カシオ計算機は、ダーモスコピー(dermoscopy)診察時に、皮膚の様子を簡単な操作で明瞭に撮影できる「ダーモカメラ」を開発中だ。今回はカメラの開発に協力する皮膚科専門医の二人に、カメラに協力した経緯や期待することなどを語ってもらった。

  • 「ダーモカメラ」の開発に協力する信州大学の古賀先生(左)と千葉大学の外川先生(右)

皮膚科のカメラは壊れやすい!?

ダーモスコピーは皮膚科の医療現場で急速に普及する診察手法で、ダーモスコープ(dermoscope)と呼ばれる特殊なルーペで皮膚の表面を観察する。カシオが開発中の「ダーモカメラ」は、この観察の際に皮膚の病変を撮影するとともに通常の臨床写真撮影も可能にしたカメラだ。5月31日から6月3日まで開催された、第117回 日本皮膚科学会総会でも参考出展していた。

開発に協力したのは、千葉大学の外川八英先生と信州大学の古賀弘志先生の2人。カシオがダーモスコピー学習サイト「D'z IMAGE」を開発する際にも協力を仰いでおり、実は「D'z IMAGE」への協力を打診したときから、カメラの開発も視野に入っていたのだと言う。まずは打診を受けた両先生が協力を決意した背景や、どのような形で協力したのか聞いていこう。

  • まだ開発中のモデルだが、コンパクトサイズになる予定。男性だと手のひらにすっぽり入る。女性用のポーチなどにも入れられそうだ

――先生方がカシオのダーモカメラの開発にご協力されたのは、まさに皮膚科の医療現場で必要性が高いと判断されたからだと思います。具体的にどのように役立つのか、現場のいまの様子も踏まえて教えていただけますか。

外川先生:最初に聞かれたのは、いま現場で使われているカメラに対する不満や、改善を望むポイントでした。カメラとダーモスコープを別々のメーカーの製品をくっ付けて使うので壊れやすかったり、システムが複雑になったりするのです。また、カメラに一眼レフを利用するとどうしても重くなります。また、ダーモスコープの偏光と非偏光を切り替える際にレンズ交換がいるものは、作業が煩雑です。交換の時にゴミが入ったり、病変の位置がずれてしまったりすることもあって、何かと面倒なのです」

――なるほど。カシオのダーモカメラではシャッターを一度押しただけで、偏光と非偏光のダーモスコピー撮影が同時にできる仕様になっていますが、これなら偏光と非偏光で病変の位置がずれたり、ゴミが入る恐れはありませんね。古賀先生はいかがですか。

古賀先生:「最近はスマートフォンに接続して撮影するタイプのダーモスコープも登場していますが、スマートフォンは写真を過剰に補正する傾向があります。我々の用途は正確性が重要なので、そのあたりに気を付けてくださいとお願いしました」

――確かに病変の写真を盛る必要なんてありませんね! 他にリクエストしたことはありますか。

外川先生:「病変には凹凸があってピントが合いにくいことも話しました。多少高低差があっても自動でピントが合うだけで手間が減ります。また、撮影するたびに画面の明るさを調整するのも結構たいへんです。できるだけ同じ明るさに勝手に揃えてくれて撮影できると楽になると伝えました。あとはよく壊れるので、カシオの“G-SHOCK”のイメージにも合う壊れにくいものをとリクエストしました」

――病院のカメラってそんなに壊れるものなんですか?

古賀先生:「壊れます。私のところでは、臨床用にはデジタル一眼レフカメラに、100mmのマクロレンズと、リングフラッシュを付けて使っています。リングフラッシュもレンズも年に一回は必ず壊れます」

外川先生:「うちもそんな感じです」

古賀先生:「予備は必須です」

外川先生:「フラッシュの電源の首のところがまず壊れます」

古賀先生:「フラッシュの発光部も壊れますね。下向きに使いがちなので落としやすいし、振り向いた拍子にぶつけやすいんですよ」

外川先生:「ふた月に一度くらい、何かが壊れて修理に出しています。今でこそ笑い話ですが、病院の事務側から、どうして皮膚科がこんなにカメラの備品の修理が多いのかと指摘されて、説明で大変な思いをしたことがあります(笑)」

古賀先生:「カシオのダーモカメラは軽いので、構えていて指が震えることもなく、落とすこともなくなると期待しています」

――本体が軽いと万が一落とした場合も比較的壊れにくくなりそうですね。

外川先生:「これは医療用なので、本体の汚れやレンズをアルコール綿で拭いても大丈夫になっています」

古賀先生:「あとは複数人で使うために、多機能なカメラでは設定がいつの間にか変更されていて、元に戻せずに困ることがあります。ダーモカメラはホワイトバランスなどが自動になっていて、設定をいつのまにか変えてしまうリスクが少ないので安心です」

  • 開発中モデルの正面。レンズ周囲の8個の臨床撮影用LEDリングライトが印象的だ

  • 背面。右側に表示画像の拡大、縮小ボタンを備える。ユーザーインターフェースはこれから作り込む段階だがスケール(目盛り)を表示して病変のサイズが計測できる仕様になる

  • 天面。左から電源、明るさ調整、シャッターのボタン。ボタン数を最小限に絞っている

  • 左側面。こちらは何もない

  • 右側面。カバーの内側にUSB端子を備える

画面が均一な明るさでスケールに歪みがない

――これは絶対実現してほしいと、強くリクエストした機能や仕様はありますか。

外川先生:「一枚の画像が一様であってほしいとお願いしました。これまでのカメラでは写真の中心と端で歪みが出て、見た目のサイズが違ってしまっていることがよくあるのです。端の血管の立ち上がるところが見たいのにそこがちょっと見えないといったことあると、やはりストレスになります。このダーモカメラでは、歪みの少ないレンズを作ってくれたのでストレスが減らせそうです」

古賀先生:「臨床撮影用のLEDリングライトも、画面の中心から端まで光が均等に当たるようにしてほしいというリクエストから生まれました。これ、技術的に難しいはずだと思うので、純粋に凄いと思います。市販の1万円くらいのLEDリングライトを幾つか使いましたが、全然均等に当たらないですから」

――フラッシュと違ってずっと光っているので、光が当たった状態が液晶画面で確認して撮影できるのが良いですね。

古賀先生:「そうなんです。接写だけでなく、引いた臨床写真も撮れるし、とてもありがたいです」

外川先生:「凄いですよね。風景まで撮れます。流石に風景まで撮れるというリクエストはしなかったですよね」

古賀先生:「はい(笑)」

外川先生:「あとは女医さんも使うので、軽くしてほしい、女性がカバンに入れられるようにしてほしいとお願いしました」

  • 「女医さんも使うので軽くしてほしい」と述べる外川先生

――ダーモスコープのUV撮影は開発機では搭載していますが、最終的に実装するかは未定とのことです。大きなコストアップにならないなら欲しい機能ですね。完成までにブラッシュアップしてほしいところはありますか?

外川先生:「凹凸のある病変への対応で、たとえば画面をタッチして、フォーカスを合わせたり、シャッターが切れると便利ですね。スマートフォンのカメラでよくある機能なので、期待するユーザーも多くなりそうな気がします」

古賀先生:「高さのある病変については、ピントをずらしながら連写して、後から合成するという機能を検討しているそうです」

外川先生:「病変の写真に背景のボケ味は不要ですね(笑)」

古賀先生:「芸術性はいりません(笑)」

外川先生:「ピントが合うという点では、口の中の撮影もしやすそうですね」

――口の中にもできるんですか。

外川先生:「できます。メラノーマは口の中や喉の奥なども稀ですができますし、副腎や消化器官にもできます。ただし注意が必要です。皮膚と違って気が付きにくいですからね」

古賀先生:「指の間や耳の裏、脇の下など、狭い場所のダーモスコピー撮影するためのアダプタも開発してもらっています。喉の奥はつらいですが、歯茎くらいならずいぶん楽に撮れるようになりますね」

――他にリクエストしたものはありますか。

古賀先生:「そうですね。マクロの3Dをリクエストしました。これもきっと難しいだろうなと思いながら言ったのですが、やはりすぐに実装は難しそうです(笑)」

――なるほど。画面上で見る角度を変えたり、3Dプリンターで出力できると、病変の確認をより正確にできそうですね。

古賀先生:「皮膚の表面の問題なので、3Dプリンターまで使わなくても、ある程度立体的に色調が再現できれば十分です。カシオには『Mofrel(モフレル)』という2.5Dプリントシステムがあると聞いていますので、ひょっとしたら連携すると便利かもしれないですね」

  • 「立体的な色調の再現までできると、病変を確かめやすくなる」と語る古賀先生

皮膚科以外でも使い勝手の良い臨床カメラになる

外川先生:「あとは、医局員の中で患者さんに簡単に見せられるようにテレビやタブレットなどのディスプレイに簡単に映し出せればいいなという意見がありました」

古賀先生:「なるほど。大きな画面に映し出せると患者さんに説明しやすいですね。往診のときに使うと考えると、その家のテレビに映し出せると便利そうです」

外川先生:「往診で使うという点では、臨床カメラとして使えるところが実は結構大きなポイントです。皮膚科医以外でも使いやすいので、たとえば内科のドクターが往診のときに持って行けます。彼らは傷やデキモノなどの褥瘡(じょくそう)があると写真に撮ることがあるんです。そのとき、ちょっと黒っぽいものがあったときにも、このカメラで撮影して皮膚科医に相談してもらえれば、悪性のものかどうか判断できます。多くの医療現場で使用されることで、皮膚がんの死亡率も下げられるのではないかと思います」

――皮膚科医以外でも使い勝手が良いと知らしめるには、まずは皮膚科の中での普及が重要ですね。普及の鍵はどのあたりにあると思いますか。

外川先生:「やはり値段だと思います。医者になりたて、あるいは医学生のうちからでも持てるような値段になって、聴診器と同じくらい普及してほしいです」

古賀先生:「多分、世界で一番いいダーモカメラだと思います。先日の皮膚科学会総会でも、注目されていたようなので、期待できるのではないでしょうか」

外川先生:「日本人は白人よりもメラノーマの罹患率がかなり低いのですが、一方で実際にメラノーマが見つかったときは、日本人のほうが圧倒的に進行期が多いのです。アメリカでは早期に発見するので、数は多いけれども死亡率は低い。日本では数が少ないかわりに、いざ見つかるとすでにメラノーマに厚みがあって命に関わるケースが多い。日本でももっと早期に発見して処置できれば、死亡率は絶対に下がります」

古賀先生:「もしかすると、リングライト付きで臨床写真機能だけの、ダーモスコープ機能のないモデルもあると、褥瘡の撮影が多い内科医にはニーズがあるかもしれませんね」

外川先生:「褥瘡は訪問看護師も撮影しますね」

古賀先生:「今後は人工知能の開発が進んでいくと思います。人工知能は、学習用の画像の質が良くないとなかなか賢くなりません。そう考えると、ダーモカメラは、人工知能に学習させるためのダーモスコピー画像を得るうえで標準機種になれるのではないかと思っています」

外川先生:「海外のほうがダーモスコピーは盛んです。ダーモカメラやD'z IMAGEを英語圏などでも使えるようにすれば研究が進みますし、カメラはロットを増やせるので、価格を抑えられるのではと期待しています」

――本日はありがとうございます。

  • 両先生がポーズの合間にカメラをいじって遊ぶお茶目なシーン。プライベートではガジェットも好きそうだ

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