張性も確保できる優れたサービスです。ただ、それでもリソースの増減には数日を要しました。実は『バイオハザード6』の発売時、ピークタイムで必要なリソースに対応が追いつかず、サービス提供が不安定になる事態が発生しました。その際、リアルタイムにリソースを増減できるパブリッククラウドへの移行を考えたのですが、2012年はまだ、パブリッククラウドについて信頼性、性能の面で懸念がありました。しかし、今後もユーザー体験を提供し続けていくうえで、柔軟な拡張性を持つ基盤獲得は必須といえます。また、時を経て、テクノロジーの発展も相まって、パブリッククラウドに対する先の懸念は払拭されつつありました。本格的な移行期を迎えていると判断し、再度、パブリッククラウドの採用を検討したのです」(内田氏)。

「パブリッククラウドは、使い勝手や求められる技術などが事業者間でさまざまです。可用性を維持するには、選定したクラウドサービスへの十分な理解のもとで運用することが求められます。これを目指すのであれば、構築と運用を支援するベンダーについてもゼロ ベースで選定せねばなりません。数年の取引によってIIJと当社では信頼関係も構築できており、運用方針なども十分に理解いただいていました。しかし、これまでの関係性を考慮せず検討を進めることが当社にとっては最適と判断し、まずは基盤となるクラウドサービスを選定する、その後、選定したサービスの構築と運用に長けたベンダーを選定するという方針で、計画を進めました」(林氏)。

システム概要と導入の経緯、構築
PaaSによる拡張性とゲーム基盤としての親和性、そして対応力を評価し、Azureを採用

最適なゲーム基盤を獲得すべく、カプコンはまず、市場にあるクラウド サービスのマッピング作業を実施します。「可用性」や「コスト」、「セキュリティ」などさまざまな角度からサービスを分類し、その後、実際に採用するサービスについて比較検討を実施。この結果、同社はマイクロソフトが提供するAzureの採用を決定します。

市場にある幾多のサービスからAzureを採用した理由として、内田氏は次のように説明します。

「当社のゲームタイトルは、日本だけでなく全世界で提供しています。当然、連動Webサービスについても全世界のユーザーが対象となります。各国からデータを収集してそれをWebに反映する。これを安定提供するうえで、今後もしかすると、各国のデータセンターの利用を検討するかもしれません。これを想定した場合、全世界にリージョンを構えるサービスであることが必要条件だったのです。Azureはこの点に適合することに加えて、Xboxを提供するマイクロソフトのサービスである点で、大きな優位性を有していました」(内田氏)。

カプコンが提供するゲームタイトルはマルチプラットフォームで提供するものが多く、Xboxでも複数のタイトルを提供しています。内田氏は、「各プラットフォームの独自技術がゲーム基盤に影響する場合もあります。Azureは、自らもゲームプラットフォームを提供するマイクロソフトのクラウドサービスですので、ゲーム基盤との親和性が高いことを期待しました」と語ります。

また、豊富に取り揃えられているPaaSの存在も、カプコンが高く評価した点でした。Azure Machine LearningといったPaaSを活用することによって、「RESIDENT EVIL.NET」から収集するセーブデータの活用範囲の拡大が期待できたのです。

さらに金森氏は、こうした基盤としての優位性に加えて、マイクロソフトの対応力も、採用の理由として大きかったと語ります。

「検討時、各事業者に対して問い合わせを行いましたが、速度、内容、姿勢といった対応力についてはマイクロソフトが群を抜いていました。クラウドに対する世の中の印象は変わってきています。しかし、それでもパブリッククラウドの可用性に不安があることは事実です。安定稼動を実現するためには、人の手が引き続き欠かせず、そこではベンダーだけでなくサービス事業者の十分なサポートも必要です。マイクロソフトは、基盤だけでなくサポート面からも、可用性の担保に貢献してくれるだろうという期待がありました」(金森氏)。

金森氏が語る対応力は、ベンダーを選定する段階でも大きく重視されることになります。ゲーム基盤へのAzure採用を決定したのち、カプコンはベンダーの選定を開始します。その結果、同社は、新たなゲーム基盤についてもIIJをベンダーへ採用することを決定しました。

林氏は、ベンダーの選定においては、技術力と実績だけでなく、先の対応力も重視したと語ります。

「IIJはデータセンター サービスだけでなくクラウドに関しても優秀な技術を有していると感じていました。しかし、ほかにも同水準の技術を有するベンダーは存在します。このような状況にあって優劣を決めるのは、最終的には対応力になります」(林氏)。

林氏は続けて、IIJを選定した理由について、同社の対応で驚いたエピソードを交えながら説明します。

「IIJには『iBPSからAzureへ切り替える』『ベンダーを切り替える』旨を明示していました。しかし、そのような中でも、IIJは当時のiBPS環境を極めてていねいに運用し続けてくれました。契約の終了が見えている中、それでも支援をしっかりと継続いただける姿勢は、実はそう多く見られるものではありません。同水準の技術力を備えるほかのベンダーと比較検討を進める中、こうした対応に表れるIIJの誠実さは、同社を選択する十分な理由だったといえるでしょう」(林氏)。

導入の効果
IIJとの強固なパートナー シップによって、短期で高可用性をもったゲーム基盤を獲得

カプコンがベンダーにIIJを選定したことは、その決定後、思わぬ価値を生むこととなります。第四制作室、UXデザインプロダクション室ではゲーム基盤に加えて、各連動Webサービスのアカウント情報を横断的に利用できる「CAPCOMアカウント」の運用も行っています。同社では当初、CAPCOMアカウントの提供基盤についてもAzureの利用を構想していました。しかし、複数サービスのアカウントを一元管理するという特性上、万が一同基盤に不具合が発生した場合、その影響範囲は多岐にわたることとなります。ゲーム基盤と比較した場合、拡張性の要件はそれほど高くない一方、信頼性は同水準かそれ以上のものが求められたのです。

カプコンアカウント

リスク分散も考慮すれば、単一のクラウドサービス上で全基盤を運用するのではなく、クラウドサービスを適材適所で併用する、つまりマルチクラウドを採用することが最適といえます。IIJが提供するクラウドサービス「IIJ GIO」は、CAPCOMアカウントの要件に適合しており、また、マイクロソフトのクラウドソリューションプロバイダープログラム(CSP)によって、異なるクラウドサービスの構築、運用、商流すべてをIIJのワンストップサービスとして利用することも可能でした。

こうした背景から、カプコンでは、IIJが提供する「IIJ統合運用管理サービス」を利用し、高い拡張性が求められるゲーム基盤にはAzureを、高い信頼性が求められるCAPCOMアカウントにはIIJ GIOを採用することに決定。2016年6月のキックオフからわずか半年後の12月より、新たな環境のもとでサービスの提供を開始しています。

新たなゲーム基盤の構成図

同取り組みを支援した、株式会社インターネットイニシアティブ 関西支社 営業部 営業 3 課 課長 東岡 純一氏と、同じく関西支社 技術部 プロフェッショナルサービス 2 課 リードエンジニア 梅村 泰佑氏は、マイクロソフトの密な支援があったことが、高可用性をもったサービス基盤を早期に構築できた理由だと語ります。

株式会社インターネットイニシアティブ 関西支社 営業部 営業3課 課長 東岡 純一氏

株式会社インターネットイニシアティブ 関西支社 技術部 プロフェッショナルサービス2課 リードエンジニア 梅村 泰佑氏

「キックオフ後、まずマイクロソフトに協力いただき、2か月間の技術検証を実施しました。金森様も語ったとおり、ゲーム基盤には非常に高い可用性が求められます。高水準のSLAを担保し、それでいて高いIOPSを実現するためには冗長化の設計を工夫せねばなりません。そのためのノウハウを技術検証で習得することができたため、構築、検証作業は非常にスムーズに進行できました」(東岡氏)。

「安定稼動を継続するには、運用をメインで行うIIJ側で、AzureとIIJ GIOの両環境を効率的に監視せねばなりません。当社では Azure 環境と閉域網で接続する『IIJクラウドエクスチェンジサービスfor Microsoft』を整備しています。これを活用して両環境の死活監視とサービス接続監視を行うことによって、セキュアかつ効率的な監視体系を実現しました。早期にサービスインできたこと、そして可用性の高い環境を整備できたことは、当社とマイクロソフトとの強固なパートナーシップがあったからこそだと感じています」(梅村氏)。

ところで、カプコンではサービスインから1か月後となる 2017年1月に、業界から注目を集める『バイオハザード7』の発売を控えていました。ゲーム基盤への多量のI/Oが推測された中、ゲーム基盤の可用性と拡張性が向上したことを要因として、『バイオハザード7』の発売後も連動Webサービスは安定提供を継続しています。金森氏はそこで、同プロジェクトが成功したことを実感したと、笑顔で語ります。

「重ねてにはなりますが、ゲーム基盤の不具合はゲーム自体の動作不具合につながる大きな問題です。発売したばかりのタイトルでエラーが発生してしまうと、その影響は見当もつかない範囲まで及んでしまいます。『バイオハザード7』の発売を控えた当時、IIJとはインシデントの発生を避けるための協議を進め、ピークタイムには秒間500件のI/Oが発生することを構想して検証を進めました。実際、発売時には瞬間的ながら、想定に近いI/Oが発生しました。しかしそれでも、無事に安定提供を継続することができています。この『安定稼動の継続』だけでも、ゲーム基盤をAzureへ移行したことは成功だったと感じています」(金森氏)。

今後の展望
Azureを活用したデータ分析も視野に、いっそう価値のあるユーザー体験を目指す

カプコンでは現在IIJの支援のもとで、マルチクラウド環境の使用リソース、そこで投じる運用リソースの最適化に向けた取り組みを進めています。これにより、今後、インフラ管理に要するコスト、工数はいっそう削減されていくことでしょう。

「今回構築したマルチクラウド環境では、ポータルサイト上からAzureとIIJ GIOの両環境のリソース状況が可視化できます。各環境の状況をモニタリングし、それをもってIIJと協議を進めることで、コスト、工数の最適化を進めていきたいと考えています。まだ稼動を開始したばかりですので細かなチューニングはこれからですが、現時点で、すでに従来比3割ほどのコストが削減できています」(林氏)。

第四制作室、UXデザインプロダクション室の本業は、インフラの運用ではなく、ユーザー体験の企画と実行です。そこに必要な予算、そして人的リソースを捻出できるようになったことは、今回のプロジェクトの大きな効果だといえるでしょう。金森氏は、そこで生まれる予算、人的リソース、そしてクラウドという柔軟なプラットフォームを活用することで、顧客から支持されるユーザー体験をより今後も提供していきたいと語ります。

「『バイオハザード』シリーズ以外の連動Webサービスでも、今回構築した基盤を利用していく予定です。Azure App Serviceなどを活用すれば、インフラだけでなくミドルウェア側を考慮せずに運用できるようになるでしょう。それだけでも、コンテンツの企画と実装にいっそう注力できるようになります。ほかのPaaSを活用すれば、もっとおもしろい体験をユーザーへ提供できるかもしれません」(金森氏)。

ゲーム業界の中でも早期からユーザー体験に注力してきたカプコン。AzureとIIJ GIOを活用したマルチ クラウド環境を得たことで、同社が提供するユーザー体験がいっそう価値の高いものとなることは間違いないでしょう。斬新なゲームで世界を魅了してきた同社が今後、どのようなユーザー体験を提供していくのか、期待が高まります。

「ゲーム基盤の不具合はゲーム自体の動作不具合につながる大きな問題です。発売したばかりのタイトルでエラーが発生してしまうと、その影響は見当もつかない範囲まで及んでしまいます。『バイオハザード7』の発売を控えた当時、IIJとはインシデントの発生を避けるための協議を進め、ピークタイムには秒間500件のI/Oが発生することを構想して検証を進めました。実際、発売時には瞬間的 ながら、想定に近いI/Oが発生しました。しかしそれでも、無事に安定提供を継続することができています。この『安定稼動の継続』だけでも、ゲーム基盤をAzureへ移行したことは成功だったと感じています」


株式会社カプコン
制作部
第四制作室 金森 恒治氏

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