近づきたいのに近づけない。触れたいのに触れられない。 美術館や博物館を訪れた際、お目当ての展示物を前にもどかしい気持ちになったことはありませんか?

家電メーカーのシャープは、貴重な国宝や文化財などを8Kディスプレイに表示して展示する「8Kインタラクティブミュージアム」に注力しています。8Kディスプレイに表示される高精細な映像は、まるで本物のようなリアリティがあり、拡大したり回転させたりしながらじっくりと鑑賞することが可能。

2019年の記事でも一度取り上げたこの技術ですが、3年の時を経てさらにパワーアップ。新たに茶碗型のコントローラーを開発し、歴史的に価値が高い「名茶碗」に実際に触れているかのような体験も提供できるようになりました。

  • 8Kインタラクティブミュージアムの鑑賞イメージ図

    「8Kインタラクティブミュージアム」では、「触る」「見る」「知る」の3方向から鑑賞を楽しむことが可能に。

今回は、進化し続ける「8Kインタラクティブミュージアム」のいまを探るべく、お話をうかがいました。

全身で展示物の世界観を味わえる圧倒的なリアリティ体験!「8Kインタラクティブミュージアム」とは

取材を受けてくださったのは、シャープマーケティングジャパン株式会社 BSデジタルイメージング営業推進部 8K事業企画に所属する池尾利彦さんと奥本浩章さんです。

  • 奥本さんと池尾さん

ヨーロッパ法人に5年出向するなど、AV機器やビジネス機器の海外マーケティングに長らく携わってきた池尾さんは、新規事業企画の一環で「8Kインタラクティブミュージアム」の企画・マーケティングに従事しています。

一方の奥本さんは、入社以来、ソフトウェア開発を担当。液晶テレビやサイネージなどのソフトウェアからBtoB新規商材まで幅広い領域を経験し、現在は「8Kインタラクティブミュージアム」のコンテンツを制作しています。

彼らが手がける「8Kインタラクティブミュージアム」は、現実世界では実現不可能なことができるとあって、大きな注目を集めています。「私たちは『超現実体験』と呼んでいます」と池尾さんが教えてくれました。

  • 池尾さん

美術館や博物館では、展示物にはなかなか近づけませんよね。触ったりするのはもってのほか。遠くから眺めることしかできません。

でも、「8Kインタラクティブミュージアム」なら、8Kディスプレイに表示した映像を拡大したり、回転させたりしながら、じっくりと鑑賞できます。


「8Kインタラクティブミュージアム」のすごいところは、そのリアリティ。高精細な8K映像に、視界を覆うほどの大画面や直感的なタッチ操作が相まって、全身で展示物の世界観を味わえる没入感が生み出されています。単なる映像では片付けられない圧倒的なリアリティ体験が「8Kインタラクティブミュージアム」にはあるのです。

  • ディスプレイに映し出された文化財のお茶碗

世の中に8Kを普及させていくシャープの戦略のひとつとして、「8K技術を教育に活かす」をテーマに掲げて始まった企画なのですが、当初は8Kモニターに絵画の画像を映してタブレットで操作していました。私は企画が始まってからチームに参画したのですが、正直、つまらないと感じてしまって……(笑)

というのも、せっかくの8K映像のリアルさをタブレットが邪魔をしていたんです。操作時に意識が手元に削がれたり、タブレットが気になったりして、どうも没入できない。そこで、タッチ操作に切り替えるなどして、リアリティ体験を徹底的に追求する方向に舵を切りました。


ともすれば軋轢が生じてしまいそうな指摘をあえてした背景には、池尾さんの危機感がありました。ヨーロッパ法人に出向していた当時、テレビ事業が撤退。「そもそもテレビを見ない」というヨーロッパの人々の本音を聞き、コンテンツの重要性を痛感したと振り返ります。「8Kを普及させるなら、8Kでしかできないコンテンツを作らなければならない」。そんな思いがあったのです。

チームは、新たにメンバーとして加わった池尾さんの提案を拒絶することなく、受け入れました。初期から手探りで開発に取り組んでいた奥本さんは、何事もとりあえずやってみる精神が社風として根付いているからこそ「8Kインタラクティブミュージアム」は発展してきたといいます。

  • 奥本さん

リアリティ体験が進化!名茶碗と仏像に触れる新しい鑑賞のかたち

リアリティ体験を追求する中で生まれたのが「8Kで文化財 ふれる・まわせる名茶碗」と「8Kで文化財 みほとけ調査」です。いずれも文化財活用センターと東京国立博物館と共同で開発されました。

「ふれる・まわせる名茶碗」では、手触りや重量まで実物そっくりに制作したレプリカの「茶碗型コントローラー」を導入し、文化財を手に取って鑑賞しているような体験を実現しました。


回転センサーと深度センサーによってコントローラーと映像がリンク。手元の茶碗型コントローラーを傾けたり近づけたりすると、画面上の茶碗も連動して回転・拡大する仕組みです。

「みほとけ調査」では、懐中電灯型のデバイスを導入しました。

仏像はサイズが大きいものも多く、茶碗のように手に取って鑑賞する展示物ではありません。どのような体験を提供しようか模索していたところ、学芸員さんたちが光を当てて調査していることを知り、採用することになりました。


画面上の仏像に懐中電灯型のデバイスでライトを当てれば細部までくっきり浮かび上がり、学芸員が普段目にしている光景が広がります。こちらもセンサーで鑑賞者の動きを読み取り、それに連動して画面上の仏像の向きや大きさが変わるため、背面まで自由に鑑賞可能です。

  • みほとけ調査のイメージ

2Dデータから3Dデータへ。2019年に「ふれる・まわせる名茶碗」の検討を開始してから約3年で「8Kインタラクティブミュージアム」で飛躍的な進化を遂げました。

このスピード感で達成できたのは、8Kの映像技術はもちろん、「BIGPAD」に代表されるタッチ操作の技術を有しているシャープだからでしょう。

また、シャープが培ってきた信頼のおかげで、文化財活用センターさんや東京国立博物館さん、外部企業さんから協力を得られたのだと思います。


リアリティ体験の追及を支える地道な試行錯誤の連続

とはいえ、「ふれる・まわせる名茶碗」「みほとけ調査」の完成に至るまでには数々の苦労がありました。

茶碗や仏像などの立体物をデジタルコンテンツ化するために3Dモデルを作るのですが、そのためには文化財を360°隈なく撮影しなければなりません。撮影した枚数は、ひとつの文化財につき、数百枚に上りました。

さらに、高精細な8K映像に耐えうるクオリティにするには細部まで忠実に再現することが求められます。表面の色味や質感、艶や透明感まで本物そっくりに作り込む作業は大変でした。


  • デモ用のディスプレイとコントローラーを用いて説明をする池尾さん

特に仏像は装飾が細かいうえ、例えば、金箔か金泥(きんでい)かで光の反射具合が異なるなど、デジタルコンテンツ化は困難を極めました。学芸員に何度も確認を依頼して修正を繰り返し、3か月から半年かけてようやく展示に行き着いたものばかりだそうです。

  • デモ用のディスプレイとコントローラーを用いて説明をする奥本さん

そして、展示の場でも体験を損なわないように細心の注意が払われています。

何より重視したのは「気兼ねなくパッと楽しめること」です。

学芸員さんのお話がとてもおもしろく、すべて盛り込みたかったのですが、説明が長すぎると鑑賞者の心が離れてしまう恐れがあります。テキストや音声による説明は最低限にとどめ、直感的に楽しんでもらえるように気を付けました。


「超現実体験」とも呼ばれるリアリティ体験の追及は、地道な試行錯誤が支えているのです。

「8Kインタラクティブミュージアム」を全国の美術館や博物館に足を運んでもらうきっかけに!

茶碗と仏像に続く次の文化財は現時点で決まっていないそうですが、2人はさらなる進化に向けて力を込めます。

刀剣などの光の反射が強すぎるものや、昆虫などの非常に小さい立体物はデジタルコンテンツ化が難しいのですが、撮影方法を工夫するなどしながら挑戦していきたいです。


コンテンツの拡充と並行して、制作の効率化や現場運用の簡便化を図ってコストを下げ、美術館や博物館に使ってもらいやすいようにしていきたいですね。

学芸員さんの話を聞いて実感しましたが、美術館や博物館にはおもしろいものがたくさんあります。「8Kインタラクティブミュージアム」が全国の美術館や博物館に足を運ぶきっかけとなり、楽しんでもらえたら嬉しいです。


池尾さんはヨーロッパ出向時代、美術館や博物館が人々にとって身近な存在であることに驚いたそうです。「8Kインタラクティブミュージアム」によって触れて楽しむ新しい鑑賞のかたちが定着すれば、日本の魅力創出と発信につながるかもしれません。

  • 奥本さんと池尾さん2

8Kインタラクティブミュージアムについて
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