カシオ計算機は、子宮頸がんの早期発見に有効なコルポスコピー(子宮腟部拡大鏡診)という子宮頸部の観察や撮影を目的としたデジタルカメラ「コルポカメラ DZ-C100(以下、コルポカメラ)」を、「第75回 日本産科婦人科学会学術講演会」に出展し、共催セミナーを開催した。今回は、カシオとAI診断サポート装置の共同研究を続け、セミナーの座長を務めた昭和大学医学部の松本光司教授に、セミナーの様子なども交えながら、開発の状況などをインタビューした。

  • 共催セミナーには多くの聴講者が集まった

子宮頸がんの早期発見に有効なコルポスコピー

先にコルポスコピーとコルポカメラについて、簡単に概要をまとめておこう。

コルポスコピーは、腟内に腟鏡を挿入後にコルポスコープという医療機器を用いて子宮頸部を拡大する検査法で「コルポ診」とも呼ばれる。初期病変や子宮頸がんが疑われる場合は「生検(組織採取)」も行い、病理医が顕微鏡で精密検査して、病変の程度を「病理診断(確定診断)」する。

コルポスコピーは子宮頸がん検診で陽性と判定された女性向けの二次検診で実施されることが多い。診断結果は「前がん病変」である軽度異形成の「CIN1」、中等度異形成の「CIN2」、高度異形成・上皮内がんの「CIN3」に加えて、「浸潤がん」を併せた四段階で示す。

「前がん病変」は持続し進展すれば浸潤がんになる可能性がある状態のことで、軽度であれば、自然治癒することも多く、CIN2やCIN3の高度前がん病変の時点で早期に治療することで子宮頸がんを予防することができると言える。

生検のときに適切な部位から採取されたかどうかは、診断に大きく影響する。生検部位を増やせば患者に掛かる負担が大きくなるため、生検部位をいかに適切に選ぶかには高度なスキルが必要となる。

診察や生検では子宮頸部をしっかり観察するとともに、記録をきちんと残すことが重要になるが、腟の奥にある子宮頸部は、通常のデジカメでは撮影するのが難しい。

コルポカメラは、カメラに備わるLEDライトでこの子宮頸部を明るく照らしながら、ピントを合わせることができる。液晶モニター上にタッチフォーカス機能を搭載し、臨床現場に適した子宮頸部観察/撮影用の医療機器だ。静止画と動画の撮影に対応し、静止画は通常/グリーン/偏光の3種類の画像を、ワンシャッターで撮影できる。同じ画角の高画質な画像が簡単な操作で見比べられるのだ。2022年3月にカシオから国内で発売され、現在は全国の産婦人科の医療現場に徐々に導入が広まってきている。

  • コルポカメラ DZ-C100

医師達の間でニーズの高まるコルポスコピーへの習熟

――松本先生は「これならできる! コルポスコピー」と題した学術講演会の共催セミナー(ランチョンセミナー)で座長を務められました。先生から見て、参加した医師達の反応はいかがでしたか。

松本先生:「たくさんの医師に参加していただき、同じ時間帯のセミナーの中ではいち早く満席になったと聞いています。若い医師の参加が目立つなか、年配の医師も出席されていて、コルポスコピーを習熟したいというニーズの高さを実感しました。

一般的にランチョンセミナーは、お弁当を食べながら比較的カジュアルに聞く場です。しかし、皆さん真剣な眼差しで、中にはメモを取りながら聞いていて、最後は講演が少し早めに終わって質疑応答になっても、席を立つ人がいませんでした。臨床現場で明日からでもすぐに役立つ情報を、ここで1つでも学び取って持ち帰るのだという強い意識が感じられました。

セミナーは、東京大学医学部附属病院の森繭代先生と、昭和大学医学部の三村貴志先生が講師となり、それぞれスライドを用いて講演しました。そのスライドの中で使われているコルポカメラで撮影したコルポスコピー画像や動画が、明らかに綺麗で見やすかったのも印象的でした。

  • 座長として司会進行する松本先生

私はコルポスコピー関連の学会や講演に参加する機会が多くあります。その私から見ても、今回ほど高画質で鮮明な画像はなかなか出てきません。講演を聞いていた医師達も、『こんなに綺麗に見えるのか』と驚いたのではないでしょうか。診察時に見やすいのはもちろん、学会で発表するときも論文を書くときも、くっきりした鮮明な画像を載せられることに気が付いた医師も多いと思います。

講演内容は森先生が子宮頸がんやコルポスコピーで診る子宮頸部の疾患に関して総論し、三村先生は実際にコルポスコピーで診断する上でのコツや、AIの活用についても触れていました。

コルポスコピーに限らないのですが、医療の画像診断にはAIがどんどん活用されてくると思います。ですので、今回のセミナーの目的は、コルポスコピーを学びたい人に対するレクチャーと、今後の展望についての情報提供と言えます」

  • 東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 講師 森繭代 先生(左)、昭和大学医学部 産婦人科学講座 教授 松本光司 先生(中)、同 講師 三村貴志 先生(右)

――コルポスコピーの習得がそれほど注目されるのはなぜでしょうか。

松本先生:「コルポスコピーは、系統的に教育を受けた医師が少ないのです。実際、きちんとした教育ツールもトレーニングツールもなく、ガイドラインでこうしなさいという細かい記載もありません。医師同士で情報交換し、なんとなく見様見真似でやって、あとは自分が試した結果を見て試行錯誤して習得する医師が多いのです」

――今日のセミナーで、三村先生が「以前までこうやっていたけれど、最近はこのほうが良いと気付いて変えました」などと話していましたし、森先生と三村先生でお勧めのスタイルに微妙に差があったのも興味深かったです。

松本先生:「コルポスコピーはつい最近出てきたものではありませんが、産婦人科の中で専門化が進んでしまったために習熟する医師が減ってしまいました。

産婦人科の医師のうち、腫瘍を専門とする医師は勉強するのですが、産科がメインの医師はコルポスコピーをやる機会がないので深く勉強する必要がないし、研修医の頃に学んでいても時間が経てば忘れてしまいます。

あとはコルポスコピーの検診は、がんを扱う大きな病院に紹介してしまうクリニックも多く、裾野が広がりにくいのも問題になっています。

そんな中、2020年に『有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン』が更新され、子宮頸がん予防にHPV検診(HPV検出検査をがん検診に使用する)が有効なことが改めて見直されました。子宮頸がん検診において細胞診に代わってHPV検診を導入するところが増えるのです。

HPV検診は、細胞診よりも感度が高くて見逃しが少ない検査です。見逃さない一方で、HPVに感染していて病変を持たない人も陽性と判定するため、子宮頸がん検診としては偽陽性も多くなります。それを細胞診で振り分けるのですが、このトリアージもなかなか難しく、HPV陽性の人の多くがコルポスコピー検診に回ってくると考えられます。

海外の臨床試験の結果から、コルポスコピー検診を受ける人がだいたい3倍くらいになり、CIN2やCIN3の検出が2~3倍に増えると予測されています。これは可能性の高い予測です。コルポスコピー検診ができる医師が圧倒的に不足している状況であり、産科がメインの医師やクリニックの医師のところにも、コルポスコピー検査を受けたいと訪れる患者は増えていきます。これが、産婦人科の医師達の間でコルポスコピーの習得ニーズが高まっている背景と考えています」

――がんを治療する大きな病院がパンクしないためにも、精密検査まで行えて初期病変の診断と管理ができる医師が増える必要があるのですね。

松本先生:「検査を受ける人が増えることで、前がん病変の患者も一時的に増えることになります。増えると言っても、今まで早期に発見できずに見過ごされていた人が発見されるということです。なので、その段階を通り越せば、最終的に子宮頸がんの患者は減ります。子宮頸がんになる前に高度前がん病変の段階で早期発見・早期治療するのですから。

また、HPVワクチンが広がっていくと最終的にはHPV感染が減少し、子宮頸がんになる人も減ります。ただそれには国内だけでも10年以上かかりますし、全世界レベルではそれ以上かかるでしょう。それまではゼロにはならないから、一定数の需要は必ず残ります。HPVワクチンは結構高額なので、費用の面からHPVワクチンを導入できない発展途上国などでは、コルポスコピーの重要性が増すのではないかと思います」

コルポスコピーにおけるAI診断サポート装置の展望

――コルポスコピーにおけるAI診断サポート装置の展望について、松本先生のお考えをお聞かせください。

松本先生:「現在、コルポスコピー診断を補助するAI診断サポート装置をカシオと一緒に開発中です。いまは三村先生が一番汗をかいていて、カシオと一緒に頑張ってくれています。カシオのチームは熱意があって、世の中に出せる良い製品を作るのだという意気込みが強いので、研究ミーティングでは私も遠慮なく率直な意見を述べさせてもらっていますよ(笑)

  • カシオのAI診断サポート装置の開発に協力する松本先生

コルポカメラを使って撮影した高解像度の画像をAIが学習していき、やがてはAIが診断をサポートするようになります。最終的に病理診断までAIでサポートできるのが理想です。コルポカメラで撮影している間に『CIN3の可能性が何%です』といった表示が出てきたら素晴らしいですが、さすがにそこまでの道のりは相当先になりそうです。

ただ、コルポスコピー診断を補助するうえでは、すぐにそこまでできなくても、診察の作業効率を上げたり、見逃しを防いだりといった、AIの有益な使い方はいろいろ考えられます。現在取り組んでいるAI診断サポート装置も、第一歩として設定した目標に近づいており、目処が見えている状態。完成すればコルポスコピーのエキスパートじゃない普通の産婦人科医でも、エキスパートと同じくらい効率よく診断できるようになると思います」

――最後にコルポスコピーを学びたい人に向けてアドバイスをいただけますか。

松本先生:「先程も言いましたが、コルポスコピーは系統的に勉強できるツールがありません。このため、今は誰に聞けば良いのか、どんな本を読めば正解なのか、手探りの状態だと思うんです。ただ、最初は手探りであっても、実践しなければ絶対に出来るようにはなりません。AI診断サポート装置があれば、実践のなかで勉強することが可能になります。AIによる診断サポートは、教育ツール・トレーニングツールとしても非常に有用だろうと期待しています」

――ありがとうございます。

コルポスコピーの意義とコツを披露した共催セミナー

松本先生に話を伺う前に、話の中にも出てきた「これならできる!コルポスコピー」と題した共催セミナーも見学した。

森先生は「女性のプライマリケアにおける子宮がん検診:コルポスコピーを使いこなす!」と題して講演。子宮頸がんの罹患数と死亡者数を日本と世界で比べると、日本はG7では最下位だ。

  • コルポカメラの開発に協力した東京大学の森先生

年齢分布別で見るとピークが若年化していることや、イギリスで検診の受診率が上がったことで、子宮頸がんの発生率が下がっているといったデータを紹介。「より多くの婦人科医がコルポスコピーに精通することで、日本の女性の健康を守れる」と述べた。

コルポスコピーの検査の実際について、動画を使って説明し、酢酸加工時には東大病院では3種の綿棒セットを漏れなく使っていることなどを披露した。また、子宮頸がんは「将来は征圧できるがんだ」として、世界的なチャレンジが行われており、プライマリ・ヘルス・ケアの一環として、積極的にコルポスコピー検査を実施してほしいと訴えた。

三村先生は「私の考えるコルポスコピーのコツとAI診断への展望」と題して講演。欧米でのコルポスコピー診療の目標設定なども紹介した。コルポスコピー診療というと腫瘍を扱っている医師向けの技術と思われがちだが、実際はそうではないこと、日本ではコルポスコピー検査のQIs(定量的影響度調査)が存在せず、日本の医師達で作っていく必要があると主張した。

  • 三村先生は「私の考えるコルポスコピーのコツとAI診断への展望」と題した講演を行った

検査のコツにも触れ、酢酸加工でなぜ白色調になるのかの背景や、血管病変(赤点斑/モザイク) の特徴、コルポ検査では何カ所生検するのが正解なのかの考察、さらにECC(子宮頸管内掻爬)に注目しており、症例によってはECCによって見逃しを大きく減らせると述べた。

最後にAIと専門医との識別性能の比較を示し、カシオのAIアルゴリズム開発部とともにコルポAI診断サポート装置を開発中であるとまとめた。

子宮頸がんを歴史の教科書でしか見られない病気にする

会場に設けられた協賛企業ごとの展示ブースでは、コルポカメラの実機を専用スタンドの「カメラスタンド CST-100M」とともに展示。観察したい場所にカメラをスムーズに動かし、ピタッと固定できること、狭い腟の奥にある子宮頸部がしっかり観察・撮影できることなどをアピールしていた。

訪れた医師達は興味深そうに実機に触れ、気になったことをあれこれとスタッフに確認していた。

  • カシオブースの様子

  • コルポカメラと一緒に皮膚科用のダーモカメラ(DZ-D100)やダーモスコープ(DZ-S50)も展示

子宮頸がん検診とHPVワクチンの接種により、子宮頸がんは大きく減らせると考えられている。しかし、HPVワクチンの効果が広い世代にわたって確認できるようになるには十年単位の時間が必要だ。それまでは子宮頸部初期病変の早期診断・管理が、子宮頸がん予防の重要な柱となる。

コルポスコピー診断を効率化し、学習にも役立つコルポカメラ。そして開発中のAI診断サポート装置。女性の子宮頸がんを歴史の教科書でしか見られないものにするその日に向けて、医師達と技術者達の不断の努力が感じられる、そんな学術講演会だった。

  • カメラスタンドに設置したコルポカメラを構える松本先生

[PR]提供:カシオ計算機