ガートナー ジャパンは4月25日~27日、年次カンファレンス「ITインフラストラクチャ、オペレーション・マネジメント & データセンター サミット 2018」を都内にて開催した。本稿では、同カンファレンスで実施されたマネーフォワード 取締役 Fintech研究所長 瀧俊雄氏による講演「Fintechが事業経営にもたらすインパクト」の模様をレポートする。
決済の透明化を実現する「Fintech」のインパクト
「Fintechという言葉自体、ここ3年くらいのバズワードではあると思います。ただ、その裏側で動いている情報の伝達のあり方やツールの変わり方は、超大手企業のものだけでなく、市井でのデータ活用にも生かされるようになりました」
瀧氏はそう切り出し、Fintechが一般企業の事業経営にどんなインパクトをもたらすのかという観点から話を展開していった。瀧氏は野村證券、スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスCEOオフィスなどを経て、2012年10月からマネーフォワードに参画。全銀協「オープンAPI推進研究会」やFISC「安全対策専門委員会」専門委員なども務める。
2012年に設立したマネーフォワードは、その5年後に東証マザーズに上場。同社が提供するコンシューマー向けの自動家計簿・資産管理サービス「Money Foward」は2,600以上の金融関連サービスと連携し、ユーザー数を伸ばしている。一方、企業向けには「MFクラウド」シリーズを展開しており、経理・労務などバックオフィス業務をクラウドで完結できる中小企業向けクラウド型ERPとして人気を博す。
瀧氏はFintechについて、「『Finance』と『Technology』の造語ですが、この定義自体は役に立ちません」と断言し、「役に立つかどうか」という観点からFintechをわかりやすく理解できる例は、「LINE Pay」のような少額決済プラットフォームだと説明する。
「LINE Payでは、本人確認を済ませると手数料ゼロで友人にお金を送ることができます。銀行振込よりも便利で、われわれの人生がすごく変わり得る。イノベーションの主役が、大手システム会社からベンチャー企業に移ったところがポイントです」(瀧氏)
また、「もし、GoogleやAmazon、Facebook、Apple、AlibabaといったグローバルITベンダーが銀行を作ったらどうなるか?」と会場に問い掛け、「(彼らは)私たちの持つ情報をうまく使って新しいサービスを展開し、私たちの生活は、その銀行を使うことですごく便利になるのではないでしょうか」と、銀行業界のあり方を変え得るインパクトがあることも指摘した。
実際、ガートナーのハイプサイクルを見ると、Fintechは2014年頃を黎明期として、暗号通貨(ブロックチェーン)への関心から2015~2016年にピークを迎えた。そして幻滅期を経て、銀行APIなどへの関心によって2017年から回復・安定期に入る……というトレンドを描いている。銀行自身がFintechによって変革に乗り出すことが当たり前になったのだ。
一方、消費者がFintechを実感するようになったのは、先ほど挙げたLINE Payのように、スマートフォンアプリを通して便利なサービスを利用できるようになったことが大きいという。瀧氏は、スマートフォン登場以前と以後の違いとして、「購買行動や消費行動が大きく変化した」と話す。
例えば、家電を購入する際、量販店に行って説明を聞きながらスマートフォンで価格比較サイトをチェックするといった光景は珍しくない。また銀号の残高照会なども、かつては家に帰るか銀行のATMかくらいしか確認方法がなかったが、スマートフォンが登場してからは、銀行アプリや家計簿アプリでいつでも残高を確認できるようになった。
「いちばんわかりやすいメリットは、決済の透明化です。金融では取引自体に価値はありません。小売やレジャーとは異なり、取引そのものに楽しさはなく、やらなくて済むならないほうがよい。そこで、例えば、Uber Eatsを使って決済の透明化すること、Amazon Goのようにレジでの決済手続きを排除すること、さらに、Amazonダッシュボタンのように店頭での買い物自体をなくす動きが進んでいます」(瀧氏)