ディープラーニング(深層学習)の進歩によるAI(人工知能)の急速な発展はいまや社会に幅広く浸透し、我々の生活を豊かにしてくれている。大学のようなアカデミックな組織においてもそれは同様で、研究や学習にも大いに活用されているのが実態だ。

島根大学に新設された「材料エネルギー学部」もそのひとつで、そこではユニットコム(パソコン工房)のディープラーニング支援サーバが、これからの活躍を期待されているのだという。どのような取り組みになるのか取材してきたので紹介しよう。

  • 国立大学法人 島根大学 材料エネルギー学部 准教授 博士(工学) 日下 卓也氏

工業発祥の地に新設された材料エネルギー学部

島根県は日本神話にも登場する古い歴史を持ち、約1,400年前から始められたとされる「たたら製鉄」の発祥の土地となったことでも知られている。古来より工業が盛んだった島根県を代表する大学―――島根大学に2023年4月に設置された「材料エネルギー学部」は、かつてたたら製鉄が日本の工業を牽引してきたのと同じく、これからの日本を支える新しい材料の開発やエネルギー問題の解決を目指すための日本初の学部だという。

「島根大学に材料工学と情報工学、それに化学工学を融合させた学部を創ろうということになり、新設されたのがこの『材料エネルギー学部』です」と語るのは島根大学 材料エネルギー学科の日下氏だ。

材料エネルギー学部は、これまで独立した学科として設置されることが多かった材料工学、情報工学、化学工学をひとつの学科として横断的に運営することで、材料開発の社会実装を目指す、という先進的な取り組みとなる。その中のひとつとして注目を集めているのが「マテリアルズインフォマティクス(計算機上での材料開発)」だ。

  • 島根大学に新設された「材料エネルギー学部」の概要

「マテリアルズインフォマティクス」を簡単に解説すると、難易度の高い実験や複雑な計算式、さらには結果を計測するための巨大な施設が必要だった材料工学の分野で、それらをコンピューター上の計算によって効率的に導き出す取り組みとなる。

「材料工学では、物質の原子配置、化学結合などを学ぶために薬品を使った化学反応や、放射線を使った測定などが用いられます。測定機器にも特殊なものが多く、例えば兵庫県にあるSpring-8のような大型放射光施設などは有名ですよね。

もちろん、そんな特殊な施設で使うような実験はここではできません。しかし、ディープラーニングなどの技術を使えば、実験でしか得られなかった測定結果が、コンピューター上でもほぼ同等な結果として得られるものもあるのです。もちろん、すべての実験をカバーできるものではありませんが、コンピューターでできることは日進月歩で増え続けているのが現状なのです」と日下氏は説明する。

これまで、新しい材料の探求を行う場合、研究者が経験に基づいて、考案し、実際に試作をし、実験的な測定を繰り返す手法が用いられてきたが、このやり方では時間も予算もかさんでしまうというデメリットがあった。それをマテリアルズインフォマティクスでは、コンピューター上で予測分析を行うことで、効率化と時間短縮を可能にする。

  • マテリアルズインフォマティクスの簡単な例。太陽電池に使われるシリコンの結晶構造をコンピューターで計算させ、出てきた結果をグラフ化する
    ※資料提供:材料エネルギー学部 榎木 勝徳准教授

  • その結果、電子生成のために必要なエネルギーがシリコンの場合は、約1eVの辺りにあることが分かる。すでに解明されている現実の値(Siの場合は1.1eV)とコンピューター上の計算がほとんど同じであることを示している

「もちろん、それを実現するには優れたコンピューターが必要であり、材料エネルギー学部にも導入することになったのです」と日下氏。同学部で情報工学の専門家としてインフラ整備と運用管理を担う同氏が考えたのが「ディープラーニング支援サーバ」だ。

ディープラーニング支援サーバを導入

「今回は2023年4月に学部が開設されるため、それまでにサーバが納入されて稼働している必要がありました。年度末の慌ただしい時期でも、製品の調達見通しの裏付けを得た上で入札に応じたユニットコムはとても頼もしく感じました」

年度末の需要集中や近年の生成系AIブームなどでAI関連の機材調達は長納期化する傾向にあるという。そんな中、入札の要求仕様を満たし、ユニットコム(パソコン工房)が納品したモデルはまさにディープラーニング支援サーバというべき、パワフルなスペックと堅牢性を備えた製品になる。

「ディープラーニングの世界ではGPUは外せません。ですから、NVIDIA RTX A5000を最大4基搭載可能なDEEP-740GPは妥当でした。また、扱うソフトウェアによってはCPUに負荷が掛かるものもあるので、信頼性の高いプロセッサーも必須です。そこで、デュアルプロセッサーを採用しています。さらに扱うデータも巨大になるので、高速SSDを搭載したファイルサーバを併せて導入しています」と日下氏は説明する。

島根大学ではDEEP-740GPを3台導入しており、材料エネルギー学部がこれから取り組もうとしている、予測分析やシミュレーションなど高度演算の数々を並列処理できる実力を持っている。

「それでも研究や学習が進めば長時間の計算は当たり前になることが予想できます。演算処理中にコンピューターへの電力供給が断たれるのが一番怖いので、安全に運用できるだけのUPSも採用しています」と日下氏は話す。

それだけのシステムとなるだけに導入もコンピューターや必要機材を用意するだけでは収まらない。

「ラックへの取り付けや電源工事、LANの敷設など、複数の協力業者が関わることになりますが、ユニットコムがすべての業者を取りまとめてマネジメントしてくれたので、ワンストップで任せられました。私たちの立場から見ればこれは大きなメリットだと感じます」と導入の手応えを語る。

研究や学習の活性化で精度の高い結果を導く

「最近では、GPU搭載のクラウド型レンタルサーバなどもありますが、やはり研究目的で使うにはコスト的に見合わないことも多いと思います。実際に今回導入したサーバと同等のスペックを設定して、すんなり計算できれば良いのですが、途中でエラーが出たりすれば、それまでの時間分のコストが丸ごと失われることになります。

そういう意味では、私たちの学部では、やはりオンプレミスでサーバを構築して、自由度の高い運用ができることのメリットは大きいです」と日下氏。

これから始まる研究や学習を考えれば、運用面でもオンプレミスのシステムに軍配が上がるということだ。

「導入後、Linux上に利用目的ごとにDockerのコンテナを作成する方法を取っています。この方式ではほかの利用者に大きな影響を与えることなく、簡単に環境構築ができる点がメリットです」

現在、本格的な学習環境や研究環境へ向けてシステム構築や最適化を進めているという。

「テスト稼働の結果も良好ですし、100%フル稼働ができる状態になれば古い環境で個々に行っていた計算と、今回のシステムの計算では、ケースによっては10倍以上違うと考えています。

これによって、研究や学習で使う場合でも何度もトライアンドエラーができることになります。それに伴い、結果の精度もどんどん高くなっていくと思います。本格的な運用が始まればそれなりの成果が求められますから、しっかりと環境を構築して、大いに研究や学習に役立てていきたいですね」と最後に日下氏は抱負を語ってくれた。

ユニットコムはこれからも島根大学材料エネルギー学部の活動をサポートしていく。

Shimane University
島根大学 材料エネルギー学部
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