米国で12月後半からCOVID-19のワクチン接種が始まったが、ワクチン接種のサイトに長い列ができる一方で、3,100万回以上分のワクチンが供給されているにもかかわらず、接種実施数は半分を大きく下回る約1,200万回にとどまっている (1月17日時点)。

原因は、州政府の混乱だ。承認から供給まで短期間で進んだものの、ワクチン接種を実施するのは州や郡である。昨年の10万円給付時の市町村の混乱を思い出していただくと、今の米国の状況が想像できると思う。しかも、12月後半という行政職員が休暇を取り始めたタイミングでの開始だ。年末・年始の人手不足と未曾有の事態に向かうノウハウ不足で大混乱に陥っている。

  • 「コロナワクチン開発の進捗状況(国内開発)<主なもの>」(出典:厚生労働省)

    「コロナワクチン開発の進捗状況(国内開発)<主なもの>」(出典:厚生労働省)

ワクチン接種は、医療従事者や教職員をはじめとするエッセンシャルワーカー、感染した場合のリスクが高まる高齢者からスタートして段階的に広げていく。ただ、合衆国である米国でCOVID-19対策は州によって異なる。マスク着用も全米一律ではなく、公共の場所で義務付けている州があれば、着用を不要としている州もある。ワクチン接種のルールも州ごとに異なる。

例えば、フロリダ州は早い時期から65歳以上と年齢制限を比較的ゆるくして開始したため、接種サイトに希望者が殺到し、外で十数時間も待つ高齢者の姿が報じられた。それにも関わらず、昨年末時点で同州は供給されたワクチンの1/4以下しか投与できなかった (現在1月17日時点で接種実施数は供給総数の41%)。効率的に接種を完了させる段取りを整えずに開始したところに、ゆるい制限による大混雑で作業効率がさらに悪化した。

逆に、制限・管理を厳しくした州が成功しているかというと、厳格すぎる州もまた失敗している。ニューヨーク州は年齢や対象職種の制限を狭め、州のガイダンスを守らない医療プロバイダに罰則を導入する考えを州知事が示した。その結果、接種を希望する人がたくさんいる一方で、条件を満たす人を絞り込み過ぎて接種が中々進まないという事態になった。

2,504人の医療従事者を対象にしたSurgo Venturesの調査(2020年12月17〜30日に実施)によると、53%がワクチン接種をオファーされ、そのうちの15%が接種を拒否した。医療従事者にも接種に不安を覚える人が多いのが現状である。スピード承認されたワクチンに対する不信感は根強い。それにも関わらず、ワクチンに関して、一般の人達が事実を分かりやすく把握できる場が見つけにくい問題が指摘されている。ネット上には、リスクの懸念を煽るようなコメント、不確かな情報 (2回目の接種はそれほど重要ではないなど)が飛び交っていて、接種を希望する人を少なからず動揺させている。接種登録を行ったものの接種サイトに現れない人も多く、予約者のために保管庫から出したワクチンを無駄にしてしまうことが起こっているという報告もある。

  • Pfizer-BioNTech COVID-19ワクチン

接種の効率性を改善し、ワクチンを無駄にするリスクを避けるために、ニューヨーク州は接種ルールの緩和に乗り出した。カリフォルニア州では1月初めに、冷凍保管庫が故障して2時間以内に830回分の投与を緊急で行わなければならないということが起こった。幸い州のガイドラインの対象者で未接種の人達が施設内にまだ多く残っていたためワクチンを無駄にせずに済んだが、そうした不慮の事態に現場の人達が対応できる柔軟性がガイドラインに求められる。

国はワクチンの供給を管理するシステムを持っているが、登録や接種のステータスなどを管理するのは州・郡である。ハリケーンや竜巻、山火事といった災害時に、住民に避難勧告などを出す地方政府を国がサポートするコミュニケーションシステムが確立されている。ワクチン接種でも同じように、供給を管理する国と接種を管理する地方政府が連携するのが望ましい。例えば、各州・郡のワクチン接種に関する制限やルールの確認、接種の申し込み、2回目の接種スケジュールの管理、接種証明の管理などを、どの州に住んでいても同じWebサイトやアプリでできるようにするべきという声がある。

接種サイトの密を避けるためにオンラインで申し込んで予約することが推奨される一方で、今の対象者である高齢者にオンライン予約は利用しにくいという指摘も。実際、オンサイトで接種できる場所の混雑が目立っており、そうした場所では長く待たされる上に、用意されたワクチンを使い切ってしまうこともある。

オンサイト接種の改善策と目されているのが集団接種だ。保存条件が厳しいワクチンを小規模なサイトに分散させるよりも、大型施設で数千人規模の接種をまとめて行った方が、ワクチンを管理しやすく、スタッフも集めやすいため、効率的に短期間でより多くの人への接種を完了できる。大きなイベントの方が目立って告知効果も高まるというメリットもある。今ベースボールがオフシーズンであり、ニューヨークのCiti Field (Metsの本拠地)やロサンゼルスのDodger Stadium (Dodgersの本拠地)など、密を避けながら集団接種が可能なスポーツ施設を接種ハブにする計画が進んでいる。

米国でも第3波という言葉が使われているが、実際には春から1日あたりの新規感染者が増え続けており、米国で暮らす身としては"第3の増加"という印象でしかない。それだけにワクチンへの期待が高く、今の接種の混乱は歯がゆい。スピード承認ではあったが、「ワクチン提供まであと少し」と報じられていた頃に、国と州政府が連携して、接種を円滑に広げていく体制を整えておけたのではないかと思う。日本は今まさにその時であり、同じ轍を踏まないようにしっかりと準備を進めてほしいと思う。