半導体設計のリーディングカンパニーであるArmは、プライベートイベント「Arm Tech Symposia Japan 2018」を12月6日に東京都内で開催。そこでは、10月に発表されたばかりのクラウド・エッジ間インフラストラクチャ基盤「Arm Neoverse」(以下、Neoverse)の詳細が披露された。
同イベントに合わせて来日した同社のインフラストラクチャ事業部門 シニアバイスプレジデント 兼 ゼネラルマネジャー ドリュー・ヘンリー(Drew Henry)氏にインタビューを行い、クラウド・エッジ環境の現状と課題、新たなインフラ向けプロセッサIPとしてNeoverseを提供するビジョンと戦略について伺った。
激変するクラウド・エッジ環境で求められる“創造性”
本格的なIoT時代を迎え、インターネットに接続されるデバイスは急激に増加しつつある。そのデバイスの数は2035年までに1兆個を超え、インターネット上を流れるデータも増大を続け、400エクサバイトに達すると見込まれている。そうした状況のなか、クラウドとエッジをめぐる環境も大きな変化を遂げようとしている。
クラウド・エッジ環境の現状について、ヘンリー氏は「既存のクラウドはコンテンツを配信することに主眼を置いてつくられているが、IoTの台頭によって、クラウドはむしろコンテンツを使う側へと変化しつつある」との認識を示す。
もちろん、既存のクラウドにもコンテンツを受け取って処理する技術は存在するが、処理しなければならないデータの増加スピードが速すぎて、クラウド側だけでは対応しきれず、エッジ側で柔軟に対応できるようにする必要が出てきているのだ。しかし、現状のアーキテクチャではそれに対応することが難しいのが実情だ。
クラウド・エッジ環境を使用する場合、アプリケーションの内容や活用するデータの種類によって、その処理の仕方もさまざまだ。ヘンリー氏は「既存の環境で使われている従来型のプロセッサは、製造側だけですべてがデザインされているため、設計が固定化され、ユーザーが用途に合わせて自分で設計を行う余地がなく、“創造性”を発揮できないのが最大の問題です」と指摘する。
一貫したアーキテクチャでIoTの進化を加速
こうしたクラウド・エッジ環境の課題を根本的に解決するインフラ基盤として登場したのが、Armの「Neoverse」である。
「激変するクラウド・エッジ環境に対応するには、柔軟性の高い新たなインフラが必要になります。そのための基盤がNeoverseなのです」と、ヘンリー氏は強調する。
Neoverseはコア・データセンターからエッジ領域までをカバーするインフラ向けプロセッサIPで、パートナーは小規模なものから大規模なものまで、自分のニーズに適合したチップを製造し、演算リソースを最も必要な場所に提供し、データを最も適切な場所に保存することが可能になる。
Armはすでに、モバイルデバイスなどのエンドポイント市場で「Cortex」ブランドとして高いシェアを誇っており、Neoverseの投入によって、クラウド、エッジ、エンドポイントの全領域で一貫したアーキテクチャに基づくプロセッサIPを提供できるようになった(図1)。
「セキュリティやストレージといったさまざまな機能が一貫したアーキテクチャに基づいて提供されるため、ソフトウェアの開発が飛躍的に容易となり、IoTコンピューティングの進化が急加速することになります」と、ヘンリー氏はそのメリットについて力強く説く。
ArmではNeoverseをグローバル・インターネット・インフラに対応するソリューションと位置づけており、そのビジネスの拡大に力を注ぐ方針だ。
「Neoverseがターゲットとするクラウド・エッジ環境は、当社にとって大きな成長分野の一つであり、今後もビジネス拡大に向けて大規模な投資を行っていきます」(ヘンリー氏)
Armのインフラ向けビジネスに対する本気度は、発表と同時にNeoverseのロードマップを公表し、今後の計画を示したことからもうかがい知ることができる(図2)。ロードマップによると、2019年前半に7nmプロセスの「Ares」、2020年に7nm+プロセスの「Zeus」、 2021年には5nmプロセスの「Poseidon」を投入する計画で、2021年までの3年間で世代ごとに毎年30%の性能向上を目指すとともに、新機能を追加していくとしている。
インフラ変革を促進するエコシステムの新たな役割
Neoverseの普及を推進するうえで重要な役割を担うのがエコシステムだ。Neoverseのエコシステム・パートナーには半導体メーカーだけでなく、システムベンダーやクラウドプロバイダー、さらにはOSベンダーや仮想化ソフトベンダー、オープンソース団体などソフトウェアディベロッパーも参加し、重要な役割を担うまでになっている。
エコシステムの最近の動向について、ヘンリー氏は「システムベンダーやクラウドプロバイダーの場合、これまではArmから投資や支援を行うことがほとんどだったが、最近ではエコシステムの側からArmに対して積極的に投資するケースも増えています」と感慨深げに語る。
例えば、Amazonが同社のクラウドサービスAmazon Web Services(AWS)向けに最適化したNeoverseベースの64ビットプロセッサ「AWS Gravitonプロセッサ」を独自開発したプロジェクトもその一つ。AWSでは仮想マシンサービスのEC2で、AWS Gravitonプロセッサを搭載したより低価格なA1インスタンスの提供を2018年11月から開始している。
またシステムベンダーのHewlett Packard Enterprise(HPE)は、2018年6月にHPC(High-Performance Computing)向けに最適化したArmベースの64ビットプロセッサを搭載した、世界最大級のスーパーコンピュータ「Astra」を発表している。
HPEではArmベースの堅牢なHPC技術をAstraや次世代のシステムに採用することで、高機能サーバの高密度化に取り組むとしている。なお、Astraはスーパーコンピュータの世界ランキング「TOP500」(2018年6月版)にも名を連ねている。
「IoTの進展によって、エンドポイントのデバイスから収集されるデータは増大し続けており、クラウド・エッジを活用するアプリケーションやデータの処理方法も多様化しつつあります。そのため、Neoverseの広範なエコシステムは、クラウド・エッジ間のインフラを変革する重要な役割を担うようになると思っています」(ヘンリー氏)
[PR]提供:Arm