2011年3月11日にアメリカで販売開始されたAppleのiPad 2。販売直後の週末には販売台数が100万台を越えたとの調査もあり、その人気は急騰しているようだ。3月25日にはヨーロッパなど24カ国での販売が追加され、4月には香港やシンガポールなどアジアにも販路が広がる。なお東日本大震災の影響により日本での販売は当初の3月25日から延期された。震災の被害にあわれた方々が一刻も早く、日常生活を取り戻せるようになることを心からお祈りしたい。

店舗に入るだけでも行列ができているニューヨーク、五番街のAppleストア

iPadもiPad 2も一部の国を除きSIMロックが無い状態で販売されている。ロック無しの場合、通信事業者によるiPadの本体割引は無いが契約も不要で単体購入が可能だ。そのため各国のAppleストアには海外からの購入客も集まっている。またロックがないことから購入後のiPad 2を転売することも容易だ。世界最大のオークションサイト、eBayを見てみればiPad 2が大量に出品されている。だが転売はオークション等の個人レベルだけではなく、業者による大量販売も行われている。それが最も盛んなのはアジア市場だ。

特に香港では最新製品に興味を持つ消費者が多く、元からSIMロックフリーの市場であるため「人気の製品は高い」ということが当たり前のように受け入れられている。端末の人気は値段ではなく端末の魅力そのものに集まるのだ。入荷数の少ない製品は現地の正規販売品でも平気で高値で転売されており、iPhone 4ですら正規代理店の家電店でアクセサリをバンドルし定価の2-3割り増しで販売されている。

自宅に届いたiPhone 4を輸入品販売ショップに持ち込み転売している客。香港では当たり前の光景。茶色い箱はiPhoneの入った梱包箱

日本ならば転売は不道徳であり、価格が高いものを買うのは後ろめたいという印象があるだろうが、香港では価格というものは市場の需要によって変動し、転売は日常茶飯事だ。iPad 2もアメリカ発売の翌々日には香港で輸入品が登場し、10万円以上という高値でも完売したという。購入客は香港人だけではなく、中国大陸からの富裕層やタイなどからのバイヤーも多かったとのこと。香港は多くの商品の輸入関税もなく消費税も無いことから輸入品の出し入れも行いやすい。

このあたりの状況は、初代iPadがアメリカでの販売直後から香港で普通に輸入販売されたことを以前書いた時と全く同じ状況だ。4月になっても香港の輸入品端末販売ショップにはiPad 2が豊富に入荷している。アメリカ版が品薄になったと思えば、オーストラリアやイギリスからの製品が代わりに入ってきているのだ。価格は在庫の量によって毎日変わるなど、生鮮食料品のような値動きを見せている。また1日の中でもお昼と夜とで価格を変えている店もあるなど「買いどき」がいつなのかを見極めるのも難しい。

並行品ショップに並ぶiPad 2の箱の山

ではこれらのiPad 2はどうやって香港に入ってくるのだろう。基本的には現地の業者が大量に買いつけ、それを香港などに転売している。しかも需要に供給が追いつかないため、Appleストアに並んで当日購入しそれをそのまま転売する業者も多い。そしてその列に並ぶのは代理人たちだ。これは日本でもゲーム機の新製品販売の際に見られることではある。

しかしニューヨーク、ソーホーにある落ち着いた雰囲気の建物にはいったAppleストアの周りを、夕方ともなるとアジア系の「並び屋」がずらりと囲む光景は異様な雰囲気だ。うつむいたままじっと地面を見つめる人、談義しながら軽食片手に騒がしい連中、いずれもiPad 2を購入する客には見えない。翌朝8時の開店時間にはその日に入荷したiPad 2がこれらの並び屋や代理人に全て買い占められてしまい、本来買いたいと思う地元の客には行き渡らないという異常な状況になっている。

ニューヨーク、ソーホーのAppleストアの周りに座る並び屋

転売が多いということはそれだけiPad 2の人気が高いということの裏づけでもある。だがアメリカで先行販売され他国では転売により高値で販売されるという状況は初代iPadから改善されていない。iPadは優れた製品ではあるものの、今後毎月のようにAndoridなど他陣営のタブレット端末が登場するようになれば、販売の遅れや国別の販売時期のずれはApple製品といえども客を奪われてしまう恐れもある。iPadは実質的にライバル不在だったが、iPad 2には強力なライバル製品がこれから多数登場してくる。iPad 2の供給体制が安定しなければ、今後の販売台数も順調に伸びない可能性もありうるだろう。