日本科学未来館(未来館)は11月15日、ワールド・バイオテクノロジー・ツアー(WBT)の一環として4月より実施している「WBT アンバサダー・プログラム」の最終プレゼン審査および表彰式を、科学コミュニケーションイベント「サイエンスアゴラ 2015」にて開催した。

WBTは、科学館の活動をとおしてバイオテクノロジーやその社会との関係性の理解を深めることを目的とした国際プロジェクト。2015年~2017年に世界の12の科学館で開催される予定で、未来館は1年目の開催館のひとつとなっている。

今回、WBT アンバサダー・プログラムに選出された高校・大学生の5名のアンバサダーたちは、未来館の科学コミュニケーターとそれぞれペアを組み、約8カ月かけて研究テーマの立案から文献調査、実験、考察、プレゼンテーションまで、バイオテクノロジーに関する研究の流れをひととおり経験してきた。そのほかにも、未来館ユーザーや研究者への取材、学会への参加、ポルトガルやベルギーのアンバサダーたちとのオンラインでの交流など、多角的な視点からバイオテクノロジーに触れてきたという。

ではここでさっそく、5名のアンバサダーたちの研究成果を紹介しよう。

緑茶成分カテキンの機能と新しい活用法

東野昌伸氏

「脂肪燃焼や除菌、風邪予防といったイメージはあったが、その効果や根拠がわからなかった」と、緑茶に含まれる「茶カテキン」の体脂肪低減効果や抗菌効果について研究を行ったのは、高校2年生の東野昌伸氏だ。茶カテキンの性質について研究を行っている静岡県立大学や花王などに取材をしたうえで、その抗菌効果を調べるために、茶カテキンを染み込ませた紙を培地に置き、黄色ブドウ球菌の増殖の仕方を観察するという実験を実施。この結果、茶カテキンを含ませなかったものと比較して、茶カテキンを含ませたものは黄色ブドウ球菌の繁殖を抑えていることが明らかになり、また茶カテキン濃度の高いもののほうがその効果が高いという結果になった。

実験の結果

この結果について東野氏は「茶カテキンは細菌の細胞膜を破壊する性質と、細菌を殺す働きを持つ過酸化水素を発生させる性質を持っているため」であると考察する。東野氏はさらに、ほかの食材との相乗効果を狙った実験も行い、梅干しのエキスと混ぜることで、より少ない茶カテキンの量で抗菌効果が得られることも明らかにした。

インフルエンザワクチンに関する情報の伝え方の研究

柳田優樹氏

インフルエンザの予防接種を受けよう/受けないと思うのはどうしてなのか――週末に未来館でボランティアをやっているという高校2年生の柳田優樹氏は、インフルエンザの情報の伝わり方について調査研究を行った。「予防接種を受けたのにインフルエンザにかかってしまった経験が、研究のきっかけだった」(柳田氏)

インフルエンザワクチンは主に「重症化を防ぐ」ためのものであり、インフルエンザの感染自体に必ずしも効果があるものではない。インターネットで文献を調査した際にインフルエンザワクチンの接種を否定する「反ワクチン」の情報が目立ったことが気になったという柳田氏は、朝日新聞の編集委員や国立保健医療科学院の研究者、子どもを持つお母さんたちといった、さまざまな立場の人たちに対して取材を行った。

特にお母さん方に対する取材で行ったアンケート調査では、3人に1人がインフルエンザの予防接種に消極的だったという。予防接種を受けない理由としては「予防接種後にアレルギー反応が出るため」という回答が一番多かったが、次いで「お金がかかるため」「時間がかかるため」だった。また、お母さん自身が予防接種に消極的で、さらに子どもに受けさせることに対しても消極的な人は「どうせ効かないから」という意見を持っていることがわかった。

自身の子どもへの予防接種に関するアンケート調査の結果

この結果について、柳田氏は「インフルエンザワクチンで本人の感染を防げるという誤解があるからではないか」と考察。また、お母さん方から「もっと予防接種を受けやすい環境を作って欲しい」という声があったことから、自由な接種環境および情報環境が必要であると結論づけた。