2020年1月に誕生したばかりのアニメーションカンパニー「Noovo」が制作した短編アニメーション「青い羽みつけた!」。青い羽の持ち主を子どもたちが探して行くストーリーで、どこか懐かしいタッチの作風だが、制作にはゲームエンジン「Unreal Engine」という最新テクノロジーが用いられている。本作の監督/プロデューサーを務め、原作絵本の文も手掛けているのは、Noovoの代表取締役・宇田英男さんだ。「絵描きでもクリエイターでもない」と語る彼は、どのような想いでアニメーションと向き合い、作品制作に尽力したのだろうか。話を聞いた。

異業種からアニメ業界へ。魅了されたのは、クリエイターが持つものづくりへの熱い想い

――宇田さんはこれまで、どのようなお仕事をされてきたんですか?

もともとはアニメ関係ではなく、大手電機メーカーで、管理の仕事をしていました。しかし、これからはハードではなくソフトの時代ではないか、と思うようになって、2009年にアニメ制作会社のGONZOに転職しました。そこでも管理系の仕事をしていたんですが、いろいろと刺激的な経験になりましたね。その後、ちょうど「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」を制作するタイミングで、もっときっちり会計管理をしたいというお話があって、庵野秀明さんの株式会社カラーに転職したんです。

――最初からアニメ業界を志したワケではなかったんですね。その後、ご自身でもアニメ制作会社のスタジオコロリドを起業されましたが、それはどういう理由からだったんでしょうか。

今後のアニメ業界を考えると、若い人がもっと活躍できる環境を作っていかなければならないと感じ、スタジオコロリドを設立しました。ベテランとは違う形で、若い人なりの勝負ができるひとつの形がデジタル化だという思いは当時からありまして、デジタル中心のスタジオにしようと考えました。おかげさまでコロリドでは映画やPVなどさまざまなアニメを制作することができ、今後会社を支える人材も増えてきたと思いました。そこでもっと広い視野で若い人が活躍できる環境を作っていくために、次の10年の挑戦としてNoovoを設立しました。

――アニメ業界でやっていこうと思えたのはなぜでしょうか。

クリエイターと向き合う中で、作りたいものをピュアに作っていく人たちと一緒に仕事をするのは楽しいと思ったんです。作りたいという熱量に溢れている人たちを、会計的な管理など僕の得意分野で補完できればと思い、使命感をもってやっています。もちろん、これからアニメ業界はどんどん大きく成長していくはずだ、という経営的な確信もありました。アニメ業界の今後のためにも、頑張っている人をサポートしたいという気持ちは大きかったですね。

Noovoが手掛ける短編アニメーション「青い羽みつけた!」が魅せる、デジタルとアニメーションの可能性

――Noovo制作の短編アニメーション作品「青い羽みつけた!」は、Epic gamesの開発資金提供プログラムに採択され、「Epic Mega Grants」を受賞しています。これは、どのような経緯だったんでしょうか。

最初はゲームエンジンである「Unreal Engine」を使ってアニメ制作をしてみたいというところからスタートしました。まずは絵本作りからはじめ、アニメ制作をするにあたって、Epic gamesが広く募集している支援事業に応募したところ、採択していただき、制作に至りました。やはり新しいテクノロジーを使って新しいアニメ制作をやっていくのであれば、若いスタッフと一緒に、テクノロジーの新たな形の提示ができればと思っています。アニメーションは全6話になっているんですが、そのうちの1話はほとんど「Unreal Engine」で制作しています。次は、アニメの素材を使ってゲーム化につなげるなど、新しい展開も練っているところです。

――「Unreal Engine」ならではの特徴的な部分はどのようなところでしょうか。

「Unreal Engine」にはMegascansという3Dアセット素材があるんですが、それを使って背景を作っているというのはひとつ特徴的な部分だと思います。今、アニメ業界には背景を描ける人が圧倒的に少ないんですね。その解決策のひとつとして、素材を使って描く人がいなくても作品が成立するひとつの事例になったんではないでしょうか。今は映像が高精細化していて、悪く言えばクリエイターが力をかけられる場所が分散してしまっている。そこでテクノロジーを使って補い、力をかけたい場所に集中させてあげられるという面はあると思います。

  • 「Megascans」の素材を使った背景画

――最新技術を駆使しながらも、昔ながらのアニメーションのような肌触りがするのも面白いところだと思います。

「Unreal Engine」を使ったすごくリアルな映像作品はほかにもともとありましたので、それとは違った日本の普遍的な表現でありながら、裏側は「Unreal Engine」というものにしたかった。今回の作品は、どちらかというと従来のアニメファンというよりも、お子さんやその親御さんといった方に観てもらえる作品にしたかったというのもあって、このようなチャレンジになりました。現場のみなさんにも、お子さんが観るコンテンツというのを意識してもらいましたね。

制作環境を整えることで、クリエイターたちの新たな可能性が広がる

――制作現場ではどのような機器が使用されていたんですか。

コロナ禍の影響もあり、リモートでの制作が主だったので個人ごとの細かい環境までは把握していないのですが、Wacom Cintiq 16などを使って、アニメーションはCLIP STUDIOで制作しています。本来の企画自体は、ここに集まって制作する予定だったので、いろいろな液タブやソフトなど作業環境も整えていました。ですが結果として、クリエイターが移動することなく自宅で作業できるというのはデジタルの大きなメリットだと感じています。敢えてデメリットを上げるとすれば、リテラシーの差ですね。デジタルが使える人と苦手な人の差がより広がっている感覚があります。

  • Noovoでは異なるサイズとラインアップのワコム製品などデジタル機器を揃えており、クリエイターが自分にあった製品を選べるようにしています。デジタルアニメーションの制作環境が整っているのは若手クリエイターにとっても魅力的な場所。

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Wacom Cintiq 16

――デジタル環境を整えて、リテラシーも含め使いこなすことができれば、スムーズなアニメ制作ができるようになるということですね。

そう思います。とはいえ、どういう環境にしたらいいか分からない、ちょっと試してみたいという人もたくさんいるはず。それで、Noovoでは「AnimatorSpaceTokyo」という技術的な実験ができる場所をつくりました。リモート作業をする前に、リアルで集まって機材を操作しながらワークフローを構築するなど、プリプロ段階やプロジェクト単位で使っていただければと考えています。最新のデジタル機材を実験的に使ってみることができますし、メーカーやシステム管理会社と連携して技術取得のサポートもしています。最新テクノロジーを使いこなせるクリエイターから、また新たなアニメのスタイルが生まれてきたら嬉しいですね。

――今後、アニメの制作現場はどのようになっていけばよいと考えていらっしゃいますか。

Noovoの設立にあたり、もうひとつのモチベーションとして地方との連携ができるようになればいい、と考えているんですね。最大目標として、地方発で作るコンテンツができればいいと考えていて、現在も京都、福岡、高知など、いろいろな都市との連携事業を進めています。その前段階として、東京と地方で連携して制作していくという形を取れたらいいですね。現状、アニメ業界は会社の9割が東京に集中しています。地方の若い子たちからすると、情報や機会にどうしても差がでてしまうんです。そこを是正することで、人材のシェアができると考えています。地方に居ても仕事ができるというのは、デジタルの大きな魅力ですから。言葉のコミュニケーションの課題もありますが、海外の方との仕事にも言えると思います。そこも、テクノロジーを使った翻訳などで解決できていくかもしれませんね。もちろん、東京で活躍するんだ!というモチベーションもすごく良いと思います。でも、そうじゃないモチベーションの人にも活躍の場ができればと思いますね。その人に合ったモチベーションの形があるはずですから。

「青い羽みつけた!」を通して伝えたい"知らない世界への好奇心"

――「青い羽みつけた!」は、ふと手に入れた青い羽の主を探して、いろいろな鳥のことを知っていくお話ですが、なぜこのような物語にしたのでしょうか。

絵本の原作を作るときに、まずは身近なテーマの作品にしたいと考えました。もともと、モーリス・メーテルリンクの「青い鳥」が大好きだったんです。青い鳥を探して旅に出たけれど、結局は身近にあったというのはある種の学びがありますよね。あと、この絵本を作る中で知ったんですが、東京にも野鳥がたくさんいて、スズメやカラス、ツバメのほかにも130種類くらいいるんですね。そういうことは意外と知られていないんです。好奇心を持って空を見上げたら、意外と自分の知らない世界が広がっているというのは、僕自身、この作品を通して感じたことですし、お子さんや親御さんにも伝えていきたいメッセージですね。

――アニメの仕事をしてみたい、と思っている若い人たちにアドバイスやメッセージはありますか。

高校生や大学生の人には、これからしばらくアニメ業界は伸びると思いますので、ぜひ期待値をもって挑戦してほしいですね。もちろん親御さんも、その点は安心していただきたいと思います。アニメの会社を経営していると、親御さんから「子どもが行きたいって言っているけど、アニメ業界って今後どうなんですか?」なんて声もいただくんですよ。それで行きたい会社を聞いてみると、アニメ業界の中ではめちゃくちゃ優良企業だったりするんです。でも、アニメ業界は上場している会社も少なく、個別の会社の情報が見えていないので、結果として業界の実情が多くの人に伝わっていないんですね。伸びている業界は得られる達成感も大きいですから、ぜひ応援してあげてほしいです。 もっと小さい子たちには、ものづくりの楽しさをたくさん経験してほしい。今はデジタルで描いて世界に発信するということのハードルも下がっていますし、アニメに限らず、イラストでも、マンガでも、どんな形でもよいので、モノを作る楽しさをシンプルに感じてもらいたいですね。

――どんな業界か知っていると親御さんも安心できるし、お子さんも作る楽しさを知っているほど、現場での熱量も大きくなるかもしれないですね。

そうですね。今回の作品で、僕は「監督」と名乗っています。あえて監督を名乗らせてもらったのは、“宇田にできるなら自分もやってみたい”と思う人が増えてほしいという気持ちがあるんです。少しでもアニメ業界を志す人の裾野が広がればと思っています。僕は絵描きでもないしクリエイターでもない。でも覚悟をもってやると決めて、作品づくりに臨んできました。そういう気持ちを少しでも感じていただけると嬉しいです。ただ、今回の作品では参加してくれたクリエイターが皆優秀だったので実際は現場に任せっきりでしたが(笑)

――アニメ業界に入るなんて自分には難しい、と感じている人にはエールになる言葉だと思います。この作品を作り終えた後、次のビジョンもお聞かせください。

やっぱり“作る人”を増やしたい。そのきっかけを作っていければいいなと思いますね。アニメを通じてできることって、多様にあるので、いろいろな形でアニメをやりたいという人を増やすことで業界の活性化にもなりますし、僕らの作品がそのきっかけとなる場所になればと思っています。

――本日はありがとうございました!

Noovoで実際に使用しているワコム製品はこちら!

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Wacom Cintiq 16

Wacom Cintiq 16

短編アニメーション「青い羽みつけた!」

「ある日、学校の帰り道見たことのない羽根を見つけた。きれいな青い色。こんな羽の鳥が、どこかにいるのかな?」
幼い兄妹が⽻根の持ち主を探して、カラスと⼀緒に旅に出る、その過程で様々な⿃との出会いがあり世の中には様々な⿃がいることを知る物語です。

作品情報はこちら
アニメ「青い羽みつけた!」
dアニメストア他にて4月26日(月)より配信決定。

出演:森なな子、遠藤璃菜、杉田智和
監督/プロデューサー:宇田英男

企画:Noovo Inc.
制作:Noovo Inc. / pH studio Inc.
製作:青い羽みつけた!製作委員会
twitter:https://twitter.com/aoihanejp

公式サイト

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