「DXはIT企業だから、新しい会社だから実現できること」「従業員数が多いなど規模の大きな組織でDXを進めるのは難しい」――こうした意見に対し、生活協同組合コープさっぽろ(以下、コープさっぽろ) CIO 長谷川秀樹氏は、「設立56年、従業員数1万5000人以上(パート/アルバイト職含む)、売上3000億円の生活協同組合であるコープさっぽろでもDXは実現できた。自分の会社でもできると思ってほしい」と力を込める。

長谷川氏は、東急ハンズで情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者を歴任後、メルカリで執行役員CIOを務め、2020年2月より同組合の非常勤CIOに就任。複数企業のDX推進をサポートしてきた。6月17日に開催されたリテールガイド×マイナビニュース共催セミナー「リテールDX 2021 小売流通のDX経営最前線」では、特に社内コミュニケーションにおけるDXの重要性や、その手法について語った。

長谷川秀樹氏

生活協同組合コープさっぽろ CIO 長谷川秀樹氏

仕事で多くの時間を割いている「コミュニケーション」に着目すべき

圧倒的な生産性向上を実現するには、システム改修よりもコミュニケーションに着目してDXを進めていくべきだと主張する長谷川氏。その理由について「特にホワイトカラーの仕事は、商談/会議/資料作成といったコミュニケーションに多くの時間を割いており、経費精算や勤怠管理のシステムを使っている時間はそこまで多くない。それらの細かいシステム改修に力を入れても大きな効果は期待できない」と説明する。

コミュニケーションにおけるDXの実例として長谷川氏は、Slackがコープさっぽろの現場で効果を発揮したエピソードについて紹介する。

「とあるロットの唐揚げが真っ黒に焦げていたことに気づいたバイヤーが、Slackのコープさっぽろ惣菜部門のグループへ連絡しました。従来の電話によるコミュニケーションであれば、店舗ごとに指示出しや問い合わせ対応をしなければならず、多くの時間を要するところでしたが、Slackならば一斉に連絡できますし、各店舗からの問い合わせ対応もスムーズに行うことができます。コミュニケーションに必要な時間を大幅に削減できました」(長谷川氏)

コミュニケーションの3チャネルと従来型の会議のデメリット

長谷川氏によると、ビジネスにおける現在のコミュニケーションには3チャネルあるという。

1つ目は、「口頭」。これは従来からよくあるコミュニケーション手法であり、対面での会議やZoomなどでのオンライン会議もこのチャネルに含まれる。

2つ目は、「チャット形式」。Slackのようなチャットツールを使ったコミュニケーションだ。Eメールではなく、口頭でのコミュニケーションを文字化して非同期的にしたものと考えるとよいだろう。

3つ目は、「オンラインドキュメントコミュニケーション」。これは、GoogleドキュメントやGoogleスプレッドシートといったデジタルドキュメント上でのコミュニケーションのことを指す。長谷川氏によると、このオンラインドキュメントコミュニケーションがDXにおいて一番重要だという。

これを踏まえて、会議でのコミュニケーションを考えてみよう。従来は、紙の資料を基にした会議室内での口頭によるコミュニケーションが一般的だった。このような会議スタイルについて、長谷川氏は「紙の資料には後から変更を加えることができない。また、個人で取ったメモは自動で共有されない。議事録は後日回覧される」と、そのデメリットを挙げる。

こうした状況は、3チャネルのコミュニケーションを全て活用した会議になるとどう変わるだろうか。