ビジネスにトラブルはつきもの。時には直接客先へ訪問し、謝罪しなければならない状況に直面することもあるだろう。その際、”正しい謝罪”ができるかどうかでビジネスの行方は大きく変わる。適切に謝罪できれば、顧客からの信頼を回復するだけでなく、むしろトラブル前よりも良好な関係を築くことも可能なのだ。
そこで重要になるのが、「正しい謝罪とは何か」を知っておくことである。事前準備から当日の心掛け、後日対応など、謝罪の各工程において押さえるべきポイントを心得ておけば、とっさの事態にも慌てず対処できるはずだ。
9月12日に開催された 第127回IT Search+スペシャルセミナーでは、585件の謝罪訪問を通じて63億円の追加契約を勝ち取った”謝罪のプロフェッショナル”である越川慎司氏が登壇。「謝罪の極意」と題し、自身の経験や、最近行われた芸能人や企業の謝罪会見などを例に挙げながら、謝罪のポイントについて解説を繰り広げた。
顧客は謝罪訪問に何を期待しているのか?
越川氏は、かつて日本マイクロソフトにて最高品質責任者などを務めた後、2017年にクロスリバーを設立し、謝罪アドバイザーとしても活動をしてい。マイクロソフト在籍時も含めて謝罪のために客先を訪問した件数は実に585件。いずれも謝罪が必要になるような事態が起きたからこその訪問だが、正しい謝罪を追求した結果、顧客からの信頼は高まり、むしろ売上の向上につながったという。越川氏は、そうした経験を通じて「ピンチをチャンスに変える謝罪訪問には再現性がある」と確信し、そのメソッドを世の中に発信しているわけだ。
そんな越川氏は、謝罪訪問において最も重要なのは「準備」だと強調する。
「相手が何を知りたいのか、どうしたいのかを理解しないといけません。それをいかに事前に把握できるかが準備の重要なポイントです」
謝罪訪問時、応対する顧客の目的で最も多いのは「人と会社に対して”姿勢”を確認する」ことだと越川氏は言う。
「今後、その会社や担当者を信頼してもいいのか。トラブルに対して逃げず真剣に寄り添ってくれるのかを見極めたいというのが顧客の思いなのです」
もちろん、ほかにも顧客の目的には「責任範囲を明確にする」「不安をなくす」「感情を吐き出す」などさまざまなものがある。だが、いずれにも共通しているのは「先が見えないことを恐れている」ということだ。
「人は未来が見えないと不安になり、怒りが湧いてきます。見えないことが怖いのなら、暗闇の先、トンネルの出口を見せることが重要です」
一方で、謝罪する側、つまり自分自身のストレス対策も必要だという。
「最初は私も謝罪訪問するのが怖かったです。それは、自分自身も何が起きるのかわからないから。それがストレスになるのです」
対策としては、「コントロールできることとコントロールできないことを整理する」ことだという。
例えば、「謝罪にあたり同僚の協力を得る」ことや「必要な情報を得てしっかり準備する」ことなどは、自分自身でコントロールできること、事前に不安を解消できる範囲だ。一方で「会社組織や人事」「会社ルール」などについてはコントロールできないため、いくら心配したところで仕方がない。
自分で何とか「できること」と「できないこと」を整理し、書き出すだけでもストレス対策になると越川氏は説いた。