抜本的改革には経営層の強力な「コミットメント」が不可欠

先ほど「組織そのものの文化や風土を変革していく必要がある」と述べましたが、そのためには、経営層の強力なコミットメントが求められます。

例えば、これまで部門ごとに最適化して作り込んできたシステムを見直す場合、社内からの強い反発が予想されます。業務部門の巻き込みや人材教育に加え、経営陣の強いリーダーシップが発揮されており、全社に一貫したメッセージが発信されていることは、DXをうまく進めている企業に共通の特徴と言えます。

ある大手IT・情報通信業の企業では、CIOの主導で全社規模でのERP/SCM刷新が進められました。従来のシステムは、グループ会社別、業務別に最適化が進んでおり、決算時には、これらのシステム内のデータをバケツリレー方式でかき集め、集計しなければなりませんでした。

新システムには、グローバル標準のERP/SCMを採用し、データとプロセスの標準化を通じて、より効率的、かつ効果的にデータ利活用ができるような体制を段階的に作っていこうとしています。この企業においては、各部門の業務がこれまでのやり方に戻らないよう、経営層が新規ITプロジェクトの概要をチェックするなどの方法で、ガバナンスを利かせています。

また、社内コミュニケーションのスタイルやカルチャーを変えるため、社長を含む経営層が、自ら社内SNSを活用し、従業員へのメッセージ発信も継続的に行っています。経営陣のこうしたコミットメントは、時に社内の反発や対立にさらされるDX推進組織にとって、心強い後ろ盾となります。

「IT人材の確保」は中長期的な計画に基づいて推進する

DXへ取り組むにあたり、ITについての知識とスキルを持ち、自社のビジネスに活かせる「IT人材」の確保は大きな課題です。これまで、開発・運用を子会社あるいはベンダーに切り離して、コスト削減を行ってきた企業の中でも、システム子会社を吸収するなどの形でIT人材を確保しようとする動きが出てきています。

加えて、エンジニアの給与水準を見直したり、働きやすさを重視してリモート勤務やフレックス勤務といった、新たな勤務形態を取り入れたりといった工夫を行っている会社もあります。

デジタル活用が業績に直結するようになったことで、市場変化に即応できるよう、俊敏にITシステムを作り上げることができる開発力が、企業には求められています。しかしながら、ITに関わる要望が次々と社内から出てくる中で、情シス部門のリソースは慢性的に不足している状況です。IT人材の確保と育成は、非IT企業にとっても、避けて通れない経営課題になっています。

IT人材の確保は、短期的な解決が難しい課題です。まずは、外部の専門性を有するコンサルタントなどの助けを借りながら、「伴走型」でスキル不足を補完していく方法が有効でしょう。専門家によるサポートのもと、構想検討やベンダーとの調整などの経験を積み、段階を経て、将来的には内部の人材だけで「自走」できる体制を作っていくことを目指しましょう。

また、近年注目を集めている「ローコード/ノーコード」開発ツールの導入も、ひとつの解決策になり得ます。自社のシステム環境や社員のスキルに適したツールを導入したうえで、企画方法、開発方法を教育することで、業務を熟知している現場の社員自身が、自分たちにとって必要なツールを作り、改善していける環境を整えます。こうした取り組みは、IT活用の企業文化醸成に寄与するだけでなく、情シス部門のリソース不足を補完するものにもなります。

役割の変革を成し遂げた情シス部門はDXの強力なドライバーとなる

近年、情シス部門に求められる役割は大きく変わってきています。従来担ってきたITインフラやシステムの構築・保守・運用業務は、クラウドの導入などにより、徐々に不要となっていきます。今後は、DX実現へ向けた社内への情報提供、啓発活動、社内教育を行っていくことが新たな役割となっていきます。

また、データ活用のような全社規模でのDXプロジェクトにおいて、情シス部門は重要なとりまとめ役を担うことができます。過去の社内プロジェクトにおける経験が豊富で、既存システムを把握しており、社内展開のルール作り、ガバナンスの確保においても専門的なナレッジを持っている組織であることが、その理由です。

「意識」「役割」「立ち回り」の変革(トランスフォーメーション)を成し遂げた情シス部門は、企業のDXを加速する強力なドライバーとなります。今こそ「あるべき姿」を目指して、変革への一歩を踏み出しましょう。

  • DX時代における情報システムへの取り組み方のイメージ 出典:Ridgelinez

著者:篠田 尚宏
Ridgelinez株式会社 Direcor Technology Group