いよいよNokiaからもタッチパネルを搭載した新製品「Nokia 5800 XpressMusic(以下5800XM)」が発表となった。各社から同タイプの端末が市場に出ている中、後発のNokiaらしさが光る製品になっているようだ。

早すぎた"インターネットマシーン"の再来

AppleのiPhone登場以来、各メーカーから大型タッチパネルディスプレイを備えた端末が続々と登場している。それ以前にもタッチパネルディスプレイ端末はいくつかあったが、最近はその種類が急激に増加している。SamsungやLGなどの韓国勢はもちろんのこと、スマートフォン大手のHTC、変わったところではPhilipsもアジア市場などにタッチパネル端末を投入している。これに対してシェア最大手のNokiaは頑なに非タッチパネル路線を貫いていたようだが、満を持してとでも言うべきか、最新スペックを搭載した5800XMを年内に投入予定と発表した。

Nokia最初のタッチパネル端末、Nokia 7710。豊富なマルチメディア機能を搭載する

3.5インチ、640×320ピクセルの大型ディスプレイを搭載。インターネットデバイスとしても優れていた

なおNokiaのタッチパネル搭載端末はこれが初めてではなく、過去にはSeries 90をOS/UIに採用したNokia 7710を発売していた。7710はインターネットブラウザや音楽プレーヤーを搭載し、タッチパネルで操作できる「モバイルインターネット+マルチメディアプレーヤー」を目指した端末だった。しかし7710が発売された2004年当時はデータ通信の回線速度、端末のスペック、インターネットサービス、全てにおいてまだ小型のスマートフォンに満足できる機能を搭載するには時期が早すぎたようだ。

NokiaのSeries 90 OS/UI搭載端末はこの1機種だけで幕を閉じ、タッチパネルなどの技術はその後同社のスマートフォンの主流OS/UIである「S60」に引き継がれることになった。今回発表された5800XMはS60初のタッチパネル対応端末ということもあり、早すぎたNokiaのインターネットマシーンがようやく市場で受け入れられるだけのスペックを搭載して再登場したとも言えそうである。

Nokiaならではのスペックとサービス

5800XMは何よりもそのスリムな形状が特徴の一つと言えそうだ。111×51.7×15.5mmというサイズは、iPhoneの115.5×62.1×12.3mmよりも横幅が細く、厚みがある。5800XMのほうがより携帯電話ライクな大きさになっていると言えるだろう。またディスプレイは640×360ピクセルと高い解像度を備えている。日本の最近の携帯電話と比較した場合は物足りないかもしれないが、海外の同系端末の中では上位に位置するものだろう。もちろんHSDPAと無線LANに対応。ストレージはmicroSDHCカード(最大16GB)に対応する。

また面白いところでは、多言語に対応した点で60ヶ国語の表示が可能だ。これは1つには音楽プレーヤーの曲名表示対応だろう。たとえばiPhoneならばiTunesに取り込んだ音楽の曲名をほとんどの言語で表示できる。5800XMが音楽プレーヤーとしてiPhoneに対抗するのならば「ヨーロッパ販売品だから中国語は表示できない」といったメーカー側の都合は通じないはずだ。世界中の音楽を聴きたいと思う消費者にとって、特定の言語しか表示できない音楽プレーヤーほど使いにくいものはない。マルチ言語への対応は今後のマルチメディア端末には必須の機能になっていくかもしれない。

また5800XMは、Nokiaが提供する音楽配信サービス「Comes With Music」にも対応する。これは1年間の無制限ダウンロードに対応したサービスで、大手レーベルなどと提携して提供され、まずは英国で10月16日から開始された。これはハードメーカーであるNokiaがオンラインサービス「Ovi」に引き続き本格的に開始する音楽配信サービスであり、iTunesへ本格的に対抗するものとなる。Comes With Musicが成功する最大の鍵はいかに多くのレーベルと協力できるかであるが、使いやすい端末を提供することも必要になる。5800XMはこのサービスを後押しする最適な端末でもあるだろう。

5800XMはマルチメディア+インターネットデバイスとして高い注目を浴びるだろう

iPhoneが勝てない5800XMの価格

5800XMは、思い切った価格で市場に投入される予定で、ヨーロッパでの価格は275ユーロが予定されている。わずか約4万円にすぎない。Nokiaのほかの製品と比較しても十分割安感があるだけではなく、ライバルと目される他社の製品にとっても大きな脅威だ。

これだけの低価格で5800XMを提供できるのは、市場シェア1位企業のコスト削減のなせる業でもある。しかしそれ以上に、利益を度外視してもこの製品を市場に普及させたいというNokiaの意気込みが価格に現れているように思えてならない。

たとえばiPhoneは各国で数百ドルといったレベルで販売されており、その割安感が大きくアピールされている。しかしこれはアメリカ式の「事業者と複数年契約、事業者専用のSIMロックあり」の価格であり、単体の価格ではない。単体価格は、香港のAppleストアが直販している8GBが7万円代、16GBが8万円代となるわけだ。

一方の5800XMは単体/SIMロック無しで4万円だ。単純に比較はできないだろうが、金額だけ見ればiPhoneの16GBモデルの半額である。これに各事業者がSIMロックをかければ「1年契約で端末無料」が十分提供できるレベルである。iPhoneは性能に対して価格が安いといわれているが、5800XMはコストパフォーマンスを考えるとiPhoneよりもはるかに割安な価格で市場に投入されるのだ。

しかもiPhoneは事業者契約販売をビジネスモデルのベースとしている。そのため世界中で販売するには、各国の事業者が個別にAppleと交渉を行う必要がある。さらに販売方式や料金プランなどはAppleが主導権を握るものとなる。

一方5800XMは世界中のNokiaの販売ディーラーがその国での販売を決めれば単体で販売できる。低所得者向けにSIMロックをかけたプリペイドパッケージ販売も行われるだろう。すなわち従来の携帯電話と同様に、自由にどこでも買えるのが5800XMの大きな魅力でもある。

もちろんiPhoneにはiPhoneにしかない大きな魅力がある。しかし事業者と契約が基本という、アメリカ式の販売方式が世界中で受け入れられるとは限らない。Nokiaの従来流の販売方式がどこまでiPhoneに対抗するものになるのか、今から発売が楽しみである。