米国のソーシャルネットワークサービス(SNS)はMySpaceの独走状態だ。米Hitwiseの調査によると、今年4月のMySpaceのトラフィック・シェアは79.7%で、2位Facebook (11.47%)を大きく引き離している。メンバー数の差がモノを言うサービスだけに、現状では2位以下が追いつくどころか、差を縮めるのも難しい。そのため、SNS強化を打ち出すYahoo!へのFacebook売却が現実味を帯びていた。が、Facebookは安易な身売りをよしとしなかった。

24日(米国時間)に同社はサンフランシスコ市で「f8」というイベントを開催し、Facebook向けのアプリケーションを開発・提供するためのプラットフォーム「Facebook Platform」を発表したのだ。この一手は、これまでのところ開発者やSNSユーザーから大歓迎されており、MySpaceに対してYahoo!への売却以上の打撃を与えている。

閉じたMySpaceと開かれたFacebook

開発者やユーザーのFacebook Platformへの期待は、MySpaceへの不満の裏返しである。それが如実に表れたのがMySpaceとPhotobucketとのトラブルだ。Photobucketは無名ながら、めざましい勢いで成長している写真共有サービスだ。2003年末時点では登録会員数が5万人だったが、今では一日の登録者数が8万人を超えている。写真共有サービスのトラフィックでは、Yahoo! PhotosやFlickrを大きく引き離して現在トップを独走中だ。

その人気の秘密はブログやSNSなどとの連携機能にある。ユーザーはPhotobucketに写真やビデオをアップロードし、リンクさせるだけで複数のブログやSNSに利用できる。管理しやすいし、サービスを乗り換えても写真などを失わない。今では同様の機能を提供するメディア共有サービスはめずらしくないが、最初に始めたのはPhotobucketであり、その急成長を支えたのがMySpaceの大ブレークだった。

MySpaceとPhotobucketは成長過程では利害関係が一致していた。ところがMySpaceが事業の軸をメンバー拡大から売上げ追求へとシフトさせるに従って、Photobucketが障害になり始めた。そのためMySpaceは、これまでに何度かPhotobucketのコンテンツへのアクセス禁止を検討し、実際に4月には動画へのアクセスが制限された。この判断にMySpaceユーザーの不満が爆発。MySpaceによるPhotobucket買収の交渉と共にアクセスが再開されたものの、ユーザーのコンテンツを全て自分たちのサービスに集約しようとするMySpaceのアプローチに大きな疑問符がつけられた。

そのような騒動の余韻が残る中で発表されたFacebook Platformは、MySpaceと全く反対のアプローチを採っている。Facebookは、Facebookユーザーのネットワークを「ソーシャル・グラフ」と呼ぶ。Facebook Platformでは、Facebook Markupというマークアップ言語とすでに公開されているAPIとの組み合わせで、開発者やパートナーが自由にソーシャル・グラフを利用したアプリケーションを開発できるようにした。例えば「Video」というFacebook提供のサンプルアプリケーションでは、個人的なビデオをFacebookの友人と共有できるほか、Facebook Inbox内のビデオからビデオメッセージを作成・送信できる。アプリケーション提供をビジネスチャンスにつなげることも可能だ。Profileページ内で動作するアプリケーションでの広告表示は認められていないが、Canvasページでは広告やサービストランザクションから収益を得られるようにするという。

Facebook Platform発表に合わせて、Amazon.com、Box.net、Lending Club、Photobucket、Slide、Warner Brothersなど、65以上の開発パートナーから85のアプリケーションが登場した。また、MicrosoftがWebアプリケーションのマッシュアップツール「Popfly」でFacebook Platformをサポートしており、プログラミングスキルを持たないFacebookユーザーでも独自のコンテンツ開発に挑戦できる。

Facebookユーザーは、これらのアプリケーションを選択して、自由にProfileページに並べられる。つまりFacebookが用意するのはフレームとエンジンのみで、カーステレオからシートに至るまで、残りのパーツは全てユーザーが自由に選択して、好きなようにデザインできるのが特徴だ。不要ならばFacebookが提供するアプリケーションでも削除できる。

人のつながりをより有用なツールに

「それってSNSではない」という声も聞こえてきそうだが、そもそもSNSは同じ趣味を持つ人を探したり、求人・求職に活用したりと、何らかの目的を効率よく達成するためのツールだ。日本国内ではグループ内でのつながりやコミュニケーションが重視されているが、米国では今でも効率的に情報を発信するために、人々の結びつきが利用されている面が強い。目的は様々であり、その達成のためにユーザー自ら機能を取捨選択できた方が都合がよい。だから、ツールからプラットフォームへの進化は自然な流れと言える。

「SNSの特徴をとらえたアプリケーションが次々に登場することで、メンバー同士のつながりがより密になり、おすすめや口コミ情報などの信頼性や有用性も高まる。より複雑な社会構造を反映したソーシャル・グラフは、開発者やパートナーに新たなビジネスチャンスをもたらす」――これがFacebook Platformの狙いである。だが、現段階ではSNSを次世代のサービスにステップアップさせる可能性に過ぎない。実現は、開発者やパートナー、そしてユーザーのアイディアと想像力次第である。今後しばらく、開かれたFacebookと閉じられたMySpaceという構図が続くならば、MySpaceとの差を縮めるようなブレークスルーの登場を期待したいところだ。