10月15日~18日に開催された「CEATEC 2019」では、地方版IoT推進選定地域より商品化/実用化などの成果を挙げている19地域が選抜され、合同ブースが出展された。府/県、または市といった地方公共団体の取り組みが紹介されるなか、「町」として唯一選ばれていたのが、徳島県の「美波町」だ。本稿では、南海トラフ巨大地震による津波対策として同町が取り組む「”止まらない通信網”を活用した命をつなぐ減災推進事業」と、この事業立ち上げの背景にある「サテライトオフィス誘致」、「地方創生」のあり方についてレポートする。

正確な情報伝達を実現する”止まらない通信網”

徳島県南部に位置する美波町。四国88カ所第23番札所の「薬王寺」やアカウミガメの産卵の地として知られる恵み豊かな自然に囲まれた土地だ。同町は、今後30年以内に70%~80%の割合で起きると言われている「南海トラフ大地震」への対策という大きな課題を持つ。

「災害は起こることが前提。1人でも多くの人の命を守ることを考えて減災に取り組む」と話すのは美波町政策推進課主査の鍜治淳也氏。過去に昭和南海地震を経験している同町では、主要施設の高台への移転、湾岸部の津波避難タワーなどの避難所の整備などに加え、最新技術を駆使した減災システムにも力を入れる。

徳島大学によるシミュレーションによれば、南海トラフ地震発生時に津波第一波が到達するまでの時間は約10分、津波の高さは20.9m、死者は2400名に上ると予想されている。町の人口は約6,700名、高齢者率は47%。避難困難者を含む住民たちにいかに迅速に効率的に避難してもらうかが鍵となる。日ごろの意識付けや訓練もだが、一刻を争う”その時”には警報や位置確認などの正確な情報伝達が欠かせない。それを実現するのが、「P2P自律分散ネットワーク技術」と「IoT」を使った”止まらない通信網”だ。

インフラ部分としては、920MHz帯のLPWAを利用した省電力無線システムと2.4GHz対のBluetoothを組み合わせ、メッシュ型のネットワークを構築。電柱などに取り付けたIoT装置が、「通信中継装置」として独立して機能するため、もし、災害で基地局がダメージを受けたとしても通信機能の停止を回避できる仕組みだ。「半数の中継装置が被害に遭っても通信網は稼働可能」と鍜治氏は説明する。

自立分散通信のためのIoT装置を日和佐地区内の49カ所に設置

技術協力を行うSkeed製の装置は45000円程度、市販のソーラーパネルは要お問い合わせ。安価なのも特徴

同町では、2017年から、この通信システムを使って住宅密集地にあたる「日和佐地区」を中心に実証実験を行い、実用化に向けた活動を続けている。

LPWA(920Mhz)とBLE(2.4Ghz)の2種類の周波数帯を備えた中継システム(ソーラーパネル駆動)+LED照明による中継網の構築を行う。ノード間は50~300m程度でエリア内に多数設置

スマホやタグを使った情報受取側への施策

情報を受けとる住民側のIoT装置となるのは、スマートフォンや無線タグ(ビーコン)だ。首から下げるタイプのビーコンは、LEDが埋め込まれており、災害時には赤く発光して避難を促す。携帯など通信機器を持たなくとも「タグが光ったらとにかく避難所へ」という仕組みは高齢者や子どもにもわかりやすい。

無線タグにはLEDが埋め込まれる(写真左)。一方スマートフォンアプリでは、災害時の警報受信(写真右)や家族の安否確認の用途だけではなく、平常時における見守りシステムとしての活用も可能だ。アプリ開発は情報セキュリティ企業のサイファー・テックが担当する

2017年の実証実験では、避難時要支援者を含む住民約100名に通信用の無線タグを配布した。事前のデータ収集と避難訓練におけるKPI測定では、通信成功率が5分以内で95%と、災害時にも耐え得る強靭な通信手段の確保が検証できたという。

実証実験で避難困難者とサポーターが共に避難場所へ移動する避難訓練の様子。タグからの位置情報は対策本部PC画面から確認できる(画面右下)

続く2018年の検証では子どもたちにも配布。保護者のスマートフォンやPCからの位置情報確認を体験してもらった。「平常時の見守りアイテムとしての活用も視野に入れ、実用化を目指している」と鍜治氏。

実験結果から得られた住民の避難データと津波の浸水予想を合成したシミュレーション。10分遅れでは複数の人たちが津波の被害(赤×)に遭ってしまうが(写真左)、3分遅れではほぼ高台(緑点)に避難できる(写真右)