本連載では、Twitter Japan(以下、Twitter)の協力のもと、季節や特定のイベントに関するツイート内容と、その盛り上がり状況の解析に基づき、Twitterのトレンドを活用したマーケティング手法について考えていく。

2本で1セットとし、前編では、Twitterでリサーチャーを務める櫻井氏に監修を依頼し、特定テーマに関してTwitterのトレンドを分析してもらい、インフォグラフィックで分かりやすく解説していくほか、このインサイトを活かしたプロモーションプランを提案。一方、後半では、マイナビニュース編集部が実際に当該テーマに関してTwitterを積極的に活用する企業に取材を行い、その事例をインタビュー形式にて紹介していく。

第6回となる本稿では、第5回の【コミュニティ】の後半として、DeNAを取材し、実際にモバイル端末向けゲームのプロモーションとしてTwitterをどう活用したのかを紹介する。

2006年からモバイル端末向けにゲームを提供してきたDeNA。自社で開発・運営するゲームのほか、他社との協業によるゲームなど、さまざまなタイトルのゲームを配信している。

同社がゲームマーケティングの主要ツールとしてTwitterを活用し、それが成功している秘訣はどこにあるのか? 宣伝部 デジタルマーケティンググループ グループマネジャー 今西陽介氏と、前述の2アカウントの運用方針や施策を検討するチームに所属する武内一矢氏、林紫苑氏(いずれも同グループ)に話を伺った。

Twitterは「ファン化」に欠かせない

「弊社のゲームマーケティングにおけるミッションは2つあります」と今西氏。まずはアプリをダウンロードして頂くこと、さらに継続利用してもらうことだ。後者の継続利用においてキーワードになるのは「ファン化」である。

「ゲーム業界では毎日のように新作が次々とリリースされています。ただ、半年後、1年後に残っているゲームはほとんどないのが実情です。ダウンロードしてもらうだけでなく、翌日もプレイして権一やリリアと会話してもらうことは、ゲームのファンになって頂きやすいのではないか?と思います」(今西氏)

我々はエンターテインメントを提供している会社として、「どうすればユーザーさんに長く楽しんでいただけるのか」ということを毎日試行錯誤しております。これは、ゲームの内容を良くしていくことと同じくらい重要だと考えており、当社ではすごく大切にしている視点の一つです。

DeNA 宣伝部 デジタルマーケティンググループ グループマネジャー 今西陽介氏

LINEやFacebookなど、マーケティングに活用できるツールはいくつもあるが、その中でも同社がTwitterに重点を置く理由は明確だ。日本のユーザー数が3,500万人もいること、Twitterはもはや“つぶやき”ではなく、”会話”になっていることが挙げられる、と今西氏は説明する。

「ユーザーさんと同じ目線で同じツールを使い、リアルタイムで会話するのに優れているのがTwitterだと思います。『ユーザーさんと運営スタッフの間の立ち位置』をとれることも大きいです。運営スタッフと直接コミュニケーションすると『◯◯の対応、なんとかしろよ!』と当たりが強くなるユーザーさんもいらっしゃいます。一方、両者の中間にいることで、『リリア、プロデューサーに◯◯って伝えておいて』と、ユーザーが運営スタッフに直接伝えるよりも、ストレスなく意見できる場所があり、その結果として当社はユーザーの求めてる声を、理解することができます。(今西氏)

ユーザーとしても運営側に直談判して断られるとストレスになってしまう。実際、権一もリリアもユーザーに近い存在である。どちらもプレイヤーとしてゲームを実際にプレイし、その模様もTwitter上で報告し、ユーザーとゲーム攻略の情報交換をすることで、「ユーザー側の味方」になっているのである

「そうやってユーザーさんから寄せられた質問や会話に対しては、1日数百件のペースで返信しています。このときおもしろいのは、1:1で1人ずつ会話をしているように見えて、実は1:nとして会話をしていることです。周囲で見ているユーザーさんは『このコミュニティは盛り上がっている』『面白そうかも』『ゲームをやってみようかな』というご意見をTwitter上で頂くこともあります。」(今西氏)

ユーザーの質問には原則5分でリプライ

両アカウントを見ていると、気づくことがいくつかある。まずは、返信のスピードだ。今西氏は「ユーザーさんが困っているときに10分以内に返信するのと、24時間以内に返信するのでは、まったく印象が違います」と語る。

「速さは忘れてはいけないポイントです。ユーザーさんはゲームをいくつもプレイしていますから、何かわからないことがあってTwitterで質問したのに、なかなか答えが返ってこないと、他のゲームにいってしまいます。つまり、私たちが目指す“ファン化”からそれてしまうわけです」(今西氏)

戦魂やオセロニアにおいては、とくに返信対応時間にルールを設けているわけではないが、質問のリプライが寄せられた際、あるいはTwitter検索を通じて使い方に悩んでいるユーザーを見つけたときは、営業時間中はできる限り5分以内に話しかけるようにしているという。

「ユーザーさんは、まさか自分がつぶやいて数分以内に企業の公式アカウントからレスがくるとは想像していないはずです。期待値を超えるのが“ファン化”を実現するのに欠かせません。そうすることで、ゲームの中身にもより期待していただけると思うのです」(今西氏)

そういった問い合わせへの対応を、ユーザーがゲームの勝手がわからない初期は、1日何百件も行っており、明らかに大変だ。

「確かによく『大変そうだね』といった声を聞きます。ただ、Twitterは効率化されたツールだと思っています。権一の運用担当者は1名だけですが、1名で1日数百件のメールに対応するのには無理があります。それでもTwitterだとできないことではありません。Twitterは1:1の会話でも多数の人に見られていて、1つの質問に返すとその他大勢の方の疑問を解決できます。そういった目に見える形で真摯に対応していると、ユーザーさんから『真剣に対応してくれている』『他のゲームと比べて親切』と、嬉しいコメントをいただくことも少なくありません」(武内氏)

DeNA 宣伝部 デジタルマーケティンググループ 武内一矢氏

別途設けているカスタマーサポートよりも、Twitter担当者のほうがユーザーの意見を多く吸い上げているのかもしれない。

「カスタマーサポートに問い合わせたことがある方は、当時のことを思い浮かべてください。相当なエネルギーを使いませんでしたか?(笑) 弊社ではユーザーさんのストレスを軽減するとともに、Twitter担当者のもとに集まってきた意見は、カスタマーサポートやプロデューサーにすべて共有する、という流れをつくっています」(今西氏)

Twitter担当にはリテラシーがあり、作品とファンへの愛あふれる人を

前述のとおり、両アカウントの運用担当者は各1名である。権一は同グループ内の男性、リリアは女性が任命されている。どんな人選をしているのか、あるいはどんな人物を選ぶのが正解なのか?

今西氏は「プレイしているユーザーさんも好きだし、自らもゲームに愛があり『より良くしていきたい』と考えている人を担当者にしています」と語る。

大前提として、SNS利用に関する一定以上のリテラシーを持っていることも条件になる。人選さえ間違えなければ、会話の内容が良からぬ方向へいってしまうことも、ほぼ避けられるからだ。

「担当者がSNS文脈を理解していない場合、トラブルが起きる可能性があります。最初のうちはシニアメンバーがSNS運用チームに携わり、投稿内容をひとつひとつ目視で確認していました。1カ月経つ頃には自走してOK、困ったときは個別に相談をと、段階的に権限を与えてきたのです」(武内氏)

いまとなっては、カスタマーサポートチームやゲームチームを含む関係各所に確認してから投稿を行うクライシス対応時を除き、担当者への権限委譲は行われている。それくらいリテラシーを持っている人、かつユーザーとゲームへの愛があふれる人を担当者としてアサインすれば、すべて安心して任せられるのだと、今西氏も補足する。

確かにユーザーへのリプライを一言一句、上司がすべて確認してからでないとユーザーと会話できないという状況は、コミュニケーションのスピードを損ないかねない。言っていいこと、いけないことは「不快な思いをする方がいるかどうか」という観点で考えるとわかる。根底にあるのは自分がされて嬉しいことを行い、その逆は絶対にしないこと――そういったごく当たり前のことなのだ。

さらに、当然ながらされて嬉しいこと、嫌なことは人それぞれ。ユーザーひとりひとりによって異なる。そのため全ユーザーを一緒に扱うのではなく、ひとりひとり見た上で何を求めているか察知する高いコミュニケーション能力が求められる。

ユーザー対応は、心地よいと感じてもらえる接客に似ている

言ってしまえば「リアル店舗での心地よい接客」とまったく同じなのだ。それは、個別のやりとりからも伺える。「1人のユーザーと連続して3往復以上の会話はしない」といったルールを設けている権一では、内輪感を出さないことを意識しつつ、前にした会話の内容をさり気なく出すのがポイントだ。

「権一は運用開始から1年2カ月が経過し、初期からフォローしてくださっているユーザーさんもいますし、今日初めてTwitterを見てくださるユーザーさんもいます。どちらの方もバランスをとって対応する必要がありますが、長く接してくださっている方だと、関係をわかった上でコミュニケーションすると喜んでくださいます。

具体的には以前した会話を覚えておき、それをできる限り盛り込むこと。『◯◯さんとした会話を覚えていますよ』と伝わると、喜んでくださいます。

過去に寄せてくださった要望を見直して『まだ対応できていなくて申し訳ありません。改めて開発にプッシュしておきますね』とフォローすることもあります。その一言で安心してくださったり、丁寧なサポートだなと感じてくださったりするのでないかと思います」(武内氏)

こうしたきめ細やかな対応が、ユーザーをファン化させる秘訣だといえよう。ここまでするのか、と思ってはいけない。これこそが他のゲームとの差分となる。

ユーザー参加型キャンペーンで一緒にゲームをつくっていく気持ちに【権一】

ここからは、権一とリリアのキャラ設定や施策について、個別に見ていきたい。戦魂は硬派な世界観を体現したゲームである。戦国時代の香りを感じてもらうため、権一というキャラクターには足軽をチョイスした。

「キャラ設定をいわゆる“御用聞き係”の足軽にしたのは、“城主”という位置づけであるユーザーさんとの関係性も加味した上のことです。“城主様”という呼び方を使ったり、語尾に“ござる”を用いたりと、Twitter上でもゲームの硬派な世界観を意識しています」(武内氏)

2015年3月23日に事前登録を開始した戦魂。戦国系のクイズを出したり、ゲーム画面や登場キャラを動画で紹介したり、事前登録期間中にも「リリースされたらやってみたい!」と思ってもらえるよう、下地づくりを丁寧に行ってきた。当時も1日100件程度の発信をしていたという。

戦国系のクイズ

リリース直前にはキャンペーンを開始し、1カ月半後の同年5月7日にタイトルが出るタイミングで一番熱量が高くなる設計を意識した、と武内氏。日々の運用とキャンペーンをあわせて盛り上げてきた。

ひと月に何度か行うキャンペーンでユーザーに喜ばれやすいのは、権一をゲーム内のキャラクターに一時的(主に1日限定)に切り替える「アカウントジャック」。織田信長や真田幸村に切り替えたことがあるという。

「アカウントジャック」

さらに、権一そのものが人気を集めるようになってからは、ファン向けの施策として権一をゲーム内に登場させようと決めた。その際、権一を4種類の兵士のうち、どれにするか決めるため、ユーザーに好きなものをリツイートしてもらうキャンペーンを行ったこともある。ユーザーとしては自らがハマっているゲームを運営側と共につくっていけるわけだから、楽しいことこの上ないはずだ。

キャラ仕様を決めるキャンペーン

女の子らしい親しみやすさを顔文字で演出【リリア】

対する逆転オセロニアは2015年9月頃にTwitterを始め、12月の事前登録開始時には「スクープを追いかける女性新聞記者」としてリリアが登場し、2016年2月にタイトルをリリースした。当初、キャラクターは特に作らずに、運用していたが、、リリアに切り替えることで話題を醸成する目的があったという。

リリース後は1日5000人程度の規模でフォロワーが増えていった。やや複雑な性質のゲームのためか、Twitter上にゲームの使い方に関する質問が飛び交い、運用担当者がひとつひとつ丁寧に返信していったのが、初期の頃だったと林氏は振り返る。

DeNA 宣伝部 デジタルマーケティンググループ 林紫苑氏

運用担当者の女性が日常のコミュニケーションで使っている顔文字をそのまま使用したり、自分の日常をお話したりと、自然体で運用を行うようにしています。 公式アカウントだから「こうしなければいけない」という決まりを意図的に設けておらず、それが女子らしい親しみやすさやコミュニケーションのしやすさに繋がっていると考えられます。

公式キャラクターが日常をツイート

これまで実施したキャンペーンでは、過去に実施したイベントのうち、ユーザーからの投票数(リツイート数)の多かったものをゲーム内に実装する、といったものが高い評価を得た。もともとニーズがあったものをキャンペーン化することで、ファンの喜びにつながっているのではないか、と林氏は分析する。

過去に実施したイベントの中で、投票(=RT)数の多い上位6つがゲーム内で復活

厳しいコメントを含め、すべてのリアクションが喜ばしい

さまざまな取り組みを行うなかで、どのような効果が出ているのか、踏み込んで聞いてみた。

「定量的な数字としては、ダウンロード後、翌日遊んでいただける率(リターンレート)は、Twitterフォロワーの方のほうが高いとわかっています」と今西氏。明らかな結果につながっていることがわかる。

さらに、「節目にお祝いしてくださる方がいたり、『権一さんのおかげでゲームを楽しめています』『一度やめたけれど再開しようと思いました』と声をかけてくださる方もいます」と、武内氏は定性的な結果も共有してくれた。オセロニアも同様である。

最後に、運用に携わるチームの一員としてうれしいときについて尋ねた。

「ゲームを褒めていただくのが何よりうれしい瞬間ですが、厳しいお言葉を含め、リツイートやいいね!など、いただくすべてのリアクションはうれしいです。楽しんでゲームをしていただくことが何より幸せなことですから」(武内氏)

「『リリアがいるからオセロニアにログインする』と言ってくださるユーザーさんがいるときでしょうか。1日に何度も嬉しい瞬間はありますね」(林氏)

最後に、今西氏はこう締める。

「星の数ほど存在するゲームの中で、弊社のゲームを選んでくださったこと、さらにはゲームをプレイするだけで忙しいのに、Twitterでコミュニケーション頂けることはありがたいとしか言えません。たとえ、その内容がクレームだとしても、わざわざTwitter上で意見してくださる=ファンになって頂ける可能性があるわけですから」

そういったマーケ視点を持っていなければ、今後ゲーム会社は生き残っていけないのかもしれない。ゲームが飽和状態になりかけているいま、巨額の広告費を投じるだけでは、どうにもならないフェーズにきているといえるだろう。ゲームをプレイするのはまぎれもなく人間である。彼らに対し、人間味を感じさせる温かいコミュニケーションでアプローチし、ゆるく心地よくつながり続けることが求められている。

Twitter Japan

米Twitter社は2006年に創立され、その役割は、アイデアや情報を生み出したり、それをすぐにほかの方々と共有するパワーを世界中の方々に提供すること。毎月3億2,000万人以上に利用されている。Twitter Japanはその日本法人となる。