スマートフォンのディスプレイはスマートフォンメーカーではなくディスプレイメーカーが開発製造を行っているケースが殆どです。しかしながら、サムスンはグループ企業にサムスンディスプレイという会社を保有しており、これまでも側面を曲げたエッジディスプレイや折りたたみディスプレイを早期に開発。それらのディスプレイをGalaxyシリーズがいち早く採用してきました。

サムスンディスプレイは3つ折りディスプレイ等も開発中で、数年もすれば今までに無かった形状のスマートフォンも市場に出てきそうです。そのサムスンディスプレイが2023年5月23日からアメリカ・ロサンゼルスで開催された「SID Display Week 2023」で革新的なディスプレイを発表しました。

  • Display Week 2023のサムスンブース

最も目を惹きつける新技術は「Rollable Flex」、巻き取り式のディスプレイです。巻き取り式ディスプレイはすでに数社が開発中で、OPPOやモトローラがスマートフォンの試作機も披露しています。巻き取り式ディスプレイはスマートフォンの画面を伸ばして大型化できますが、どちらの試作機もサイズは大きくなっても1.5倍程度。また現在開発されている巻き取り式ディスプレイも最大で3倍程度が限界だといいます。

  • 新しい技術の「Rollable Flex」ディスプレイ

Rollable Flexはその限界を大きく越え、画面のサイズを5倍まで拡大できます。Rollable Flexのディスプレイの幅は49mmですが、ワンタッチで最大254.4 mmまで伸びるのです。ここまで大きければタブレットとしても使えるでしょうし、パソコンのモニター代わりにもなります。現在市販されている折りたたみスマートフォンは開いても小型タブレットサイズでしたが、Rollable Flexなら大型タブレットの大きさまで展開できるのです。

  • 約50mm(左)の状態から約254mm(右)まで伸びる

ただしタブレットとして使うためには、ディスプレイがタッチパネルである必要があります。現時点ではこのRollable Flexがタッチ可能かどうかのアナウンスは無く、もしかすると表示用のディスプレイとして使う用途のみが考えられているのかもしれません。とはいえ技術の進歩によりRollable Flexを巻き取り式スマートフォン用ディスプレイに使うことも可能になる日はそう遠くはないはずです。何年後になるかはわかりませんが「1台でスマートフォンとタブレットになる」端末を誰もが使うようになっているかもしれません。

  • 現在の折りたたみスマホのサイズはこの程度。Rollable Flexは倍以上の広さに伸びる

巻き取り式ディスプレイの実現よりも先に市場に投入されそうなモデルが「Flex In & Out」です。内側にも外側にも曲がる、つまりヒンジを中心にディスプレイを360度自由な方向に曲げることのできるディスプレイです。

  • 「Flex In & Out」はどちらの方向にもディスプレイが曲がる

現在の折りたたみスマートフォンは片側にしかディスプレイを曲げられません。内側に曲げる「In」タイプは閉じたときにスマートフォンを使うために、外側にもう1枚のディスプレイを搭載する必要があります。一方外に折り曲げる「Out」タイプは、折り曲げたときに両面がディスプレイむき出しとなるため傷がつきやすくなります。

  • Inタイプの「Galaxy Z Fold4」。外側にもディスプレイが必要だ

Flex In & Outならば、閉じてもそのままスマートフォンとして使いたいときは外側に、画面を保護した状態にしてポケットに入れるときは内側に折り曲るという2通りの形状を選べます。

  • 外側にたためばそのままスマホとして使える。内側にたためば画面が保護される

この360度折り曲げできるディスプレイは他のディスプレイメーカーも開発中です。しかしヒンジの構造が複雑になることから、スマートフォン本体のサイズが現状の折りたたみモデルよりも厚くなってしまいます。2023年に入って発売された折りたたみスマートフォンは従来モデルよりもさらに薄くなっており、もう「折りたたみは厚みがある」とは言えない時代になっています。360度ディスプレイをどうやって薄型化していくのか、各社の開発に期待したいものです。

  • 現状ではやや厚みがあるのが課題だ

サムスンディスプレイは形状の進化だけではなく、新たな付加機能も開発しました。ディスプレイに埋め込んだ指紋センサーの機能を拡張し、タッチした指先から心拍数、血圧、ストレスレベルを測定できるというもの。これは世界初の機能ということです。ディスプレイの中に光を感知する有機フォトダイオードを埋め込むことで、指紋センサーと生体センサーを融合させ、さらにディスプレイのどの部分をタッチしても生体データの測定が可能です。

  • ディスプレイをタッチして心拍数や血圧が測定できる

実際の測定時には指先2本をディスプレイにタッチする必要がありますが、取得できるデータはスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスよりも正確だそうです。この技術がすべてのスマートフォンに搭載されるようになれば、心拍数の測定も「スマートフォンを持てない運動中や、24時間監視が必要な時はスマートウォッチ」「より正確なデータが必要な時はスマートフォンの画面にタッチ」といった使い分けもできるようになります。血圧測定はスマートウォッチにはなかなか搭載されませんが、スマートフォンが先に標準機能として装備するようになるかもしれません。

  • 2本の指先タッチで正確に心拍数を測定できる

これまでにはない形状のディスプレイや、新たなディスプレイの機能はこれからも次々に登場するでしょう。ディスプレイメーカーの技術開発競争が続く限り、スマートフォンはまだまだ進化していくのです。