2018年10月にシャープ傘下となった、東芝クライアントソリューションは、2019年1月に「Dynabook株式会社」に社名を変え、同社のノートPCブランド「dynabook」は、新たなスタートを切りました。この新体制から生み出された最初の一台が「dynabook G」です。
「dynabook」の開発で、30年間培われてきた技術力と情熱―。そこにシャープの視点が加わることで生まれた「dynabook G」の魅力とは?そしてDynabook株式会社の企業としての今後の展望とは?今回は、同社のキーマンに「dynabook」のこれまでとこれからについて伺った内容をお届けしていきます。
ノートPCの代名詞!? そもそも「dynabook」とは
1989年、東芝は「dynabook」という名を冠した世界初※1のノートPC「DynaBook J-3100SS001」を発売。従来のラップトップPCを一段と小型化し、20万円を切る低価格で販売された「J-3100SS001」は大きな話題を呼び、「dynabook」ブランドを大きく印象付けました。
さらに1992年には世界初※1のVGAカラー液晶搭載ノート「DynaBook V486-XS」、1996年にはWindows 95®搭載で世界最小・最軽量※1の超小型モバイルノート「Libretto 20」、1998年には世界最薄※119.8mmの薄型ノート「DynaBook SS 3000」をリリース。「dynabook」は独自の高い技術力により地位を築いた、ノートPCの代名詞ともいえるブランドなのです。
※1 「世界初」「世界一」の記載は、発売当初、各々のカテゴリによる東芝調べによるものです。
新たに発表された「dynabook G」は何がすごい?マーケと設計のキーマンに聞いてみた
―本日は宜しくお願いします!まず簡単にお二人の自己紹介をお願いできますでしょうか。
私は1989年に東芝に入社し、以来30年間、「dynabook」の国内向けマーケティングを主に担当しています。商品をどのように市場に投入し、どのようにプロモーションをしていくか。これらを企画し、推進していく仕事をしています。 |
私は2002年の東芝入社です。それ以降、モバイルノートの設計に携わり、2010年からシステム設計を担当しています。12.5型、13型のモバイルを専門に担当してきました。 |
―ありがとうございます。では早速ですが「dynabook G」の開発経緯について教えてください。
30周年記念モデルである「dynabook G」は、「今の時代の『dynabook』はこうあるべきだ」といえる製品を目指して開発されました。“G”は正真正銘、本物という意味の英単語“Genuine”の頭文字から命名したものです。モバイルノートの本質を外さず、「dynabook」のコンセプト“いつでも・どこでも・だれでも”を追求するため、一点豪華主義ではなく、高みのバランスを追求しました。 |
モバイルノートに求められる要素には、軽量性と堅牢性、速さと駆動時間、拡張性とセキュリティなどがあります。これらすべてが90点以上といえるPCを作るというのが、エンジニアに求められた要望でした。 |
―なるほど。全てにおいて高いレベルを追求するとなると、ハードルも高そうです…。開発に際して課題となったのはどのような点ですか?
最初の課題となったのは質量でした。お金をかければかけるだけ軽量化が実現できるのは当たり前で、より良い素材、基板を使えばもっと軽くすることもできました。ですがそれは本体価格に跳ね返ります。私もいちユーザーとして、いくら軽量であっても高価なら購入しませんから、コストには意識を配りました。 |
―確かに、数十グラムの差で価格が跳ね上がるのであれば購入はためらいますよね。
そうなんです。また、軽量化は堅牢性の低下にもつながるため、「dynabook G」はMIL規格※2(米国国防総省が制定した物資の調達に使われる規格)に準拠したテストをクリアすることが求められていました。質量・コスト・堅牢性の3つのバランスは、最後まで頭を悩ませた点です。 |
※2 MIL規格に基づいて、一部Dynabook株式会社が設定した試験条件に従い試験しています。これらのテストは信頼性データの収集のためであり、無破損・無故障を保証するものではありません。
―すごく緻密な計算が必要になりそうですね。
1グラム軽くするのに何ドルかかるのか、それによって構成はどのように変わるのか…このような点を細かく詰めていき、最終的にマグネシウム合金を使い約779グラムの質量を実現しました。もちろん、MIL規格に準拠した落下・粉塵など10項目にわたる耐久テストをクリアしています。 |
さらに形状や質感にもこだわり「dynabook G」は非常にスリムかつフラットで、バッグにさっと入れられるようにデザインしています。どこにでも持ち歩き、どこで取り出しても誇れる質感を実現しました。 |
徹底的にこだわる!利用シーンを考えて設計されたキーボードとスピーカー
―その他にこだわりを持って作られた部分はありますか?
実際にユーザーが1番触れることになるキーボードの設計にはこだわりました。質量を考えるとキーボード部分はどんどん薄くしたいのですが、薄くした試作品に実際に触れてみるとたわんでしまって使い心地が良くなかったんです。 |
―キーボードの打鍵感はユーザーとしても気になるポイントですよね。
はい。そこで質量を犠牲にしてでも筐体の厚みを確保し、64本のネジでしっかりと固定する設計にしています。キーボードの周囲には立壁を作り、ここでも強堅さを確保しています。 |
どうしてもキーボードの柱の部分が弱くなってしまうので、どのキーを押しても同じ剛性を得られるようにするには、ネジで固定する必要がありました。また、筐体の製造には鋳造とプレスを組み合わせています。そのうえでストロークも1.5mmを確保しているので、ぜひ触れてみてほしい部分ですね。 |
―細部に至るまでユーザーへの配慮が伝わってきます。スピーカーもこだわりのポイントなんですよね?
そうですね。音は数値化が難しいため、設計の自由度が高い部分です。最初は軽量化を優先させるため、音に関してはそれほど高いレベルを求められていなかったのですが、作っているうちに欲が出てきてしまって(笑)。スピーカーは大きさが効いてくるので、壁を薄くするなどして質量とのバランスを見ながら調整しました。最終的に、音声チャットなどで利用する場合でも人の声が聞き取りやすいようなチューニングを行い、会議室でも十分な音量が得られるバランスにしています。 |
東芝×シャープが生んだ相乗効果とは?
―シャープグループとなり、新たに生まれた相乗効果はありますか?
非常に高輝度で低消費電力なシャープのIGZO※3パネルを利用できたことですね。コストを抑えながら470cdで約19時間稼働を実現できたのは、シャープと連携して取り組めた1つのコラボ効果だと思います。映像という視覚的にわかりやすい部分ですから、ユーザーのみなさんから見てもその効果はすぐに体感できると思います。 |
※3 IGZO液晶ディスプレイは、シャープ株式会社が株式会社半導体エネルギー研究所との共同開発により量産化したものです
シャープもこれまで「Mebius」や「MURAMASA」といった数々の名機を作ってきたメーカーです。ワクワクする製品を作りたいという想いは共通なので、これからはさらに両社の技術とノウハウをクロスさせて、より新しく面白いdynabookを作っていきたいですね。また、シャープが実現しようとしている事業ビジョンの一つである“AIoT”※4を具現化する要となるデバイスがまさにPCだと思っているので、シャープグループとしての総合力を発揮することで、より快適な社会と生活を提案できると考えています。 |
※4 「AIoT」は、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット化)を組み合わせ、あらゆるものをクラウドの人工知能とつなぎ、家電などを人に寄り添う存在に変えていくビジョンです。「AIoT」はシャープ株式会社の登録商標です。
ユーザーにとっての良いものを追求するdynabook
PCの歴史に寄り添い、モバイルノートの本質を追求してきた「dynabook」。“いつでも・どこでも・だれでも”使えるPCを、という精神は脈々と受け継がれており、それは今も変わっていません。 最後に、エンジニアという立場である杉浦さんに、dynabookの開発現場の雰囲気を伝えてもらうとともに、PC開発を志す学生に対するメッセージを頂きました。
弊社は「これを作りなさい」という押し付けの少ない会社だと思います。先ほどのスピーカーの話にもありましたが、技術者がやりたいことを盛り込んだり、設計部門から企画部門に提案したりと、自分が望むことに挑戦できるでしょう。私自身、たまに「こんなに好き勝手やってもいいのかな?」と思うこともありますが、そのぶん、こだわりを実現する熱意が求められます。ユーザーにとっての良いものを追求しようという気持ちを込められる現場ですから、PCを開発したい方の参加をお待ちしています。 |
数々の「世界初※1」を世に送り出してきた技術力と情熱に、「これまでにない製品やサービスを生み出す」というシャープの企業スピリットが融合して誕生した「dynabook G」。常に「新」を追い求める両社がタッグを組んだことで、どのようなイノベーションが生まれていくのか。今後の「dynabookとシャープのこれから」に注目です。
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