AIとIoTの機能を掛け合わせたシャープ独自の「AIoT家電」。インターネットを経由して家電をクラウドにつなぎ、AIが宅内の状況やユーザーの使い方を学習することで、より快適で便利なサービスを提供してきました。
そんなAIoT家電を活用して、シャープは現在さまざまな社会課題の解決に取り組んでいます。たとえば、災害時にAIoT家電のログデータを取得し、稼働台数の減少数を算出することで停電状況を予測したり、家電の使用状況をもとに遠隔で高齢者の安全を見守るサービスを構築したりするなど、「人と社会に寄り添うIoT」をテーマに活用の場を広げています。
そこで今回は、シャープの担当者にインタビューを実施。AIoT家電でどのように社会課題の解決を目指しているのか、活用最前線をお届けします。
いつも人のそばにある。AIoT家電が社会課題解決の鍵を握る理由
お話を伺ったのは、Smart Appliances & Solutions事業本部 Smart Life事業統轄部 AIoT事業推進部に所属する長沢さん、佐藤さん、関川さんです。
そもそもAIoTとは、AI(Artificial Intelligence:人工知能)とIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を組み合わせて創った造語で、シャープの登録商標。機器の状態確認や遠隔操作といった一般的なIoT家電の機能に加え、クラウドを通じて宅内の状況やユーザーの使い方をAIに学習させることで、各々に最適な提案ができます。
2016年に登場して以来、AIoT家電は住む人に寄り添い、より快適で便利な暮らしに貢献してきました。
そんなAIoT家電が社会課題解決の切り札として注目されるようになったのは、2019年が転機だったと責任者の長沢さんが振り返ります。
元々、キッチン家電やエアコン・空気清浄機、洗濯機などは、家電の用途ごとにクラウドサービス(アプリ)を提供していました。そして、2019年にシャープ家電を集約するトータルアプリ「COCORO HOME」をリリースし、ユーザーメリットを追求した結果、真のスマートホーム化に向けて他社の製品やサービスとも連携するようになっていきました。 そういった新しい取り組みに興味を持ってくれた様々な分野の方との交流の中で、防災や高齢者見守り、業務の効率化などにも活用できるのではないかと気づいたのです。 |
家電にかかる期待が大きいのは、ほとんどの人が所有し、毎日使用する生活必需品だからに他なりません。いつも人のそばにある。家電ならではの特性が、社会課題解決の鍵を握っていると考えられているのです。
フェーズフリーなAIoT家電で“頑張らない防災”を。防災・減災に手応えを感じた2つの試み
AIoT家電によってアプローチできる社会課題のひとつが、防災・減災です。2024年1月に発生した能登半島地震では、AIoT家電の稼働率を表すデータが、地域ごとの被害状況との類似が見られたとのこと。
能登半島地震においては交通インフラが麻痺したため、全貌を把握するのに相当な時間がかかりました。実用化に向けて自治体と協議を続けている中で地震が起こったため、実用に至らなかったのは残念でしたが、被害状況を速やかに推測するのに役立つと評価していただいています。 |
防災・減災においてAIoT家電が着目された経緯には、逆転の発想があったのだとか。当時はエアコンのAIoTを研究していた佐藤さんが明かしてくれました。
ユーザーに合わせた省エネ運転や良質な睡眠を促す機能について試行錯誤を続けていたのですが、インターネット接続の切断が課題でした。時系列にデータを抜き出すと、所々インターネットの接続が切れていて、どうしても“データの抜け落ち”が発生してしまいまして……。ただ、このことを防災科学技術研究所(以下:防災科研)の取出さまにお話したところ、「宝物だ」と仰ったんです。 |
「一軒の家のデータが抜け落ちているのなら、たまたま接続が切れただけかもしれない。しかし、周辺のエリア全体でデータが欠落していたら、それは停電を指し示しているのではないか」
デメリットと思い込んでいた佐藤さんは、取出さんの意見に舌を巻いたそうです。防災科研が保有する過去の停電データと、その時期に該当するシャープのAIoT家電の稼働状態を照らし合わると、見事に重なりました。
AIoT家電を活用すれば、停電エリアをいち早く把握できるようになる。自信が芽生えましたね。 |
シャープの防災・減災への取り組みに対して、取出さんからはこんなコメントをいただきました。
取出新吾さん
国立研究開発法人 防災科学技術研究所所属。シャープのAIoT家電による防災活用の実証実験に参画するなど、防災に関する幅広い知識を生かして同社の取り組みを支えている。
IoTから得られるビッグデータは様々な用途に活用可能で、スマートフォンの普及により交通状況が見られるようになったのも事例の1つです。今回検討の家電の防災活用では、その好事例を一緒に示すことができました。
この取り組みを進めることで、生活に役立つという家電本来の役割を超え、人の営みを、命を守るといった、家電に新たな使命を持たすことが可能となると考えています。
また、AIoT家電による防災・減災の取り組みは、これまでに茨城県つくば市でも行われています。
自治体では防災無線を使用して避難指示を発していますが、例えば台風や豪雨のときには放送が宅内まで伝わらないことが少なくありません。「天候に影響されることなく、宅内にいる住民に確実に防災情報を届けたい」という課題意識を持っていらっしゃったつくば市の危機管理課からご提案いただき、ある実証実験をしてみたところ、伝達効果は高く、有意義な成果を得られました。 |
実証実験では、発話機能を持つシャープ製の冷蔵庫、エアコン、空気清浄機をお使いの住民の方のご協力を得て、防災に関する豆知識を1週間にわたって発信。その結果、恣意的に盛り込んだ日替わりのキーワードを認知した割合は86%に上ったそうです。
まだ実用化に至ってはいないものの、この実証実験は「PHASE FREE AWARD (フェーズフリーアワード)2023」で一般投票による「オーディエンス賞」を受賞しました。
「いつも(日常時)」と「もしも(非常時)」の垣根を越えて生活の質を向上させようとする「フェーズフリー」という防災に関わる新しい概念がありますが、誰もが日常的に使っている家電は象徴的な存在になりえます。 フェーズフリーなAIoT家電を利用する住宅が増えれば、自ずと地域全体の防災対応力が高まりますので、自助はもちろん、共助の輪が広がっていくはずです。 |
昨今の災害により防災意識・関心は高まってきていますが、日頃から備えを十分に行うのは難しいことでもあります。だからこそ、フェーズフリーなAIoT家電によって“頑張らない防災”を目指していきたいと力を込めました。
高齢化社会の課題にもアプローチ!三方良しの高齢者見守りサービスが石川県能美市でスタート!
そして、シャープのAIoT家電は高齢者の見守りにも活用されようとしています。2024年4月、石川県能美市が見守りを必要とする高齢者から、利用希望者を募り「IoT高齢者見守りシステムサービス」をスタート。IoT家電を通して市の関係機関・支援者が遠隔で見守るサービスで、三菱電機のエアコンとともにシャープの空気清浄機に白羽の矢が立ちました。
能美市は、スマートインクルーシブシティ構想を掲げて「だれ一人取り残されないスマートであたたかなまち」を目指されています。高齢者が安心して生活し続けられる環境を整えるために始まったのが「IoT高齢者見守りシステムサービス」です。複数メーカーのIoT家電を活用した自治体の見守りサービスは、全国初※なんですよ。 |
※IoT機能を持つ複数メーカーの生活家電で、地域高齢者らを見守るシステムとして。(2023年10月2日時点、シャープ調べ)。
空気清浄機とエアコンの使用状況から、プライバシーに配慮の上でデータを高次化処理し、市の関係機関・支援者は見守り対象宅の状態を把握。温度や湿度といった空気環境の危険度や生活リズムの乱れなどから、訪問しなくても対象者宅の状況や高齢者の生活の傾向が遠隔でわかるため、見守る側の負担軽減にも一役買っています。
当社の空気清浄機ではセンサーを駆使して、生活リズムが変わってないかの把握もできるようにしています。ちなみに空気清浄機が採用されたのは先行して標準規格に対応していたからで、今後は他の製品にも拡充予定です。 |
高齢者の見守りにも共通しているのが、先ほどのフェーズフリーの考え方。見守られる側からしても、新しい機器の購入やカメラの設置を求められると、経済的・心理的な負担が大きくなると長沢さんは話します。
自宅にある家電を使いながら普段通り生活しているだけで見守られている安心感があるのが特徴です。能美市としてはスマートインクルーシブシティの実現に近づきますし、支援するケアマネさんたちの負担も減る。三方良しのサービスといえるのではないでしょうか。 |
実際に「IoT高齢者見守りシステムサービス」をスタートさせた能美市からは、導入前後で明確に変化があったとコメントをいただきました。
既存の情報連携システムのみだとケアマネジャーが訪問する必要があり、東西に広い地理的特徴を持つ能美市では巡回訪問に時間を要するため、異常にすぐ気付けないという課題がありました。 その後「IoT高齢者見守りシステムサービス」を構築したことで、訪問しなくても利用者の状況を「見える化」でき、ケアマネジャーが利用者の状態の変化を把握しやすくなりました。また、経年でデータを取得するため、健康リスクへの「兆候」も捉えることができ、見守られる方の安心につながると期待しています。 |
活用シーンは空調管理にも!シャープのAIoT家電は社会を笑顔にする可能性を秘めている!
さらに、シャープのAIoT家電は介護施設やオフィスの空調管理にも活かされています。エアコンや空気清浄機のセンサーを用いて設置場所の環境を見守ることで、空調を離れたところから適切に調整でき、なおかつ異常時には速やかに気づけるので、業務効率化に加えて、高齢者などの居住者にも、より安心で快適な空間を提供することができます。人手不足が深刻化する今、省力化も推進していかなければならないトピックです。
日本が抱えるさまざまな社会課題を解決に導く可能性を秘めるAIoT家電。最後にビジョンを語っていただきました。
こういった取り組みを知ってもらいたいという気持ちが強いですね。シャープだけで行なっているのではなく、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)に参画し、防災科研をはじめとした研究機関などと連携して進めています。 自治体ごとに課題は違うと思いますので、ご興味があればご相談や意見交換などさせていただきたいです。 |
シャープのAIoT家電は、住宅の中に留まらず、社会の人々を笑顔にできるポテンシャルがあることがここ数年でわかってきました。 地域全体でスマートライフを実現できるよう、ますます進化させていきます。 |
いつ起こるかわからない災害への備えとしての用途しかないとなると、導入を躊躇される自治体の方々もいらっしゃるかもしれません。しかし、住民の生活状況の変化がわかれば、それをもとに都市開発にも拡張できます。防災を含めた住民サービスの向上にAIoT家電を役立てていただければ嬉しいですね。 |
業界で先駆けてIoTに挑戦してきたシャープの先進性とチャレンジ精神は周知されていて、あらゆる相談が持ち掛けられているそうです。シャープのAIoT家電が普及すれば、誰もが今よりもっと快適に暮らせる社会が訪れるかもしれません。
Photo:田中 大介
[PR]提供:SHARP