日本を代表する産業プラントの総合エンジニアリング企業である東洋エンジニアリング株式会社は、日本をはじめ、アジア、欧州・ロシア、北米・中南米に拠点を待ち、世界中の産業プラント建設プロジェクトに携わっています。

設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)の工程を一括して請け負う EPC ビジネスを展開しており、統合的な技術力を持っているのが強みです。EPC のビジネスモデルでプロジェクトを遂行するには IT のサポートが不可欠なため、同社では全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを本格化させています。

その DX を成功させるには基盤となる IT インフラが重要な役割を担います。そこで同社の IT システムの運用・管理を担う IT企画管理本部 ITサービス部は、オンプレミスで運用してきた既存の業務システムをクラウド上に移行させるインフラ構築プロジェクトを 2019 年より開始。そのクラウド基盤として採用されたのが「Microsoft Azure」でした。

レガシーシステムの課題を解決するためクラウドへの移行が決定

東洋エンジニアリング株式会社 IT企画管理本部 ITサービス部 部長 丹下 秀人 氏

東洋エンジニアリング株式会社 IT企画管理本部 ITサービス部 部長 丹下 秀人 氏

東洋エンジニアリングが DX を本格化させたのは 2019 年です。取り組み自体はその前年度から行われてきましたが、当初はIT部門主導で行われていたため、実際の業務部門との関わりが薄く、なかなか進展しなかったといいます。こうした課題を解決するため、2019 年に DXoT(Digital Transformation of TOYO)推進部が新設され、すべての部門を横断した全社的な取り組みとして、DX の推進が加速されていきました。

そして、効果的な DX を実現するには、IT 活用の土台となるインフラの整備が必要となります。インフラ構築プロジェクトを推進している IT企画管理本部 ITサービス部 部長 の丹下 秀人 氏は、プロジェクトが立ち上がった経緯をこう振り返ります。

「私たちの部署では IT システムの運用・保守を行っていますが、今回のプロジェクトの発端となったのは DX ではなく、社内に数多あるサーバー群の保守切れでした。積極的な IT 投資を行っていなかったこともあり、サーバーの OS バージョンが古かったり、機器もサポートが終了しサードパーティの延長保証サービスを受けていたりと、多くの問題を抱えていました。こうした状況を改善するためにはどうすればよいのか検討した結果、クラウドへの移行や運用の効率化を実現するための本プロジェクトがスタートしたという経緯があります」(丹下氏)。

東洋エンジニアリング株式会社 IT企画管理本部 ITサービス部 村中 和香 氏

東洋エンジニアリング株式会社 IT企画管理本部 ITサービス部 村中 和香 氏

このように、東洋エンジニアリングの中長期的な ICT 戦略として開始された同プロジェクトは、既存の IT インフラが抱える課題を解決するための取り組みでしたが、同社が DX を推進するうえでも重要な役割を担うことになりました。プロジェクトリーダーである IT企画管理本部 ITサービス部 村中 和香 氏は、オンプレミスで構築されていたこれまでの IT インフラには、フレキシビリティの面でも課題が多く、クラウドへの移行は必然だったと話します。

「こういうシステムを作りたい、この業務を行うためのサーバーがほしいといった業務部門からの要求があった際に、オンプレミスではリードタイムが長くなるという問題がありました。予算的な社内手続きなどを含めると数カ月かかるケースも多く、現代のビジネスで重要なスピードに対応できなくなります。こうした課題を解決するために、クラウドの採用に踏み切ったという経緯もあります」(村中 氏)。

クラウドへの移行自体は本プロジェクトが始動する前から決定されており、すでに一部のシステムはクラウド上での運用が行われたといいます。そのなかで表面化してきたコスト面・運用面での課題をふまえて、本プロジェクトで本格的なクラウド移行計画が立てられました。その計画の中核を成すクラウド基盤に同社が採用したのが Azure です。その経緯について丹下 氏はこう語ります。

「クラウド基盤はさまざまな選択肢から検討しましたが、弊社で運用しているサーバーに Windows サーバーが多かったことや、開発部門の DevOps 環境構築プロジェクトで Azure の採用が検討されていたことなど、さまざまな要因から Azure の採用を決定しました。オープンソースを積極的に取り入れていくというマイクロソフトの Azure 戦略も、選択を決めた大きな要因といえます」(丹下氏)。

まずは Azure 上に 3D CAD システムを移行

こうして、オンプレミスの既存 IT システムを Azure 上に移行させる構築フェーズがスタートします。最初の移行対象となったのは、プラント建設用の CAD システムでした。丹下 氏はその理由をこう語ります。

「プラント設計を行う CAD のワークステーションに保守切れが迫り、迅速に対応する必要がありました。コストや更新の手間を削減したいユーザー部門から『Azure 上に作ってほしい』というリクエストもあり、CAD システムからクラウド移行を開始することにしました」(丹下 氏)。

村中 氏は、CAD のワークステーションに求められるスペックを Azure の機能で簡単に実現できることも、最初の対象に選んだ理由だったと振り返ります。

「ユーザー部門からの要求があったことに加え、高い GPU 性能が必要という CAD システムの特性も、最初の対象にした大きな要因です。Azure ならば GPU 付きの VM(仮想マシン)が簡単に構築できるので、ユーザー部門がその効果を体感できます。プロジェクトを継続的に進めるにあたって、早い段階でユーザーに効果を見せることが重要だと考えており、その意味でも CAD システムから始めたのは正しかったと思います」(村中 氏)。

実際に CAD システムを Azure 上に構築する作業は、構成を検討して VM を立てるまでに 3 カ月程度、そこから 1 ~ 2 週間でユーザーが利用できるようになったといいます。一度システムを構築してからは、ユーザーのリクエストから最短 1 週間程度でワークステーションの VM を用意できる体制を実現できたと村中 氏。オンプレミスの環境では不可能なスピード感でシステムを提供できるようになったことを喜びます。

  • システム概要図

    システム概要図

業務システムのクラウド移行には数多くのメリットがありますが、その反面、セキュリティ面でのリスク増大を懸念する企業も少なくありません。丹下 氏は、今回のプロジェクトにおけるセキュリティ面での課題についてこう話します。

「採用当初から Azure の IaaS 自体にセキュリティ上の穴があるとは考えておらず、Azure 上に構築するサーバーに対し、どれだけセキュリティに配慮したセッティングを行えるかを重視していました。海外拠点から利用したり、社外の協力会社が利用したりすることを想定していたので、セキュリティを考慮したネットワーク設定をどうするのかというのが課題となりました。現在もこうした設定面での対策は続けています」(丹下 氏)。

Azure 上に構築された CAD システムについて、実際に使用したユーザーからは好評を得ているといいます。「これまで何年も前に購入したワークステーションを使い続けてきたこともありますが、Azure 上のワークステーションを使って『前より速くなった』という声をいただいています。」と村中 氏。要求に応じたハイスペックな VM を迅速に用意できることや、従量課金制を採用し 1 カ月単位で利用できることなど、クラウドのメリットを見せることができたと手応えを口にします。

プロジェクトはまだ開始したばかりで、本格的な移行はこれからです、対象となるシステムは多岐にわたり、現在進行形で移行計画が進められています。クラウドの有用性を理解したユーザー部門からは、「今度のプロジェクトでこれくらいの要件のサーバーが使いたい。」といったアドホックな要求が飛び込んでくるようになり、DX の推進と合わせ、クラウド活用の効果が全社的に浸透し始めています。

マイクロソフトが提供する最新機能を活用し、理想の IT 環境構築を目指す

このように、成果が見えはじめたインフラ構築プロジェクト。今後も継続して社内システムのクラウド化を進めるとともに、クラウド運用の負荷を軽減するソリューションの導入も検討しています。2020 年度は、四半期ごとに 30 台、年度内で 120 台をマイルストーンとしており、3 カ月単位で移行計画を立てていると村中 氏。それに合わせて、構築・運用も含めたコスト削減効果を、プロジェクト単位で定量的に示せるようにしたいと展望を語ります。現段階では、CAD システムが全体で 30 台(ワークステーションは 10 台)、その他のシステムを合計すると 76 台のサーバーが Azure 上で運用されているといいます。

また、現在は基本的に国内を対象としたプロジェクトとなっていますが、今後は海外拠点でもクラウド移行を進めていきたいと丹下 氏は語ります。

「国内での状況が落ち着いたタイミング、または海外協業案件を受注した際には、海外の導入も一気に進めていければと考えています。現在はまだ機能の検証を行っている段階で、そこがクリアできたら、大型案件にも適用させて成果を出していきたいと思っています」(丹下 氏)。

東洋エンジニアリングでは、セキュリティ対策の強化や運用管理の効率化を図るうえで、マイクロソフトが提供する Azure のツール(機能)に注目しているといいます。

「在宅勤務環境のニーズが急増した昨今の状況もあり、『Windows Virtual Desktop』(WVD)に注目しています。全社的な動きではないのですが、すでにテレワークに関する相談が ITサービス部にきており、Azure を導入していることで WVD が一つの解になるのではないかと期待しています。また、セキュリティ対策の強化という意味では、ユーザーが安全に Azure 上の VM にアクセスできるようになる『Azure Bastion』『Azure VPN』にも注目しています。さらに運用管理の面では『Azure Sentinel』で運用の自動化が実現できるのではと期待を寄せています。こうしたツールを活用するうえでは、マイクロソフトの支援が重要になってくると考えています」(村中 氏)。

また、インフラ基盤としてだけでなく、DXの推進に不可欠なアプリケーション基盤として「Microsoft Power Platform」にも注目していると丹下 氏。すでに「Power Apps」などのツールを使って業務アプリの構築・運用を行っている部署も増えてきていると語ります。さらに同社では Office 365 も導入しており、その活用も重要なミッションになっているといいます。

「以前から導入している Office 365 を有効活用しようという機運が社内にあり、マイクロソフトが提供する『FastTrack』によるサポートには大きな期待を寄せています」(丹下 氏)。

東洋エンジニアリングにおける DX は今後ますます加速していきます。レガシーなシステムをモダナイズしてクラウド上に構築するという取り組みにおいて、クラウド基盤の重要性はいうまでもありません。同社の Azure 活用はプラント業界における IT 環境の礎となることが期待され、今後の展開からも目が離せません。

  • 東洋エンジニアリング株式会社

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