Genpact Japanは11月29日、企業経営層や業務部門責任者を対象に、デジタルトランスフォーメーションをテーマとする「Genpact Digital Transformation Forum」を開催した。基調講演に登壇した早稲田大学ビジネススクール 商学学術院 教授 平野正雄氏は、「日本企業が目指すべきデジタルイノベーション」と題した講演で、これまでの戦略コンサルタントと投資家としての経験を基に、日本企業への問題提起を行った。

洗練されたエコシステムを形成している米国

平野氏は、まず米国の話から始めた。米国のデジタルイノベーションのメッカは、言わずと知れたシリコンバレーである。ベンチャーキャピタル、スタートアップ企業、新しい人材を生み出す大学が有機的に結び付き、新しいビジネスや技術が生まれている。シリコンバレーが「デジタルのエコシステム」と呼ばれるのは、異なる組織や人材が柔軟に結び付いているからだ。

平野氏は、お金という観点からイノベーションについての理解を促すため、「2015年のシリコンバレーのベンチャーキャピタルの投資規模は7.2兆円、約4,500社に投資している。同じ2015年の中国のベンチャーキャピタルは2.5兆円を3千数百社に投資しているが、日本は1,200億円程度」というデータを紹介した。新しい技術、アイディア、才能、事業、ビジネスモデルへ流れる金額は、日本と比べると全く違うことがわかるだろう。

早稲田大学ビジネススクール 商学学術院 教授 平野正雄氏

シリコンバレーでは、事業が失敗に終わったとしても、新しいアイディアがあれば再挑戦できることが知られている。昨今目立つのは、「シリアルアントレプレナー」と呼ばれる複数回の成功を経験した起業家の存在だ。「一度成功した人はお金があり、成功の勘があります。ビジネスモデルの設計と企業の成長ノウハウを持つ人材の蓄積が進むほど、イノベーションの潜在力は高くなります」と平野氏。

また、スタートアップのゴールは、株式公開よりも他社への売却が主流である。最近では、巨大企業が新しい技術を取り入れるために丸ごと買収する手法が定着している。なかでも、AppleやGoogle、Facebook、Amazonのように、潤沢なキャッシュフローを武器にスタートアップを積極的に買収する巨大企業の存在感が高まっているのが最近では目立つという。平野氏は、「フラットだったエコシステムが、巨大企業の求心力で少し変質しているようにも見えます」と語った。