5月22日から4日間の日程で開催された、米PTCの自社カンファレンス「LiveWorx 2017」(米国マサチューセッツ州ボストン開催)。

「LiveWorx 2017」には世界各国から5000人超が参加した

柱となったテーマは、IoT(Internet of Things)とPLM(Product Lifecycle Management)との連携による製造業の変革だ。企画/製造から販売/保守/廃棄まで、製品のライフサイクル全般にわたる情報を包括的に管理するPLMが、IoTで取得されるデータと連携と、製造現場はどうなるのか。

おりしも、ドイツ政府が主導する製造業の改革プロジェクトである「インダストリー4.0」や、中国の国家戦略である「中国製造 2025」など、製造業界における高度なデジタル化を実現する気運は高まっている。今回のカンファレンスで参加者の関心が高かったのは、「インダストリー4.0」の具体的な取り組みだ。

1日目に実施されたパネルディスカッション「Industrie 4.0 Transformation in Manufacturing Seize the Opportunity(製造業はインダストリー4.0の変革機会をどのように捉えるか)」には、インダストリー4.0を具現化している企業が登壇。それぞれの取り組みを語るとともに、製造業の今後を展望した。

登壇したのは、 独e.GO MobileのGunther Schuh氏、米AccentureのEric Schaeffer氏、米PTCのHoward Heppelmann氏の3人。モデレーターは米Mass Tech CollaborativeのIra Moskowitz氏が務めた。

右からモデレーターのIra Moskowitz氏、独e.GO MobileのGunther Schuh氏、米AccentureのEric Schaeffer氏、米PTCのHoward Heppelmann氏

18カ月で150万円の自動車を設計→生産

口火を切ったのは、e.GO MobileのSchuh氏だ。2015年4月設立のe.GO Mobileは、独アーヘン工科大学を拠点とし、小型電気自動車「e.GO Life」の開発を手掛ける企業である。産官学が連携して行っている。e.GO Lifeの開発投資は、300万ユーロ(約3億6000万円)に満たない。販売価格は約1万2500ユーロ(約150万円)を予定しており、2018年前半の量産を目指している(関連記事『【レポート】「製品」から「体験」へ - ドイツのEVベンチャーが見据えるPLMの進化』)。

「e.GO Life」の開発期間は18カ月。価格は約150万円程度になる予定だ

Schuh氏は「e.GO Lifeは既存の技術と汎用的な素材で価格を抑制した」と説明する。例えば、ボディはアルミにして塗装工程を省略した。最初に開発期間を18カ月と設定し、「期間内で完成させるためにはどの手法を採用すべきか」を考えながら、開発を進めていったという。

開発で役立ったのは、「デジタルツイン」だった。デジタルツインとは、IoTで取得したデータを分析し、物理世界の製品やシステムで発生していることをデジタル上で再現する仕組みを指す。これによりバーチャルでモックアップを作成し、試行錯誤しながら開発期間を短縮した。

独e.GO MobileのファウンダーでCEO(最高経営責任者)を務めるGunther Schuh氏

また、データの共有と可視化も迅速な開発には欠かせない。Schuh氏は「企画、デザイン、設計の要件変更をリアルタイムで反映させ全員が確認できるようにしたり、図面やBOM(Bill Of Materials)などの情報を共有したりすることが重要だ」との見解を示した。

スマートプロダクトがもたらす付加価値

「インダストリー4.0を成功させるには、社内の仕組みを変える必要がある」と説いたのは、米AccentureのSchaeffer氏だ。同社では現在、「Industry X.0」と銘打ったイニシアティブを推進している。

「インダストリー4.0のその“先”」と位置づけられた同イニシアティブは、常時接続性を持つ「スマートプロダクト」と、それを支える接続システムを中核に、これまでの製造業にはなかった新たな付加価値である「スマートな体験」を生み出すことを目的としたものだ。

Accentureは「インダストリー4.0のその“先”」のイニシアチブとして「Industry X.0」を掲げている

Schaeffer氏は「ハードウエアは基本機能を提供する箱であり、ソフトウエアが価値を生み出す。IoTプラットフォームに基づく付加価値の高いサービスは、売上げ拡大に貢献するだけでなく、顧客に対して優れた体験を提供する」と説明する。

米Accentureでシニアマネージングディレクターを務めるEric Schaeffer氏

ただし、「ソフトウエアで高い付加価値を生み出す」ためには、乗り越えなければならない課題も多い。Schaeffer氏は製造企業がインダストリー4.0を実現する障害になっている要因の1つとして、「社内オペレーションがサイロ化し、コンサバティブであること」を挙げる。実際、製造実行システムのMESや企業資源計画のERPは個別に運用されるケースが多く、それぞれのデータ連携ができていない。

こうした課題を解決するためには4つのステップがあると、Schaeffer氏は説明する。

1つ目は、「フラグメントの解消」だ。サイロ化したシステムからデータを解放し、どのプロセスであっても同じデータが利用できるようにする。2つ目がIoTで収集したデータを分析してインテリジェンス(情報)に昇華させること。これにより、各部門でデータを基にした迅速な意志決定ができる。そうしたデータドリブンな環境を構築することで、3つ目のデジタルファクトリーが実現する。

4つ目が「スマートプロダクト」だ。進化したIoTとデジタルファクトリーが生み出すスマートプロダクトは、利用者に対して新たな価値を提供する。一方、スマートプロダクトを提供するベンダーに対しても、あらゆるデータをフィードバックする。スマートプロダクトから得られるメリットを顧客とベンダーが享受し、新たなビジネスとなる「スマートな体験」を創出するというのが、Accentureの見解だ。

製造業の革新を示す4ステップのアーキテクチャ