5月31日から6月3日にかけて、「第117回 日本皮膚科学会総会」が広島県広島市にて開催された。総会は多数の講演や講習会などが実施されるが、ここではカシオが参考出展した「ダーモスコピー(dermoscopy)」撮影向けのカメラと画像管理ソフトを中心に展示やセミナーの様子を報告する。

  • 第117回 日本皮膚科学会総会の様子

    第117回 日本皮膚科学会総会

カメラの初心者でもきれいに撮れる臨床&ダーモカメラ

最初に足を運んだのは広島グリーンアリーナに設けられた展示スペースだ。ここでは協賛企業などがブースを構え、研究成果や関連機器、書籍などを出展しており、その一角でカシオがダーモスコピー用の撮影カメラを参考出展していた。

千葉大学との共同研究により開発中のもので、正式な製品名は未定。ここでは「臨床&ダーモカメラ」の仮称で呼ぶ。

  • 臨床&ダーモカメラの展示ブース

    臨床&ダーモカメラが展示されているカシオブース

  • 参考出展の臨床&ダーモカメラ。外見はややトイ系に振ったデザインの普通のデジカメ

    参考出展の臨床&ダーモカメラ。コンシューマ向けカメラではなく、医療機器となる

臨床&ダーモカメラは、カメラに詳しくない医師でも簡単に扱える仕様になっており、偏光/非偏光/UVの3パターンを、同じ画角かつ1シャッターで撮影できるのが特徴だ。

「偏光」は光の乱反射を防いで皮膚の薄皮のすぐ下にある皮膚内部の色や構造を撮影する。「非偏光」はいわゆる普通の撮影だが、皮膚の表面のキメ等を撮影するのに役立つ。「UV」は紫外線撮影で、実装するか未だ検討段階のものという。紫外線は皮膚の奥まで通り抜けるため、偏光では浮き出てこない隠れたシミや薄い色素を強調する効果があると期待して搭載している。

  • 撮影された写真はこのように表示される

    撮影された写真はこのように表示される

ダーモスコピー撮影は皮膚にレンズを直接当てるほどの接写が前提となる。このため、レンズは消毒用アルコールで拭けるように工夫した。採用するレンズは「ダーモ&臨床撮影両対応レンズ」。撮像素子は1/2.3型CMOS(裏面照射型)で、焦点距離は0cm~∞で自動調整。有効画素数は2000万画素。接写だけでなく普通のデジカメとしても使えるようになっており、臨床写真もこの一台で撮影可能というわけだ。

  • ダーモスコピー撮影を行う様子

    ダーモスコピー撮影を行う様子

接写時に内部から照射するライトは、白色LEDと近紫外線光LEDで、計10灯内蔵。レンズ外周部にも臨床撮影用のリングライト(白色LED8灯)を搭載する。ストロボフラッシュで被写体の色合いが変わるのは用途の上で好ましくないため、撮影時にだけ光るのではなく、光らせたままの状態でカメラを構え、液晶画面で見たままの画像を残せるよう配慮している。ライトの明るさはオフを含めて4段階の調整に対応する。

インタフェースはできるだけ簡素化し、ボタンはシャッター、明るさ調整、デジタルズーム調整(拡大/縮小)のみで、デジタルズームは8倍まで。オートフォーカス搭載で、シャッタースピードは自動。接写中心なので手ぶれ補正は省いている。

撮影画像は液晶画面上で確認する際に、メジャーを表示して病変の大きさを数値でチェックできる。これは撮影時に被写体との距離が分かっているからこそ実装できた機能だ。

撮影時にJPEGファイルのExifにカルテ番号などを入力できる。書き出しはWi-FiとUSB端子、SDカードが利用可能だ。

複数画像を見比べやすくメジャー表示も可能な画像管理ソフト

カシオでは、臨床&ダーモカメラで撮影した画像を管理するための管理ソフト「D'z IMAGE Viewer」(仮称)も用意している。D'z IMAGE Viewerの開発には信州大学が協力している。

  • 同じ患者の1つの病変が、時系列で表示されるので比較がしやすい

    同じ患者の1つの病変が、時系列で表示されるので比較がしやすい

D'z IMAGE Viewerでは、病変の比較がしやすいよう、複数の画像を並べる表示に対応する。同じ患者の1つの病変を時系列で表示したいというニーズに応えた機能だ。

表示画像にはメジャーやグリッドを表示できる。病変が大きくなっているかどうか数値で確認可能。現在、スケールの間隔や使い勝手などを先生方にヒアリング中で、微調整の入る可能性もあるという。メジャーは現時点でも特に好評な機能だそうだ。

スタンドアロンで利用するが、ネットワークにつながる端末の場合、AIによる診断サポートを視野に入れ、データをクラウドに送ることも想定する。画像にはD'z IMAGE Viewerからのみアクセスできるようにし、外部に書き出す際は、JPEGのExifから個人情報を削除してファイルを新規に生成する。

対応環境はWindowsのみ。iOSは検討中で、Androidへの対応は今のところ考えていない。現時点では販売による提供ではなく、臨床&ダーモカメラ購入者に無償でダウンロード提供することを想定している。

発売時期や価格は未定だが、「競争力のある価格で年度内に発売したい」とのこと。皮膚科の診療現場で重宝されるに違いなく、実際に学会での各先生方の反応は上々のようだ。

ダーモスコピー画像の撮影や管理のコツについてセミナー

18時からのスタートとなったイブニングセミナーには、300人弱の先生たちが参加した。このセミナーは、東京女子医大東医療センターの田中 勝先生を座長に招き、千葉大学の外川先生と信州大学の古賀先生が順番に登壇する約1時間に渡る内容となった。

  • イブニングセミナーに登壇した外川先生(左)、田中先生(中央)、古賀先生(右)

    イブニングセミナーに登壇した外川先生(左)、田中先生(中央)、古賀先生(右)

先に壇上に登った外川先生は「ダーモスコピー撮影のコツと新しいダーモカメラへの期待」と題して講演した。

ダーモスコピー撮影の時は、病変部の痂皮や汚れ、化粧などはしっかり取り除き、病変部が撮影しづらい場合も押さえつけずに角度や方向を変えてそっと撮影したほうが良いという。さらに思い込みで患者に接するのは危険だとも指摘した。

特に外川先生が「患者が『子供の頃からあるホクロだ』と主張した腫瘍基部を念のために撮影してみると、基底細胞がんだったことがある」と語ると、会場はざわつき、患者は医者が思う以上に思い込みが強く、疑わしい病変部はきちんとダーモスコピーで診察するべきだという主張にもうなずく参加者が多かった。

外川先生は、自身が診察を通じて得た経験から、「ダーモカメラに求められる機能や性能をカシオに伝えた」と述べ、試作機に触れた感想として「偏光・非偏光・UVがワンボタンで撮れる仕様は、現場の医師のニーズに応えるものでダーモスコピー画像がストレスなく撮れる」と締めくくった。

  • 古賀先生はD'z IMAGE Viewer(仮)でダーモスコピー画像が効率よく管理できると語った

    ダーモスコピー撮影のコツについて語る外川先生

続く、古賀先生は「画像管理の課題と理想形:AI時代を生き残るための皮膚科画像管理術」と題して講演した。

古賀先生はダーモスコピー画像として適切な画像の条件は、医師が所見を出す際に参照しやすくするためだけでなく、人工知能(AI)の学習に寄与するためでもあると言う。人工知能の学習は、撮影条件が近い画像を多く用いるほど効率が上がる。例えばライティングの条件が著しく異なる画像で学習した場合、画像だけでは肌の色の違いが病気によるものかライティング条件によるものか、人工知能は判断できなくなり、精度が下がってしまうのだ。

そして、人工知能の学習まで視野に入れた時、最も慎重に扱わねばならないのは、患者の個人情報の流出や紛失となる。例えば信州大学では、撮影に利用するカメラは厳重に管理し、SDカードの抜き差しはローカルルールで禁止しているという。画像ファイルごとに写真番号、ID、氏名、診断を付けて管理し、バックアップは二重に施す。患者の病変写真はIDごとに管理しているという。

こうした中、個人情報の管理にも優れた、ダーモスコピー画像管理ソフトとして、前述の画像管理ソフト「D'z IMAGE Viewer」を紹介した。

古賀先生はこのソフトの開発に協力しており、D'z IMAGE Viewerでは各患者の経過時間の異なる写真を、見比べやすいように同時に2つ並べて表示できることや、表示中の画像にメジャーやグリッドを追加して病変の大きさを数値で把握しやすくできる点などを高く評価した。

  • ダーモスコピー撮影のコツについて語る外川先生

    古賀先生はD'z IMAGE Viewer(仮)でダーモスコピー画像が効率よく管理できると語った

ダーモスコピー道場に道場破りが登場!?

時間は前後するが、イブニングセミナーの前に外川先生と、さとう皮膚科院長の佐藤俊次先生がオーガナイザーとなって「実践! ダーモスコピー道場(実技)」も開催された。ダーモスコピーの基本的な考え方やダーモスコピー画像の見方について、参加者が一人一台のPCを前にして学ぶ講座で、翌日の開催と併せると合計で約200名が受講した。

最初に外川先生による座学があり、その後で目の前のPCを利用して、参加者一人ひとりが出題を解いていく実践の時間となる。教材は学習サイト「D'z IMAGE」のインタフェースをベースに、短時間でたくさんの問題に取り組めるようカスタマイズしたものが使われ、画面に疾患部のダーモスコピー画像が表示され、正しい疾患名を選択肢から選ぶ内容だ。

テストとは異なり、正解はその場で分かる。1問ごとに解説が表示される仕組みで、解説に疑問を感じたり、PCにトラブルがあった場合などは、手を挙げると講堂内を周る10名ほどの皮膚科専門医がチューターとしてすぐに駆け付ける。

  • ダーモスコピー道場で真剣に問題を解く参加者たち。疑問やトラブルはチューターがサポートする

    ダーモスコピー道場で真剣に問題を解く参加者たち。疑問やトラブルはチューターがサポートする

なお、今年は講座の最後に「ダーモスコピー道場破り」と題する全員参加型のクイズコーナーが設けられた。難問ばかりが出題されたこともあり、全6問とも正解したのは、2日間でわずか2名だった。

  • ダーモスコピー道場破りで難問を出題する佐藤先生

    ダーモスコピー道場破りで出題する佐藤先生。ユニークな企画だ

皮膚がんは早期に発見して処置できれば、完治の難しくないがんだ。そして、皮膚がんの早期発見の鍵を握るのは、ダーモスコピーの普及と医師達の練度の向上と言える。

開発中の「臨床&ダーモカメラ」が製品化され、医療の現場で活用されるようになれば、よりスピーディで正確な所見の実現を後押しし、「D'z IMAGE」でのさらなる効率的な学習にも役立つに違いない。

[PR]提供:カシオ計算機