5GやAI、IoTなどの最新技術と、それらを活用したビジネスソリューションを展示/紹介する年次カンファレンス「DOCOMO Open House 2018」(主催:NTTドコモ)が12月6日~7日、都内にて開催された。なかでも注目はAIを活用した対話システムだ。エンターテインメントやビジネスなど、さまざまなシーンにおいて、対話AIはどのような可能性を秘めるのか。本稿では、同カンファレンスに出展された2つのソリューションを紹介する。

スポーツ観戦をより充実させるチャットボット

エンターテインメントを楽しむ上で欠かせないのが周辺情報である。特にスポーツ観戦は、ルールや選手の特徴、目の前で起きたプレーが持つ意味など、きちんと理解して楽しむには前提知識が必要になることが多い。

だが、リアルタイム性が高いスポーツではその都度調べることが難しい場合もある。調べている間に状況は刻一刻と変わってしまうからだ。TVならある程度解説が入るが、とはいえこちらから質問できるわけではない。理想は隣に詳しい人が座っていて、何でも質問に答えてくれることだろう。

そうした”リアルタイムに対話できて何でも答えてくれる存在”をAIによって実現しようというのが、スポーツ観戦向けチャットボットだ。開発の中心となったのは、NTTドコモ サービスイノベーション部 第1サービス開発担当の阿部 憲幸氏である。

NTTドコモ サービスイノベーション部 第1サービス開発担当の阿部 憲幸氏

展示ブースで実施されていたデモでは、スポーツの中継を流すモニターとスマートフォンを模したモニターが並び、サッカーの試合をチャットボットが実況する様子が実演されていた。

スポーツの中継を流すモニター(左)とスマートフォンを模したモニター(右)

素早いパス回しからボールが敵陣へと運ばれていき、サイドからのクロスにうまく合わせてシュート。見事にゴールを決めた。――そんな試合展開に合わせ、チャットボットは次々にスマホへと周辺情報を送ってくれる。

「後半35分 永戸選手直接フリーキック! 」
「ちなみに永戸選手の出身校は法政大学だよ」
「後半36分 石原選手シュート! 」
「石原選手は、前の試合ではゴールを決めていないけど今日は5つのシュートをしているよ! 」

上記のように、選手の名前や背番号、顔写真なども一緒に送ってくれるので、どの選手がどんなプレーをしたのかがわかりやすい。

ポイントは”リアルタイム”という部分だ。

このスポーツ観戦向けチャットボットは、サッカーの試合展開をリアルタイムに伝えるデータスタジアム社の速報データを用いることで実況を行っている。

それだけならニュースの速報と同じだが、ここからがAIの出番だ。速報データの内容をAIが解析し、状況に合わせてクエリ(質問)を生成。インターネットなどから取得したデータから回答を導き出し、瞬時に発話文を生成する。

例えば、データスタジアムから「石原選手がシュートを打った」という情報が送られてきたとする。すると、AIはこの情報を読み解き、「Q. 石原選手のポジションは? A. フォワード」「Q. ポジションがフォワードならシュート数は? A. シュート数は5つ」……といった具合に”質問と回答の組み合わせ”を無数に作り出す。これを使って発話文を生成し、周辺情報として提供するのである。

「構造化知識」をベースに自然な対話を実現

さらにユーザー側から質問することもできる。

「今日ゴールしたのは誰?」と聞けば「丸橋選手が1回、西村選手が1回なんだ」などと返ってくるし、「試合状況は?」と聞けば「C大阪は今日14シュートして1得点。仙台は今日15シュートして1得点だよ」といった具合に答えてくれる。これも同様に、ユーザーの質問文をAIが解析し、リアルタイム情報を格納したデータベースから適切な回答を導き出している。

また、チャットボットは試合の状況ではなく選手の情報を用いた応答もできる。「阿部って?」と聞けば「阿部の出身地は伊豆の国市です。伊豆の国市は静岡県にあります」などと返ってくるのだ。

「この応答文を生成できるのは、『構造化知識』を基にしているからです」と阿部氏は説明する。

例えば、サッカー選手には当然「出身地」がある。それが伊豆の国市だとしよう。伊豆の国市は「市町村」属性であり、さらに大きな「都道府県」属性である「静岡県」に所属している。出身地以外でも、所属チームやこれまでの経歴など、1人の選手を構成する情報は、その多くが構造化されている。

構造化知識を用いることで、例えば「選手に関する質問に対しては、選手の『出身地』に関する情報から応答文を生成する」といった具合に、ユーザーの質問内容に応じた適切な応答文を生成できるわけだ。

今回のチャットボット開発は、実験的にサッカーの試合を対象として行われたが、今後パートナー企業が拡大すれば、その他のあらゆるスポーツに対応が可能だという。

「リアルタイムで試合の補足情報を得られるので、友達同士はもちろん、1人で見ているときのスポーツ観戦もより楽しめると思います。また、試合がない日に(チャットボットに質問を投げかけることで)スポーツの話をするといったことも可能です」(阿部氏)

スポーツの試合のリアルタイム情報はTwitterなどでも流れてくるが、正確性と速報性にかけてはチャットボットに利がある。24時間365日対応できるのも強みだろう。2020年の東京五輪に向けて、活用シーンの拡大を期待したいところだ。

API接続で雑談機能を提供する「かたらい」

一方、同じ対話AIでもビジネス向けに提供されているのが雑談対話サービス「かたらい(katarai)」である。4000万シナリオ相当の大規模応答データベースによって、あらゆるユーザー入力への自然な応答を可能にする”語るAI”だ。

開発者のNTTドコモ R&Dイノベーション本部 サービスイノベーション部 大西可奈子氏によると、「かたらいの最大の特徴はWeb APIで接続することですぐに活用が可能な点」だという。シナリオ作成不要で導入でき、準備期間や初期投資、最低利用期間などの縛りもない。すでに運用中の既存デバイスやロボット、AIスピーカーなどにも手軽に雑談機能を追加できるのが魅力だ。

「ビジネス利用としては、重要な質問/応答の内容はシナリオで作り込んでおき、それ以外の質問についてはかたらいに任せるといった使い方を想定しています」(大西氏)

NTTドコモ R&Dイノベーション本部 サービスイノベーション部 大西可奈子氏

プロフィールや発話語尾、口癖などをカスタマイズすることができ、実は先に紹介したスポーツ観戦向けチャットボットの内部でもリアルタイム性が高い対話以外の雑談への応答として活用されているという。独自キャラクターを活用したプロモーションなどでは、大いに力を発揮するだろう。

エンターテインメントとビジネス、まったく異なる方向性の両分野で対話AIは着実な進化を遂げていた。