徳島市中心部から自動車で30~40分ほど走らせた山深い場所に位置する徳島県神山町。同町には鮎喰川が流れ、何を隠そう同県の特産品「すだち」の生産が日本一としても知られている。
そんな大自然に囲まれた地に「神山まるごと高等専門学校」(以下、神山まるごと高専)がある。同校はさまざまな国内企業が支援しており、そのうちの1社がフォトシンスとなる。前後編にわたり、同校の成り立ちや社会的な存在意義などについて紹介しており、前編は同校の成り立ちや社会的な存在意義などについて紹介した。後編は、学生へのインタビューだ。
今回、体育の授業前にインタビューに応じてくれたのは第1期生として2023年4月に入学した、中本彗思さんと山口空さんの2人。以下から早速、両名のインタビューに入りたい。
なぜ神山まるごと高専に入学を決めたのか?
--なぜ、神山まるごと高専に入学しようと考えたのですか?
中本さん(以下、敬称略):もともと、モノづくりが好きだったこともあり、高専に入ろうと入学前から考えていました。高専を調べていたら神山まるごと高専を知り、一期生であることや起業家の方々が講師してくれることなどが魅力的であり、前例がないけど楽しそうと感じました。
一番好きなところは“人”であり、動画やnoteなどでの情報発信や5日間のサマースクールに参加したときに、すごくワクワクしましたし、追いかけていました。ファンみたいな感じです(笑)。
山口さん(同):私の場合は、高専に入りたいとかなくて一般的な高校に入りたいと考えていました。ただ、憧れている人のうちの1人が父で、その父が中学校の三者面談の際に担任の先生に自分が中学生に戻れるなら行きたい学校ということで、紹介してくれたのがきかっけで気になり始めました。調べてみると楽しそうで入学したいと考えるようになりました。
大学だとチャレンジできる期間も少ないですが、高専ならチャレンジできる期間が相応にあるため前例はないけど“やってみるか!”という感じで入学を決意しました。自分もファンです(笑)。
起業へのイメージ
--多くの学生が入学時に起業を志望していると聞きましたが、1年以上経過してみて起業は自分の中でイメージできていますか?起業する怖さとかはないですか?
中本:編入よりも起業です。それどころか在校中に起業したいと考えています。1回はしないと、と考えています。いま考えている事業もあり、個人でやっています。ただ、怖さというか現状ではアイデアだけで軌道に乗るかどうかの自信がない側面もあります。
現状で取り組みたいこととしては、イベントのプラットフォームを構築したいと考えています。
課外活動でイベントを立ち上げることがありますが、イベントの企画書や予算書、スケジュールなど他人が同じようなイベントを企画していたら、その作業が煩雑になるためパッケージ化して売買しようとは考えています。しかし、アイデアだけでは形にならないことから、一緒に動ける仲間を見つけようとしています。
山口:今年中に起業できればと考えています。会社の設立自体はお金はかかりませんが、維持費がかかるため個人事業主でいいかなと思っています。個人事業主で、さまざまなつながりを構築した後に起業した方がいいのかなと感じています。
点呼の本質を理解してアプリを開発
中本さんは寮での点呼アプリを開発したと伺いました。
中本:寮では朝7時くらいにスタッフの方がノックして点呼を行っていましたが、Slackのスタンプなどでの点呼など形を変えたものの抽象的になってしまっていました。そこで、点呼の本質を考えたところ「所在・生存確認」の意味合いが強いと理解しました。
そうであれば朝に確認できれば、それだけでいいと考えました。実際に作ったアプリは「ロルコル」(英語で点呼=Roll call)というものです。位置情報の確認や元気度の設定などをできるようにしましたが、あまり使われなかったのが実情です(笑)。
と言うのも無料のノーコードツール「Glide」で開発したのですが、課金しないと使えないということがありました。昨年はアプリ開発は夢のまた夢みたいな感じでしたが、最近は学生用に無償でサーバが利用できるようになったため、これから改めて開発できればと考えています。
周りの人に体調に関する備考欄などがあれば良いねとアイデアをもらって、実際に追加しています。さらに、ロボットコンテストの合宿用に1カ月利用したりもしました。
面倒だからこそ解決するためのアプリ開発
山口さんは外出届アプリを開発したとのことですが?
山口:学生は外出時に届け出を提出します。何時から何時まで誰がどこで何をしているか、いつ戻ってくるかということ寮なので管理しなければなりません。従来はGoogle フォームでイチから情報を入力していました。
どこに行くかは変わりますが、自分の名前や親のメールアドレスなどの変わらない情報などを毎回入力していました。入力だけで15分ほどかかるため、複数の日程で入力しようとしたら1時間くらいかかってしまい、正直すごく面倒くさいと感じていました(笑)。
中本くんと同様、もともとはGlideを利用していましたが、課金しなければいけませんでした。そのため、Google Apps Script(GAS)を使って1人1人のアカウントと紐づけて、その人の情報が自動入力されるようなシステムを作りました。
また、スマートフォン向けアプリケーション開発に特化したGoogleのオープンソースフレームワーク「Flutter」でアプリケーションとして「To Do 家(とどけ)」というものを作りました。現在では行先と時間だけを入力するだけのため30秒~1分くらいで入力が終わるようになりました。みんなが面倒くさいと感じるからアプリを開発したため、機能は「外出届」「外泊届」「面会届」の3つとシンプルにしています。みんな利用してくれていますね。
以上が2人へのインタビューだ。筆者自身が高校2年生時を思い返してみたが、少し恥ずかしい気持ちになってしまったのは言うまでもない……(笑)。
説明も淀みがなく、分かりやすくしており、好青年そのものだった。2人に共通することではあるが、日常生活で不便に感じていたからこそ自身で開発するとともに、周囲からのフィードバックを受けて機能改善にも取り組んでいる。
そして、学生がチャレンジしたいことを可能な限りパックアップする、神山まるごと高専の協力も欠かせない。2人の今後の成長ひいては夢の実現を願いつつ、いつか起業家として目の前に現れる日が来ることを期待したいところだ。