AIにまつわる大きな誤解を解きましょう

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AIでどう変わる? 情シスの「シゴト」

【第2回】AIにまつわる大きな誤解を解きましょう

[2017/02/15 10:00]野村直之 ブックマーク ブックマーク

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連載目次

AI(人工知能)は、ガートナージャパンが発表した「日本におけるテクノロジのハイプサイクル:2016年」の頂点から、2016年秋以降、下り坂を降り始めました。ハイプサイクルにおける「人工知能」の表記「△」は、「業界への浸透に10年以上かかり、地道に普及されるもの」という評価を表しており、他のトレンド技術とは異なる要注目のポイントです。

これは、今のAIでは、1人の人間が担っている何十・何百の既存業務フロー内のタスクのごく一部しか置き換えられない事情と密接に関連しています。1人の人間丸ごとの置き換えは不可能なため、業務フローの分解(unbundle)と再構築(rebundle)が必要です。

しかし、これは拙著「人工知能が変える仕事の未来」でも示唆したように、AI導入がなくとも、何年もかかる仕事であることが知られています。ましてや「AI部品を入れて再構築し、効率性や新しいメリットを実証する」という未知の課題をこなすのは、大掛かりな知識創造そのものです。多くの業界で、10年以上腰を据えて、スパイラル方式でPDCAを回し続けて初めて達成できる課題となることでしょう。

ディープラーニングをはじめとする機械学習の応用にあたっては、実用性を左右する「精度」が事前に見積もれないこと、また、そのための実験用の「正解データ」を整備するのに大きなコストがかかることが、IT Proの記事「金食い虫の『機械学習』と実用に堪えない『ディープラーニング』」などからも、ようやく知られ始めています。

一流の研究者や、AIトレーニング職人の腕利きにかかれば、そうしたコストを大きく圧縮するアイディアを出しながら突っ走れるのですが、そこまで良心的にユーザーに対応しているとなかなか儲からないことを、筆者は自社のビジネスで身をもって知っています。

AIに関する誤解 - 何が真実なのか?

年末、ガートナー ジャパンが 「人工知能 (AI) に関する10の『よくある誤解』」を発表しました。この10項目からは、「実態から乖離したAI普及の楽観論や、それを極端にした雇用面の悲観論(AIを極度に楽観視)を排するべし」というメッセージが伝わってきます。

  1. すごく賢いAIが既に存在する。
  2. IBM Watsonのようなものや機械学習、深層学習を導入すれば、誰でもすぐに「すごいこと」ができる。
  3. AIと呼ばれる単一のテクノロジが存在する。
  4. AIを導入するとすぐに効果が出る。
  5. 「教師なし学習」は教えなくてよいため「教師あり学習」よりも優れている。
  6. ディープ・ラーニングが最強である。
  7. アルゴリズムをコンピュータ言語のように選べる。
  8. 誰でもがすぐに使えるAIがある。
  9. AIとはソフトウェア技術である。
  10. 結局、AIは使い物にならないため意味がない。

出典:「人工知能 (AI) に関する10の『よくある誤解』」(ガートナー ジャパン:2016年12月22日)

会社のトップから、「とにかくAIをやれ!」と命令されて困惑しているマネージャーの方などは、上記10項目が全て間違っている、と聞くとビックリされるかもしれません。それも無理もありません。囲碁ソフト「AlphaGo」1つとってみても、「人間のように大局観を持ち、感覚的に感じて次の手を判断」のような間違った内容の報道・解説はマスメディアにも溢れています。

AlphaGoの実像については拙著第14章を参照いただくとして、SF的な未来像を交えたマスメディアの報道は、「今現実にできている」「間もなくできる」と勘違いさせかねないのを半ば承知ともとれ、視聴率至上主義の力学が感じられます。また、「今できること」と「将来できるかもしれないこと」を混在させたWebの情報は、ただでさえ偽ニュースが混在するソーシャルメディア上で、AI関連の話題の混乱に拍車をかけています。

「人間同様のAIが10年以内に出来るだろう」という占いめいた言説は、20数年前の第2次AIブームでも何度も叫ばれてきました。現時点においても、この種の言説は、反証可能性のある仮説、定量評価の可能な実験モデル足り得ず、したがって、科学の要件を満たしていません。

このような迷信まがいの予言から逃れて実務に役立つ応用を志すには、実際に今のAIの中身に触れてハンズオンの知識を得る必要があります。それには、比較的小規模な予算でAIベンチャーの助力を得ることが有効です。

さらに、なぜそのようなことが技術的に可能なのかという本質を理解し、特徴量が自動抽出されることの意義と、困難さ(経済コスト)がどこにシフトしたのか、残っている予算では解決できない技術限界がどの辺りにあるのかを見積もる必要があります。

「AIの現実」を見極めよ!

筆者はここ2年ほど、実際のAIやディープラーニングの中身、将来の可能性を技術的に限りなく正確にお伝えすべく、よく以下の図を使って説明してきました。

AIの実態のイメージ図

入力画像の特徴が抽出され、それに連れて元画像の情報量が大幅に圧縮(省略)され、最後は、6ドット×8ドットのカラー画像にマッピングされます。この小さなバリエーションと、猫の名前などの「ラベル」が1対1の対応表からひかれて、認識結果の名前が出力される仕組みです。この図を見た後で、ディープラーニングに代表される昨今ブームのAIに人類が滅ぼされるとか、今のAIが万能とか、誤解し続けたままの人はほとんどいませんでした。

しかし、前掲の「10の誤解」をしているユーザーに対しては、後出しジャンケンのように見積もり額を増す悪質なSIerが無きにしもあらずと聞きます。また、もっと悲惨なことに、ITベンダー自身が事の本質を理解しておらず、誤解に基づいて見積もりをしたり、再外注先に数10万円でまったく斬新な新規領域のディープラーニングの応用開発をやらせようとしたりする例が後を絶ちません。

確かに、特定の画像の特徴を人間が見つけて、それをトレース・認識・分類する専用アルゴリズムを考案し、実証評価するのに比べれば、全自動で特徴を抽出するディープラーニングの機能は画期的です。精度に関しても、多くの場合、手組みの専用アルゴリズムに圧勝することがわかり、今回のAIブームを引き起こしました。

けれども、開発コストの内訳を見れば、「設計、プログラミング」の工程が「データ収集、正解ラベル(タグ)の付与」の工程に置き換わり、大きな部分を占めるようになったことがわかります。

かつては科学的・数学的にアルゴリズムを組み立てられた部分が、半ばヤマ勘に近いかたちで、経験則に依存して正解データ作りの苦労をしなければならなくなったことを忘れてはならないのです。

著者紹介

野村直之


野村直之 - メタデータ株式会社 代表取締役社長 理学博士

NEC中央研究所、MIT(マサチューセッツ工科大学)人工知能研究所、ジャストシステム、リコーなどを経て05年にメタデータを創業。人間がより人間らしい仕事に集中できるよう、深層学習などのAIを含む高度なアルゴリズム、データ分析ツールでホワイトカラーを支援する使命を果たすべく日々奮闘中。

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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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