東洋ビジネスエンジニアリングは2月16日、東京都内にて同社の年次カンファレンス「mcframe Day 2017」を開催した。同イベントのスペシャルセッション「これからの製造業のものづくりIT」では、東洋ビジネスエンジニアリング 常務取締役 CMO/CTO 新商品開発本部長 羽田 雅一氏をホストに、SAPジャパン 代表取締役社長 福田 譲氏がゲストとして登壇し、IT化が叫ばれる日本のものづくりが今後、どう変化していくべきかについて具体的な事例を交えたトークが展開された。

ハーレーダビッドソン社のスマートファクトリー化から学ぶこと

「このセッションは、製造業の皆さんが実際にどういう姿を目指して行けばよいのか、はっきりしたイメージを持っていただければと思ってご用意しました。とは言え、私1人では心配でしたので、心強いスペシャルゲストとしてSAPジャパンの福田社長をお呼びしています」

――冒頭、羽田氏はこう切り出し、「具体的に日本の製造業の参考になるような、ITを使ってビジネスを変革した事例があればご紹介いただきたい」と福田氏を招き入れた。SAPがドイツに本社を置く大手ERPソフトウェアベンダーであり、製造業との関わりも深いことは、もはや言うまでもないだろう。

東洋ビジネスエンジニアリング 常務取締役 CMO/CTO 新商品開発本部長 羽田 雅一氏

登壇した福田氏は、「海外の事例なので、参考になる部分とそうでない部分があるかもしれませんが、何かしら持ち帰っていただければと思います」とまず、米ハーレーダビッドソンの例を挙げた。

ハーレーダビッドソン社と言えば、社名と同名のオートバイ「ハーレーダビッドソン」を展開する米国の大手オートバイメーカーだ。福田氏によれば、「従来のハーレーダビッドソン社は、自分たちは標準となる製品を出し、カスタマイズは外部に任せる」という方針を取っていた。

だが、そうしたやり方では立ち行かなくなってきたのが、リーマンショックが起きた2008年前後のことである。ここでハーレーダビッドソン社は大きく事業モデルを変え、工場をスマートファクトリー化するとともに、自社内で製品のカスタマイズまで請け負うことを決めたのだ。

さらに、同社は今までとは全く違うデジタルなものづくりで効率を上げた。米ペンシルバニア州に保有するヨーク工場では、工場を挙げてプロジェクトに取り組み、さまざまなモノをデジタル化して機器や人、製造設備、部品などを結び、経営層と現場がつながる垂直統合、カスタマイズオーダーがサプライチェーンにつながる水平統合を実現。顧客がWebサイトからカスタマイズをオーダーできるような仕組みを構築したのである。

改革を実施したヨーク工場の成果

結果として、8~10日間保持していた部品在庫は3時間分で済むようになり、コストは7%減、効率化によって人員数を2,253人から1,460人へと削減し、生産のリードタイムは21日間から6時間に短縮された。福田氏はこれを「工場自体の生産性だけでなく、顧客の体験を変えることまで成し遂げた」と評価する。

SAPジャパン 代表取締役社長 福田 譲氏

この事例から、日本企業が注目すべき点は3つある。1つ目は、スマートファクトリーの進展によって、従来日本の製造業が得意としてきた「見える化によるカイゼン」が誰でもできるようになっていくのではないかということだ。これは、リスクの1つとして頭に入れておく必要があるだろう。

2つ目は、フルデジタル化・標準化されたスマートファクトリーは従来的な大量生産型の「マスプロダクション」ではなく、「マスカスタマイズ」の能力が極めて高いということである。

そして3つ目は、そのマスカスタマイズというビジネスモデルは顧客のニーズや体験に直結するということだ。「カスタマイズが進むと、これまで以上に部門間の横連携が問われ、部門横断で1つの『コト』を作って行くことが重要になっていくのではないか」と福田氏は予測する。

「日本もスマートファクトリー化しないと、他国に一気に置いて行かれてしまう可能性があるのかなと感じたんですが、いかがでしょう?」という羽田氏の問いに、福田氏は「スマートファクトリー化の中見を細かく見ていくと、『部品を運ぶ作業を自動化したので効率が上がった』といったものもあるので、日本が一気に抜かれるような心配はありません」としたものの、「マスカスタマイズの視点に関してはスマートファクトリーのほうが優位かもしれず、生産効率も向上させてくるのは間違いないと思います」と率直な見解を示した。