エキソニモの新連載は、HTMLのソースとそのレンダリング後の画面をセットで展開するという珍しいアート作品だ。レンダリング後の画面だけを見るとグラフィックデザインのようだが、HTMLソースのほうを見ると実はインタビュー記事が埋め込まれており、レンダリング後の画面でその人自体を、HTMLソースのほうでその人とエキソニモの関係やバックグラウンドなどを知る事ができるという仕掛けになっている。

前回に引き続き、エキソニモの連載第2回目の入稿データが筆者のもとに送られてきた。送られてきたPDF(いつもPDFで誌面が送られてくるのだ)を見て、「ああ、担当の方は大変お忙しいのだな」と推測出来た。というのも、PDFの表面つまりレンダリング後の画面文字は文字化けしており、フォントを埋め込んでいないのかエンコーディングをミスったのかはわからないが、少なくとも確認する暇もなく僕に投げてよこしたわけである。

まあ、そのうち修正版の入稿データがとどくだろうということで、ひとまずPDFはそのままにして、実際のページをMac版Safariでチェックすることにした(この連載はMac版Safariに最適化されている)。ところが、Safari版で見たWebページは、PDFのものと同じだったのである。つまり担当者の人は決して怠けていたわけではないのだった。エキソニモは、この文字化けした背景をデザインとして背景に使っていたのだ。これは、前回の1ptテキスト以上に衝撃的だった。

今回のインタビューで取り上げているのは、flapper3やSEMITRANSPARENT DESIGNで活躍中の萩原俊矢さんだ。

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萩原 俊矢 写真屋の家庭で育ち、幼少よりPhotoshop、ネット等に触れ育つ。イラストレーター、キン・シオタニ氏との交流や、メディアデザインプロダクションく活動。インターネットと実空間のあいだで活動しながら「Webとはなにか」を模索中。 http://shunyahagiwara.com/
山口情報芸術センターにて "セミトラ インスタレーション展"開催中 http://semitra.ycam.jp/

萩原さんは、実はずいぶん前から知り合いで、大昔に仕事を一緒にしたりもしている。APMT関係でもよく会う関係だ。インタビューで語られている(というよりは今回はエピソード紹介に近いわけだが)話はドークボット東京というイベントでの出来事が中心となっている。

※ドークボットとは、"電気を使ってヘンなことしている人たち"というテーマで世界中に広がっているコミュニティ。東京では不定期にイベントを開催。 dorkbot.org/dorkbottokyo/

そこで萩原さんが出した作品は、文字をテキストではなくHTMLのテーブルのセルで書くというもので、元々はスパムメールで使われていた技術だ。テーブルのセルで文字を書くというとピンと来ないひともいると思うが、わかりやすい例で挙げれば、エクセルのセルを塗りつぶしてドット絵を書くという表現を思い浮かべてもらうと早いだろう。そのテーブルを使って書いた文字を自動で生み出すソフトをドークボット東京で発表したという。

今回の作品は背景に文字化けテキストを敷き、その上に上記テーブルを使った文字で「人間」と書かれている。何故人間なのかはHTMLソースにある本文を読んでいただくとして、この「人間」という部分がHTMLのテーブルを使って書かれているのである。

この萩原さんの作品はAEKLEYBILLというサイトで実際に公開されている。興味のある人は遊んでみるといいだろう。これを使って作った文字を友達に送れば、スパムフィルターにもひっかからない立派なスパムの完成だ(注:この作品を使用したことによるスパム被害などは当方は一切責任を持ちません)

さて、問題は背景の文字化けだ。そもそも何故文字化けしているのだろうか? 前回はインタビュー記事をHTMLのコメントと文字サイズを極限まで小さくすることで隠していたが、今回の作品では文字サイズは変えず、読めなくすることでデザインの一部とすることに成功した。つまり、この文字化けは意図的に実行されているのだ。「このHTMLはUTF-8という文字コードで書かれていますよ」とブラウザには伝えられているが、Shift-JISという文字コードで書かれているために、文字化けしてこのような表示になるのだ。読者の皆さんもこの文字化けのスタイルはメールなどで見た事があるのではないだろうか?

この文字化け、とりわけ黒い菱形に?マークを持った文字というのが目立つ。よくよく見てみると、デザイン的にこの文字はかっこいい。いや、お世辞抜きに。もしこれが黒い四角に?マークだったら、『スーパーマリオ』のボーナスブロックと思うだろう。そしてもしそうだったらエキソニモはきっとそんなアプローチをしてくるにちがいない。そもそもこの文字化けマークは、何なのだろうか? という疑問が筆者には湧き上がってくる。

この黒い菱形に?マーク文字をコピーしてググっても、当たり前だが検索は出来ない。そんな文字はないからだ。この文字はそんな文字はありませんよという文字で、この文字自体なかなか奥深い世界観を持った文字なのである。正式には、REPLACEMENT CHARACTER(U+FFFD)と言い、定義された文字以外の領域にある文字ですよという意味だ。Unicodeの漢字関係の文字のデータベースであるUnihan databaseを見ると、Unihan data for U+FFFDが載っており、あの文字を見つける事ができる。

ユニコードの難解かつ奥深い世界を紹介したところで、最後に今回の注目コードを紹介したいと思う。

<body link="bot" vlink="and" alink="human"

そして、萩原俊矢とは何者なのか、誌面とサイトを見て感じてほしい。