人工知能(AI)の応用が急激に広がっている。AIがたくさんの写真から「猫」を見分けられるようになったのは2012年のこと。今春には人工知能「AlphaGo」が、囲碁で世界トップクラスの棋士に勝利するなど注目が著しい。こうしたAIは、金融や小売り・映画製作に至るまで、あらゆる分野で利活用が始まっている。人間が決めたルール無しでは動けなかったコンピューターが、大量のデータを処理できる装置と、強化学習やディープラーニングといった学習技術を得て、自ら目標に向かって試行錯誤できるようになり、一気に実用レベルへの進化を遂げたのだ。
こんな説明を聞くと、SF映画のような遠い世界だけで事が進められているように感じるかもしれない。しかし、産業界の最先端研究で用いられていたのは、子ども時代に親しんだ「レゴ ブロック」を使ったロボットだった。
Preferred Networksの自動運転技術
Preferred Networksは、トヨタ自動車やファナックといった大手企業とともに、AIの産業への応用を進めている、日本を代表するベンチャー企業だ。
同社が研究しているプロジェクトの一つに「自動運転」がある。車間距離を保ってコースをなめらかに走り、信号のない交差点でも上手にわたる。急に車が現れたときも慌てずに一時停止して、通りすぎてから発進する。複数台のモデルカーが走行しながらこうした方法を学んでいく自動運転技術が、CESやCEATECといった国内外の展示会で披露された。はじめて実機テストした際は、まったくのゼロからわずか1時間程の学習で走り回れるようになったという。
この実験のプロトタイプとして初期モデルカーに使われたのが、LEGO社が開発した高度なコンピューター制御に対応した教育用のロボット作成キット「教育版レゴ マインドストーム EV3(以下、マインドストーム)」だ。日本ではアフレルが正規販売代理店となっている。
Preferred Networksでチーフアーキテクトを務める奥田遼介氏は、マインドストームを採用した当時を振り返り次のように話す。
「車が走るデモをやりたいと考えたとき、思い出したのがマインドストームでした。学生時代にETロボコンに参加したことがあって、ロボットの専門家でなくてもキットを買えばいろんなことができる、という印象が残っていたんです。実際、ハード・ソフト面ともに自由度が高く、壊れても代用パーツがすぐ手に入るので、非常に実験がしやすかったです」(奥田氏)
また同社は、ドローンが障害物を避けつつ目標に到達する「空の自動運転技術」にも挑戦している。リサーチャーの松元叡一氏は、次のように語った。
「こうした人工知能の分野は、AIへの“教え方”にこそノウハウが必要です。どういうときに報酬を与え、どういうときに罰を与えるのか。自動車の場合、ぶつかったときのペナルティを大きくしたら、まったく動かなくなってしまったことがありました。わかりにくいカリキュラムを与えると、学習に時間がかかってしまうわけです。空の場合は物理現象の影響が大きいので難易度が高いのですが、マインドストームを使った実世界での教え方がベースになっています」(松元氏)
他にも、同社がファナックと共同開発していた、AIが物体をつかむ方法を自ら学習する「バラ積み部品取り出しシステム」はすでに実用段階に来ており、2017年からサービスの提供が始まる。人工知能の学習速度も、産業への応用速度も、想像をはるかに超えて早いのがおわかりいただけるだろう。