長編アニメーション「雨を告げる漂流団地」が9月16日(金)よりNetflix全世界独占配信&日本全国ロードショーとなる。本作は、「ペンギン・ハイウェイ」「泣きたい私は猫をかぶる」を手掛けた、スタジオコロリドの長編映画第3弾。監督を務める石田祐康にとっては「ペンギン・ハイウェイ」に続く長編映画2作目の作品となる。石田監督はどのような想いでこの作品に挑んだのだろうか。話を聞いた。
――石田監督は、高校2年生のときにはじめてのアニメを作られたそうですね。小さいころからアニメがお好きだったんですか?
小さいころからアニメは当たり前にたくさん観ていました。その時に放送していた子供向けのアニメとか、録画したアニメ映画なんかを繰り返し見ていましたね。中学生くらいになると、ちょっと大人向けのアニメにも興味が出て、衛星チャンネルで放送されている作品も観ていました。そのあたりまでは観るだけだったんですが、美術科の高校に進学してから、徐々に普及し始めていたペンタブレットやソフトを触り始めて、そこで初めてアニメを作ってみよう、と思いました。
2000年代初期なので今ほどツールは揃っていませんでしたが、それでもいざ初めてみると、幼い頃からのアニメ好きの喜びが勝って、機材やマシンスペックの不足も関係なくどんどん作っていましたね。SEも自分で作ったり、フリーの音楽をくっつけたりして。自分はそもそも絵だけじゃなくかなり音も好きなんだなと感じていました。
長編アニメ監督作品2作目で挑んだ物語をゼロから生み出す制作。
そして、リモート作業の中でもデジタルの強みを活かした作品へ
――本作が長編アニメ2作目の監督作品となりますが、ご自身の中で前作「ペンギン・ハイウェイ」との違いや変化はありますか?
「ペンギン・ハイウェイ」は、素敵な物語があって、それを素直に読んで、自分の描いてみたいものに素直に寄せられそうだと感じたんです。だからある程度は画を作ることにリソースを割けたんです。でも今回は、物語の部分も含めて自分で創り出していくので、そのリソースをかなり物語にも割かないといけない。原作という拠り所が無い分、自分の持てるリソースは一杯一杯でした。変な話、リソース増設用の外部ストレージが欲しかったくらいですね(笑)。根本的な作り方が違うということはないですが、とにかく脳内の配分率が違う感覚はありました。
――実際の制作はどのような制作環境で進んでいったのでしょうか。
コロナ禍になって、スタジオ自体もリモート作業が主体となったので、オンラインミーティングツールなどはもう、一通りいろいろ試しました。企画やコンテもすべてデジタル作業でしたし、書類管理などもすべてデジタル化したので、それに合わせたツールやガジェットもいろいろと試しましたね。
メインはデスクトップPC環境で自宅も会社も同じもので揃えています。作画機材はWacom Cintiq Pro 24。「ペンギン・ハイウェイ」の時は16インチを使っていましたが、24インチの広さならではのできることを感じました。複数のウインドウを常に出しておけたり、逆にウインドウを最大化すれば高い一覧性があり、キーボードを好きな位置にも置けます。
キーボードは2つで、普通に左に配置するものと、ペンタブレットの上に置いて使うもの。こうすると姿勢を都度柔軟に変えられますし、修飾キーを左で、その他キーをペンを持ちながらでも上のキーボードで操作するなどの複合操作をもできます。
その他に持ち運び用にOS一体型のタブレットを幾つか。主に企画や補助作業用ですが、これがまだ使い方を模索中です。自分の仕事上、絵、文書作成、PDF管理、そこにメモ書き、映像編集、それら大量のファイル整理、デスクトップPC環境と同期…などなど要求することが多いので、それに叶うマイベストモバイル機材にはまだ出会っていないかもしれません…。
――制作のかなりの部分をデジタル化されていたんですね。作品の印象としてはいわゆるデジタル作画っぽくない温かみがある気がしましたが、監督としてのこだわりなどはありましたか?
そうですね。描いてもらう時も、エッジのところが角ばりすぎないとか、直線的になりすぎないようにとかは、こだわってお願いしていました。実線も柔らかく質感は気を付けて工夫してくださっていると思います。デジタルで描かれたカット数は8割を超えていると思います。社内の人ももう、デジタルで描くことに慣れた人が多くなってきましたし、デジタルでチェックすることにも慣れてきたように思いますね。
――デジタル作画だからこそ実現できていることは、どんなことだと思いますか?
作業としては、紙でやっていることをそのままデジタルでやっているだけなので、根本的には変わらない。でも、コピペができるみたいなデジタルツールならではのことはあるんです。もちろん、考えなしの完全コピペはダメですけど、うまく使うことができたら演技の幅を広げられる。必要分を描き換えながらクリアすれば、その分の時間をほかの作業にも費やすことができます。
とはいえ、まだまだ発展途上で、紙で効率よく数をこなしていた方々に比べ、変に非効率になっている部分もあります。デジタルで作品をより豊かに出来つつも、時間コスト的な意味でまだ課題は多いはずです。
――オンライン作業などが中心になったかと思いますが、制作現場の雰囲気はいかがでしたか?
スタジオや親会社の方針として、やはりコロナ対策を重視されていたので、対面打ち合わせの数も最低限、基本的には別々の場所作業することを徹底していました。アニメに限らず、どの現場でもあることだとは思いますが、オンラインでのやりとりばかりになると、物理的な効率の点とは別の部分…気持ちや意識という部分は弱くなっていきますよね。ディレクションしていく中で、伝わっているのか、伝わっていないのかがよく分からないこともありますし、最低限の情報は効率よく共有できても、気持ちの部分の共有はどうしても深まらないのが不安で…。
そしてそれが回り回って結果、物理的な効率の部分さえも下げていた一面があったとも思います。それは自分も含めて恐らく皆無自覚な一面としてで、学んでいかないといけないところですね。単純にアニメーターは動いてこその所もあるので、会って体を動かして説明したほうが早く分かりやすく、かつ同時に意思疎通も出来たり。また、会えればディレクション側からお願いする描き手に直接褒めたり労ったり、変な話お菓子をあげることができる(笑)そういう地道な繋がりも出来なかったので、申し訳無さと寂しさはつのっていきますね。
もし次の企画があるなら、その新旧のやりかたのバランスを会社として取っていかないと続かない、というのが制作を終えての正直な気持ちです。今回は、極端に物理的な効率重視でしたから。
テーマは「団地」。世代や背景によってさまざまな想いが巡る
――本作では、学校などの案もあった中、「団地」であることも大きなテーマの1つのように感じました。監督は団地についてどのようなイメージをお持ちですか?
僕は最後の昭和63年生まれですが、今回描かれた団地とは違いますが、街には様々な集合住宅がある景色が当たり前でした。自分自身は、いわゆる日本家屋の古い家で育ったので、そういう場所への憧れみたいな気持ちもありましたね。ところが、世代によっては団地にどちらかというとネガティブなイメージもある。時代的にはしょうがないことかもしれません。それでも、そこで生まれ育った人には、団地がふるさとな訳で否定はできません。 古くなって取り壊されていくふるさとを、そこに住んでいた人々はどう見るのか。映画では他に頼る術のない子どもの視点で、それを描くことになりました。
映画では描けなかったところですが、今僕自身が団地に住んでいまして、リノベーションなどもされて若い世代が大半を占めるような団地になっています。役目を終えて壊される団地もあれば、今も元気に生き続ける団地もあるんですよね。なんでしたら新しく生まれている団地もありますし。最初は「団地という船が、大海原を渡る」という、言ってしまえばそれだけの発想だったんですが、作れば作るほどそういったことにも思いを巡らしていました。
――子どもたちにはハラハラの冒険譚として、大人にはちょっと胸に響く物語として、素敵な作品になっていると思いました。本作は劇場公開と同時にNetflixで世界配信されます。ご覧になる方に、最後メッセージを頂ければと思います。
団地というひとつの”まち”が壊されてまた生まれ変わろうとしている。壊しては作るまちに例えて、変わらざるを得ない子どもたちの状況を描こうとしました。まちも人も、映画の最初と最後でその変化を見届けていただけたら幸いです。
「雨を告げる漂流団地」は、幼馴染同志の航祐と夏芽を中心に、友人たちを巻き込んで航祐たちが育った団地に乗り、不思議な大海原へと漂流していく。果たして彼らがたどり着く先はどこなのか――。ぜひその結末を、その目で確かめていただきたい。
インタビューで登場した液晶ペンタブレット製品はこちら
世界トップクラスの色精度とペンの追従性を実現するプレミアムな4K対応の液晶ペンタブレット。なめらかなフルラットのガラス仕上げで、紙に描くような感覚を実現。視差が小さく、自然な使い心地が魅力です。大型から小型までサイズを選べるので、制作環境に合った最適なサイズを選ぶことができます。
『雨を告げる漂流団地』
9月16日(金)からNetflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
夏の終わりの冒険ファンタジー。スタジオコロリド待望の新作は『雨を告げる漂流団地』。9月16日(金)に全国ロードショー&Netflix全世界独占配信。
ストーリー:
まるで姉弟のように育った幼なじみの航祐と夏芽。小学6年生になった二人は、航祐の祖父・安次の他界をきっかけにギクシャクしはじめた。夏休みのある日、航祐はクラスメイトとともに取り壊しの進む「おばけ団地」に忍び込み…。
出演:田村睦心 瀬戸麻沙美ほか
監督:石田祐康 脚本:森ハヤシ/石田祐康
主題歌・挿入歌:ずっと真夜中でいいのに。
企画:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
配給:ツインエンジン/ギグリーボックス
製作:コロリド・ツインエンジンパートナーズ
[PR]提供:ワコム