カシオ計算機は5月27日、皮膚観察用デジタルカメラ「ダーモカメラ DZ-D100」を発売した。カシオのカメラ技術を活かし、皮膚科専門医が医療現場で簡単かつ安全に扱える診療ツールとして注目を集めている。今回は開発チームの4人を取材し、開発の裏話を聞いた。

  • カシオの皮膚観察用デジタルカメラ「ダーモカメラ DZ-D100」

ダーモカメラ DZ-D100(以下、DZ-D100)は、臨床現場に立つ専門医の先生方に丁寧なヒアリングを重ね、実用性を最重視して誕生した、特定保守管理医療機器、一般医療機器としての認可を受けたデジタルカメラだ。

カメラとしての主なスペックは文末にまとめるが、一般消費者向けではなく、医療関係者のみへの販売となっている。同社のWebサイトで購入でき、販売価格は税別199,000円だ。

この日、マイナビニュースの取材に応じてくれたのは、ハードウェア開発部 第五開発室 室長の小甲(こかぶ)大介氏、同室 アドバイザリー・エンジニアの大塚浩一氏、DC企画推進部の林由也氏と野畑慎伍氏の4名。開発の裏話やこんな使い方ができるといった話を聞かせてもらった。

医療機器の認可を取得したデジタルカメラ

――まずは開発の経緯から聞かせてください。

小甲氏:「開発を指揮する小甲です。ハードウェアの電気系の部分や医療の認証などを担当しています。当社は2017年度にコンシューマ向けデジタルカメラの市場から撤退したことで、デジタルカメラ事業をすべて畳んだと誤解する人も少なくありません。しかし、デジタルカメラの技術資産を活かした取り組みは進めており、今回のような専門領域向けのカメラ開発などを行っています。

DZ-D100を開発したきっかけですが、当社では先に『D'z IMAGE』というダーモスコピー学習サイトを展開していて、こちらを推進していく中で皮膚科の先生方とお話する機会が多く持てました。その際、当社で専用カメラを作って欲しいという大変ありがたいリクエストを多くいただき、この度そうした声にお応えできた次第です」

  • 技術開発統轄部 ハードウェア開発部 第五開発室 室長の小甲大介氏

――デジカメ作りのノウハウを持つカシオだからこそ、応えられたリクエストですね。とはいえ、医療用となると勝手の違うところも多かったのではないですか?

大塚氏:「ハードウェア開発部 第五開発室 アドバイザリー・エンジニアの大塚です。主にレンズやライトなど光学系全般の開発を担当しました。当社ではこれまで、コンシューマ向けのデジタルカメラを開発してきましたが、医療用カメラでは、仕様はもちろん、数量背景が大きく異なります。特に今回は光学性能を重視し、レンズ・ライト等の所要部品は全てカスタム開発ですので、開発費用を最適化するために、設計・製造手法・デバイスメーカー選定から見直しました。さらに、医療認可の対応も加わり、新しい経験ばかりでした」

  • アドバイザリー・エンジニアを務める大塚浩一氏

小甲氏:「医療機器には一般的名称というものが与えられますけど、この製品は『可搬型手術用顕微鏡』といった名称になります。医療機器としては、今回のような手持型のデジタルカメラといったものはあまりないということが、この名称からも分かると思います。

そして、例えば静電気耐性などの医療機器規格は、コンシューマ向けとは考え方も全然違って、規格基準から自分たちで考えていかなければなりません。規格基準を自分で考えるということは甘くなるかというとそうではなくて、『その基準の根拠を示しなさい』となって、リスクマネジメントしていくと、基準はかなり厳しいことになるんです(笑)」

医者は下向きにカメラを構える

――最初、こういう風にやろうと想定していたことが、思った通りにならず変更したケースも多かったのでは?何か具体例はありますか?

林氏:「DC企画推進部の林です。主にユーザーインタフェースやソフトウェアの開発を担当しました。具体例を挙げるのであれば、ソフトの話が分かりやすいと思います。DZ-D100は診療の現場で使っていただくので、診療にどうGUIを合わせていくかで試行錯誤を重ねました。

たとえば、DZ-D100は病変の接写撮影と患部周辺を含めた全体を撮影する通常撮影が1台でできます。また、ワンシャッターで偏光/非偏光/UVの画像が同じ画角で撮影できます。これら撮影モードの切り替えが診療に合わせてスムーズにできなければいけません。

診療の中でどのようなフローで撮影を行うのか、そのフローに合わせて切り替わるのが理想です。先生方にヒアリングして、『この形で良いでしょうか、どうでしょうか』と何度も足を運びました。さらに誤操作や誤撮影のないよう、いま何のモードなのかが画面上ですぐ確認できるよう工夫しました」

  • DC企画推進部の林由也氏

――取扱説明書を見なくても感覚的に使えるようでないと、忙しい先生ほど敬遠してしまうので、UIが見やすく操作しやすいのは大切ですね。デザインはどうですか? 試作機と比べても、なかなか特徴的な外観になったと思うのですがどういった背景があったのでしょうか。

野畑氏:「DC企画推進部の野畑です。主に仕様書の作成やデザイン部門との連携などを担当しました。私はDZ-D100の外観デザインを素晴らしいと思っています。

元々カメラは、レンズを正面に向けて左手に載せるように構え、右手でホールドし、右手の人差し指でシャッターを押します。

ところが、試作機を先生に使っていただいたところ、多くの先生が患者の病変を上から覗き込むようにレンズを下に向け、左手でレンズ部を掴んで構え、右手の人差し指で液晶画面をタップしたんです。これには驚きました。

医療現場では通常の使い方とは異なりますので、それに適した持ち方にも対応できるようにしたいと考えました。それでこの持ち方でも安定して構えられるよう、現在のデザインになっています」

林氏:「そこはGUIも同じです。液晶画面の右側に縦に並ぶようにアイコンを配置しているのはその持ち方でも操作しやすくするためです。もちろん、普通に構える先生もいますから、どちらでも使いやすくなるよう、何度も改良しました」

  • DC企画推進部 野畑慎伍氏

  • 試作機の段階で多くの先生が、レンズを掴むように下向きに構えたことに驚き、その持ち方まで想定したデザインに修正したという

  • 液晶画面はチルト式になり、カメラを低い位置などで構えても画面を確認しやすくなっている。操作用のアイコンは右手の指で操作するために液晶画面の右側に縦に並ぶ

病変の大きさを正確に測れる仕組み

――レンズを下に向けて持ちやすいデザインは、医療現場ならではの仕様ですね。他に医療用に特化した機能や仕様はありますか?

大塚氏:「風景を取るカメラでは無いので、ある程度の性能は割り切っていますが、逆にダーモモードの接写に関しては、毛細血管が10ミクロン以下の細さだと聞いていましたので、それもきちんと解像できる光学性能になっています。またノーマルモードでは、レンズ外周のLEDリングライトにより室内撮影もできて、皮膚科で必要な2種類の撮影が可能になっています」

  • ダーモモードの他に、ノーマルモードではリングライトを点灯した通常撮影が可能

  • 臨床用の病変の周辺まで入れる撮影と、病変だけの接写の両方に利用できる。接写時は表面にゼリーを塗るため、拭き取りを考慮してアルコール耐性も持たせた

小甲氏:「コンシューマ向けのカメラは画作りも、メーカー各社が技術を競う分野ですが、DZ-D100は目で見たままの肌の色をできるだけ再現するように調整していて、ことさら鮮やかに写したりはしません。病変を正確に把握することが大事なので盛っても仕方ありませんから」

大塚氏:「UV(405mm)撮影は当社からの提案でした。UVで撮影すると肌の表面状態が判別しやすくなって、ほくろの辺縁部が見やすくなるのです。最初は試作機であまり使ってもらえていないようで手応えが今ひとつでしたが、気が付いた先生からはちゃんと評価していただけていたので安心しました」

林氏:「医療ならではという意味では、スケール(目盛り)表示はぜひ注目してほしいです。接写時は焦点距離が分かっているので、カメラ上で被写体のサイズが正確に計測できます。これを活かして、撮影時や撮影画像にサイズを測るスケールを表示できるようにしました。ズームすれば、それに合わせてスケールのサイズも変わります。今まで先生方がノギスなどで測っていたものが、このDZ-D100で測れるわけです。

1ピクセルあたりのミリ数の情報を持っていますから、撮影後の画像でも、情報から計算してスケールを表示できます。たとえば、Windowsのパソコンに取り込んだあと、モニター上で病変の写真にスケールを表示して、患者に見せながら説明するといったことにも使えます」

  • 液晶画面にはスケール(目盛り)を表示できる。スケールはタッチ操作で回転も可能だ

  • 撮影した画像は、エクスプローラなどで管理できるが、Windows用の画像管理ソフト「D'z IMAGE Viewer」ならより効率よく管理できる。1ピクセルあたりのミリ数を計算できる値を記録しているため、撮影後やPCに取り込んでからも任意の位置でスケール表示が可能だ。短径と長径も表示できる

医療現場での使いやすさを徹底的に追求

――先生方からのリクエストで搭載した機能や、変更した仕様はありますか?

林氏:「いろいろありますよ。たとえば、液晶画面をタップするソフトシャッターやスワイプやピンチ操作をできるようにしたのがそうです。最近の若い先生はスマートフォンを使い慣れていて、ソフトシャッターの方が身近です。指摘されてなるほどと、すぐ対応しました」

大塚氏:「オプションで用意するアタッチメントも先生方のリクエストです。レンズに取り付けて使うものです」

小甲氏:「顕微鏡にDZ-D100を取り付けて顕微鏡画像を撮影できるようにする『顕微鏡アダプター』と、指の間などの狭い場所や凹凸のある病変を撮影する『小径・立体アダプターセット』です。顕微鏡アダプターは7月に発売します。このあたりは先生方の意見を聞いたからこそ出てきたアイデアでした」

野畑氏:「患者さんに不安感を与えない可愛さも重要と指摘した先生がいて、柔らかく優しいフォルムを採用しました。皮膚科は女性の先生も多いので気に入っていただけたらと思います」

――カシオならではの技術が盛り込まれている部分にはどのようなものがありますか?

小甲氏:「たとえばオールインフォーカス(AIF)が挙げられます。全焦点といって、何枚か連写してボケを低減する機能です。技術自体は既にいろいろなカメラメーカーで利用されていますが、コンシューマ向けで、医療機器として使われるカメラで利用しているものは他にないのではないかと思います。1mmまでの高さのホクロなら、高低差によるボケをなくしてピントの合った写真が撮れます」

野畑氏:「当社ならではという点なら、先述の下向きに持って右手でワンプッシュできるデザインや、ボタンの数を必要最小限にしたUIも他社にはない技術と言えます」

林氏:「ゴム手袋を付けて使う先生もいるので、液晶画面をタッチしなくても、ボタンだけでもひと通りの操作ができるように設計してあるんですよ」

  • ダーモカメラ上部。明るさも感覚的に調整できるよう、シャッターの下に露出調整の「EV」ボタンを配置する

小甲氏:「動画撮影にも対応していて、たとえば立体的なホクロを記録するときに、動画で角度を変えながら撮れます。また、動画撮影中に偏光/非偏光が切り替えられるので、それぞれを見比べながら観察できるのも、このカメラならではです」

林氏:「当社で開発したWindows用の画像管理ソフト『D'z IMAGE Viewer』もあります。撮影した画像がWi-Fi経由で自動転送できます。画像をIDごとに自動管理できるので、先生方の管理の手間を軽減できます」

大塚氏:「本体にDC IN/USB/HDMIの3つの端子を用意したので、テレビにも直接つなげますし、Wi-Fiが使えない環境でデータ転送も可能です」

小甲氏:「医療機器として充電も安全に行えるよう、ACアダプターで充電できるようにして、USB充電対応は敢えて見送りました。医療現場で簡単かつ安心安全に扱えるので、ぜひ多くの先生方にご利用いただけたらと思います」

――本日はありがとうございます。

  • 今回取材に応じてくれた4人の開発メンバー

DZ-D100の主なスペックは以下の通り。

有効画素数が5,184×3,888ピクセルの約2,016万画素。撮像素子は裏面照射型の1/2.3型CMOSセンサーを採用する。レンズは6群9枚構成で、F値は3.33。焦点距離はf=7.67、35mmフイルム換算で53.3mm相当となる。ズームはデジタルズームが8倍で、ズーム分解能は0.1倍。ISO感度は通常(NORMAL)撮影でオート、接写(DERMO)撮影で固定となる。

液晶モニターは3.0型TFTカラー液晶(720x480ピクセル)で静電容量式タッチパネルだ。外部記憶媒体にはSD(SDHC/SDXC)メモリーカードを使用し、16GBの場合、静止画で約1,860枚、動画で約1時間50分の記録が可能。IEEE802.11b/g/nに対応する。電源は専用のリチウムイオン充電池。サイズはW127.5×D86.1×H76.0mm、質量は398g(電池とメモリーカード含む)となっている。

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