オスラム オプトセミコンダクターズは5月23日、LEDなど同社の光デバイス製品群とその技術動向について解説する「オスラム オプトセミコンダクターズ LED セミナー」を開催する。これらのデバイスを用いた製品・アプリケーションの開発やマーケティングに携わっている企業関係者、また大学・研究機関の研究者など幅広い層に向けて、同社の技術と製品を詳しく紹介していく場になるという。

本稿では、セミナーのテーマの中から、特に注目度の高い「一般照明用LED」と「ウェアラブル関連製品」にフォーカスし、当日登壇するセミナー講師への取材をもとに、同社製品の特徴と技術概要についてお伝えする。

LED照明の色の均一性を高める「10°ビニング」推進

オスラム オプトセミコンダクターズは、車載用、産業用、民生機器用、一般照明用という4つの市場に向けて、LEDやレーザー、受光素子(フォトダイオード)といった光デバイスを幅広く提供している。今回、一般照明用LED事業について、同社の瀧哲也氏を取材した。

LEDに関しては発光効率の向上や低価格化といった要求は当然あるが、それに加えて光の「色の質」が重視されるようになっており、同社としてもそこにフォーカスした製品開発を進めている。そこで、同社が現在注力しているテーマとして、最近策定された新しい選別方法である「10°ビニング」に準拠したLED製品の普及がある。10°ビニングとは何か。「一言で言えば、より人間の目の見え方に近くなる新しい選別方式です」と瀧氏は説明する。

LEDを含め個々の照明器具は、同じ工場、同じ製造ラインで作っても、デバイスごとの品質のバラつきを完全にゼロにすることはできない。そのため、光の色に関する品質基準を設け、その基準内にバラつきが収まっていれば、同じ色で発光しているとみなせるとしてデバイスの品質管理を行っている。この品質基準として、照明業界では「CIE 1931 2°xy」という規格が長年にわたり用いられてきた。しかしながら、この規格を満たしている(すなわち同じ色で発光しているとみなされる)LEDライトで照らした場合でも、人間の目で見るとかなり違った色に見えてしまうといった例が実際にあるという。なぜこのようなことが起こるのだろうか。それを理解するために、まずは、従来の規格「CIE 1931 2°xy」とはどのようなものだったのかを簡単にまとめておこう。

「CIE 1931 2°xy」は、国際照明委員会(CIE)が1931年に策定した規格であり、人間が2°の視野角でモノを見るときの色の見え方についての研究をもとに作られている。赤・青・緑の三原色の成分比によって決まる色をxy座標平面上の点で表したグラフは「xy色度図」と呼ばれる。xy色度図上のある座標(x,y)で表される色に対して、その座標のすぐ近くにある色については、人間の目では区別することができないと考えられる。この区別できない範囲は、座標(x,y)を中心とした楕円の領域で示すことができる。この楕円は「マクアダム楕円」と呼ばれている(この研究を行った米国の物理学者マクアダムの名前に由来)。

オスラム オプトセミコンダクターズ マネージャーマーケティング SSL瀧哲也氏(工学博士)

規格「CIE 1931 2°xy」は、照明器具の発光色の色度座標がマクアダム楕円の内部に収まることを要求することによって、色の均一性を保証する。楕円の大きさのとり方によって、3ステップ、1ステップなどと基準の厳しさを設定することもできる。3ステップよりも1ステップのほうが、より小さな楕円の内部に色度のバラつきが収まるので、より厳しい品質基準であるといえる。しかし、上述したように人間の目で見ると、3ステップあるいは1ステップのマクアダム楕円内に収まっているLED照明でも、実際の色の見え方がかなり違うということが起きる。その理由は大きく2つあると瀧氏は指摘する。

「ひとつの理由は、人間の目はマクアダム楕円の基準である色度よりも『色差』に対して敏感に反応するということです。それから、もうひとつの理由として、人間が実際にモノを見るときには視野角2°という狭い範囲で見ているということはなく、もっと広い範囲を同時に見ているということがあります」(瀧氏)

色差とは、色度座標上の2点間の距離を取った値である。人間の目で見て区別できない色差の量は、その色がxy色度図上のどのあたりに位置するかによってかなり異なっている。つまり色度座標上で等距離にある2点であっても、肉眼で区別できる色とできない色があるということになる。また、視野2°の基準では考慮されていないより広い範囲の視覚情報も、実際の色の知覚に影響を及ぼしている。

「こうした人間の視覚特性を織り込むことによって、より人間の目の見え方に近い基準を作る必要があるということで検討が重ねられ、2015年に策定された新規格を元に開発された選別方式が10°ビニングなのです」(瀧氏)

10°ビニングは、CIEが2015年に定めた「CIE 2015 10°u'v'表色系」に基づく選別方式です。この規格では、座標変換の式によって、xy色度座標をu'v'色差座標に変換したグラフを使用する。xy色度座標上のマクアダム楕円は、u'v'色差座標上では真円に変換される。従来の規格で色度座標上の楕円の内部に収まっていた点の一部は、新規格の色差座標に変換したとき真円の外に大きくはみ出す。これが、従来の規格を満たしているにもかかわらず色が違って見えていたケースに該当すると考えられる。逆に、色差座標上の真円の内部に収まっている点は、色度座標に変換した場合にも楕円の内部に収まる。

左が従来の2°ビニング、右が10°ビニングの規格。2°ビニングの規格をみたす製品でも、10°ビニングに変換すると品質が大きくバラつくことがある(提供:オスラム オプトセミコンダクターズ)

LED発光の色のバラつきをこの真円の内部に収めることで、人間の目の見え方をよりよく反映した品質管理が可能になるといえる。従来の規格よりも要求は厳しくなるので、より高度な製造プロセスコントロールと品質管理が必要となる。同社では、これまでに蓄積してきたLED製造技術を駆使して、10°ビニングに準拠した高品質なLEDデバイスを提供していくという。

「我々は、より良い色の均一性を保証できる選別方式として10°ビニングを広めていきたいと考えています。LED照明を使用されているお客様も、色の品質の確保については現状かなり工夫や苦労をされていますが、新しい10°ビニング製品によって、その負担を軽減できるものと思います。特に、光量が大きく少ない個数のデバイスで照らすダウンライト、スポットライトは、色の違いがもっとも出やすいところですので、まずはそうした用途の製品から10°ビニングへの対応を進めているところです」(瀧氏)

ダウンライト、スポットライトに使われるハイパワー、ウルトラハイパワーのLED製品については、すでに10°ビニング対応製品の製造販売を開始している。さらに今後は、直管型照明など多数のLEDを並べて使う用途でのロー・ミッドパワー製品に関しても、使用される粒数の少ないものから順次10°ビニングに対応していく予定であるという。

セミナーでは、実際のLEDデバイスでの色の見え方の違いがわかるデモ機なども使いながら、10°ビニングに関するより詳しい技術解説を行う。「当社では一般照明用LEDに特に力を注いでおり、現在マレーシアのクリムに最新鋭・世界最大級のLED製造工場も建設中です。我々の意気込みが伝わる講演にしたい」と瀧氏。セミナーは、同社の最新技術に関して、ウェブでは公開できない突っ込んだ内容になると期待したい。

ウェアラブル市場へ向けた総合的な製品開発を加速

市場拡大が期待されるウェアラブル分野は、小型かつ高出力の光デバイスを数多く取り揃えている同社にとっても大きな成長分野となる。このため、可視光LED、赤外LED、レーザーなど同社の各事業が一体となって、総合的な製品開発を進めている。今回、同社の可視光LEDについて矢崎墾氏、赤外/レーザー製品については大熊宏氏に取材した。

オスラム オプトセミコンダクターズ VIS LED マルチマーケット アシスタントマネージャー 矢崎墾氏

オスラム オプトセミコンダクターズ IR マーケティングマネージャー 大熊宏氏

ウェアラブル製品の市場としては、大きく分けて、ヘルスケア用途、ゲーム用途、産業用途といったカテゴリーがある。ヘルスケア分野については、たとえば、リストバンドやスマートウォッチの生体情報モニタリング向けに同社の可視光/赤外LEDがすでに採用されており、LED光による心拍数測定や血中酸素濃度測定などに使われている。ゲーム分野でのVR(仮想現実)用ヘッドマウントディスプレイ(HMD)や、工場や倉庫などで作業者に指示を出すために使われるAR(拡張現実)用グラスウェアなどの光源用途としてもLEDが利用されるため、これらも同社の注力事業の1つとなっている。

同社の基本的な事業体制は、一般照明事業部、可視光LED事業部、IR事業部と大きく3つに分かれており、可視光LEDに関しては、さらにPE(民生用電子機器)、MM(産業向けマルチマーケット)というセグメント分けがされている。また、IR事業部では、民生用・産業用を問わず、赤外LEDおよびレーザー関連事業全般を扱う。ただし、ウェアラブル市場への取り組みにおいては、こうした事業セグメントの垣根を取り払い、全社一体となって総合的な製品開発を進める方針をとっている。

たとえば、VR-HMD、AR-HMDでは、メガネ型液晶ディスプレイのバックライト用途、あるいはメガネに内蔵する小型プロジェクターの光源として可視光LEDが使われる。また、位置検知や視線検知といった機能をHMDに持たせるため、測定用の赤外LEDも使用される。このように同社で提供できるさまざまな製品群を総合的に組み合わせて展開していけるのがウェアラブル市場の特徴である。代表的なアプリケーションについて、以下の通り技術概要と市場動向をまとめよう。

■グラスウェア/HMD

グラスウェアについて、同社では「N2Eプロジェクション」と呼称し、事業化を進めている。N2EはNear to Eyeの意味で、目に近接して使われる映像表示デバイスを意味する。ゲーム分野でのVR用途の他、産業向けでは工場での作業者に手順書を示したり、倉庫でのナビゲーションシステムを表示するといった用途で製品開発が行われている。また、セキュリティーガード分野の用途も今後、東京オリンピックに向けて需要が大きくなっていくとみている。

「たとえば、テロリストの顔情報をデータベース化しておき、警察官などが装着したグラスウェアにその情報を表示させ、警備の現場での人物照合に利用するといった使い方がいずれ実現するのではないかと想定しています」(矢崎氏)

こうした映像表示用途で光源に用いられるLEDの構造には、赤・青・緑の三原色の素子を1色ずつ配置する3チャンネル型、赤+青を1パッケージ化しその他に緑を加える2チャンネル型などがある。2チャンネル型の場合、ある程度の省スペース化ができることに加え、人間の目の感受性が高い緑色を独立させることでより明るい映像表示が可能になるといった利点がある。

さらに、三原色を1パッケージ化した1チャンネル型についても、現在製品化を検討している。チャンネル数を減らしてパッケージ化することで、基本的にはデバイスの小型化が可能になるが、光学設計が複雑になる面もある。このため、製品開発では、レンズメーカーや光学エンジンメーカーなどとの連携を重視している。

「たとえば、お客様とのディスカッションの中で、緑の素子を2つ組み込んだRGGBという光源が欲しいといった要件が出てくることがあります。そういった特殊な要求にも対応できるように開発を進めています」(矢崎氏)

可視光LEDだけでなく、赤外LED、受光素子、レーザー製品も、HMDやグラスウェアでの採用がはじまっている。こちらは主に位置検出や視線検知などの用途に使用される。HMDでは、装着した人がどちらを向いているのか、あるいはどこを見ているのかといったことを検知して、それに合わせて映像を表示したり、フォーカスを調整したりする必要があるためである。

「さらに、ハンディキャップをもっている人が、デバイスを通して視線で指示を出すことによってモノを動かしたりであるとか、今までにない有益な用途も検討されています。こうした分野で我々の赤外LED、受光素子、レーザー製品が使われることになります。HMDに関しては、事業化フェーズとしてはまだ初期段階ですが、今後3年先、5年先を見すえたときには非常に大きく成長していくだろうと予想しています」(大熊氏)

視線検知(アイ・トラッキング)では赤外LEDが使用される。同社では非常に効率の良い赤外LEDの技術をもっており、競合企業もそれほどないことから、今後の有力な成長分野の1つになると捉えているという。位置検出に使われるレーザーについても、同社には30年以上の技術・製品開発の積み重ねがある。これまで加工用など狭い用途に限られてきたレーザー技術だが、ここ数年はウェアラブル関連など新しい分野の拡大が続いている。

「レーザー関連も今後5~10年で倍々の市場成長を見込んでおり、非常に大きな期待を持っています。市場のニーズに応えながら、最適な製品を最短スピードで提案していきたい」(大熊氏)

■生体モニタリング

リストバンド型ヘルスケア機器で心拍数や血中酸素濃度を測定する用途では、同社のLEDおよび受光素子がすでに採用実績を上げている。

心拍数測定については、緑色の可視光LEDを血管に向けて照射し、反射して戻ってきた光を受光素子で受け、その差分を取ることで血管の膨張収縮を測ることが可能である。血管が膨張して血流が増えるタイミングでは、多くのLED光が血液中に吸収されるため、戻ってくる光の割合が減る。血管が収縮するタイミングでは戻りの割合が増す。この変化をとらえて心拍数を計算するという仕組みだ。 血中酸素濃度の測定については、赤色LEDと赤外LEDを使って、赤色光と赤外光の2波長に対する血中ヘモグロビンの吸収率の違いをもとに推定を行っている。

「心拍数測定や血中酸素濃度測定といったベーシックな用途では、当社製品がすでにかなりのシェアを占めています。そこで次の世代としては当然、血圧、血中アルコール濃度、血糖値などを測りたいといった要求が出てきます。あるいはそれらの情報をもとに、ストレスレベルをモニタリングしたいであるとか、新しい付加価値のある製品開発に取り組んでいくという話になってきます。我々は光デバイスメーカーですが、完成したソリューションの状態での提案ができるように、将来アルゴリズム開発などまで自社で行うことができるようにしたいと考えています。そのため、ソフト・ハード両面で他社との協業、連携を強化しているところです」(大熊氏)

生体モニタリングデバイスについては、あらゆるモノ、あらゆる場所に付けていこうという動きが強まってきている。同社としても、さまざまな企業と連携する中で製品化の検討を進めているという。

■テキスタイルへの組み込み

導電性繊維と組み合わせることで衣服にLEDを組み込んで光らせるといった用途も出てきており、これもウェアラブル用途の一部であると位置づけている。アパレル業界をはじめ、カーテンなどのインテリア家具にLEDを組み込むといった使用法も検討されている。

「LEDの色の均一性など、光の品質については老舗のLEDメーカーとして蓄積してきたノウハウがありますので、微妙な色合いへのこだわりが求められる用途にも対応していけると考えています」(矢崎氏)

布地の裏側からLEDを装着する場合には円型実装タイプの製品「PointLED」を提案している。小型薄型の「CHIPLED」もテキスタイルへの取り付けに適している。効率が高く、種類も多いため、こうした用途に向いた製品群であるといえる。

以上、ウェアラブル市場に向けた同社の取り組みについて、その概要を紹介してきた。幅広い製品群と実装技術、そして外部企業との連携によって、用途やコスト要求に合わせたさまざまなタイプの光デバイスを提供できるのが同社の強みといえるだろう。「製品やアプリケーションのアイデアがあれば、連携企業とのネットワークを使って、そのアイデアを実現できる総合的な事業開発体制を整えている」と両氏は強調する。ウェアラブル関連での新規事業のアイデアをもっている企業であれば、同社を相談窓口とすることで、アイデアに具体的な形を与えることができると期待できる。今回のセミナーもそうした企業連携を深めるための絶好の機会となりそうだ。

5月23日(火) 13:30~17:00(受付開始 13:15)
会場:パレスサイドビル9階東コア マイナビルーム
申し込みはこちらから

6月2日(金) 13:30~17:00(受付開始 13:15)
会場:TKP新大阪東口ビジネスセンター ホールA
申し込みはこちらから

6月7日(水) 13:30~17:00(受付開始 13:15)
会場:TKP名古屋駅前カンファレンスセンター カンファレンスルーム6A
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