今回はeラーニングの会社、株式会社キバンインターナショナルにお話をうかがいます。最近はウェブサイトでも映像コンテンツが欠かせなくなり、スマートフォンやタブレットで、どこにいても映像が見られるようになりました。eラーニングを映像で配信するとなると、ネットワーク技術も重要になり、数学と大いに関係がありそうですね。

今回は、動画配信と数学の関係について、株式会社キバンインターナショナル代表取締役社長の中村央理雄さんにお話をうかがいました。

-中村さん、今日はよろしくお願いします。それにしても機材がたくさんありますね。こちらの本社にもスタジオ機能があるのですか?

弊社は「パンダスタジオ」という名前でスタジオ運営もしています。このビルの中だけでも、8つのスタジオがあります。

-スタジオの名前は、どうして「パンダ」なのですか?

「ホワイトスタジオ」と「ブラックスタジオ」の2つのスタジオの開設から事業が始まったからなんです(笑)。白と黒の動物をマスコットキャラにしたかったので、いくつかの候補の中から「パンダ」を選びました。ではスタジオの中を案内しましょう。

-ありがとうございます! 楽しみです!

ここは「ホワイトスタジオ」です。特別注文をして作ってもらった電子黒板、「パンダビジョン」が設置されています。これはeラーニングに欠かせないアイテムですね。ミーティングルームとしても使用できますよ。

ホワイトスタジオ

-パンダのぬいぐるみがいっぱいでかわいいですね。

こちらは「ブラックスタジオ」です。

ブラックスタジオ

-本格的な放送局みたいですね!

はい、放送局のスタジオにひけをとらない設備のスタジオです。ブルーバックを用意しているので、背景と人物を合成するクロマキー合成ができます。たとえば、講師と背景の図説を組み合わせるなど、わかりやすいラーニング教材作りに使用することができるんです。ウェブ配信の方にもご利用いただいていますよ。

-バーチャルの背景と人物を合成できるんですね。

モニタールーム

ほかにも講師の全身を写すことができ、フィットネス番組や音楽番組に適した「オレンジスタジオ」や、出演者自らが機材を操作して動画コンテンツを制作できる「レッサーパンダスタジオ」、最大200名の収容力をもつイベントホール型の「ジャイアントパンダスタジオ」もあります。「ジャイアントパンダスタジオ」はアイドルのコンサートもできるんですよ。

ジャイアントパンダスタジオ

-このビルの中にこれだけたくさんのスタジオが入っていたとは驚きました! スタジオ見学でも説明していただきましたが、改めて御社の業務について教えていただけますか?

弊社の理念は「すべての人にeラーニングを」というものです。インターネット端末がパソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットへと拡大したことで、ユーザーも増えましたよね。eラーニング番組を、より多くのユーザーに届けることができるようになりました。

-近年のスマートフォンの普及の勢いはすごいものがありますよね。

キバンインターナショナルが提供している講座は150以上にのぼります。資格講座は中小企業診断士や行政書士、社会保険労務士などの士業としてメジャーなものから、ボイラー技士や気象予報士といった専門分野まで。趣味系の講座では占いや風水、ヨガといったものまで幅広く提供しているんですよ。

-どれも興味をひかれますね。eラーニングなら自宅で手軽にできますし、受講してみたくなります。

ぜひ、よろしくお願いします。番組は電子黒板やクロマキーを使った講師の動きとわかりやすいテキストや図の説明がセットになったもので、好評をいただいていますよ。私も「電気の基礎(電気回路)」という基礎的なeラーニング動画をアップしているので、良かったら観てくださいね(笑)。

電気の基礎(電気回路)

-中村さんは教えるのがおじょうずなんですね! 驚きました! このような動画配信に関しては様々な技術が使われているかと思いますが、動画と数学はやはり関わってくるものでしょうか?

まず、画像というのが何でできているかを説明しましょう。画像は「ピクセル」と呼ばれる細かい点でできています。

-拡大すると小さな点の集まりなのがわかりますね!

こちらは横が640ピクセル、縦が360ピクセルとなっています。この比率を「アスペクト比」と呼びますが、これが16:9なんです。

640ピクセル×360ピクセルなので、1枚の画像は23万400個のピクセルで構成されていることがわかります。

-数学の問題みたいになってきましたね。

では、1枚の画像のデータ量はどれくらいでしょう? 白黒2色の情報量ならば、1ピクセルは1ビットの情報量なので、23万400ビットのデータ量となります。8ビットは1バイトなので、23万400÷8で2万8800バイト。つまり28.8キロバイトということになりますね(注:1kバイト=1000で計算)。

-1キロバイトが1000バイトですものね。

今のは白黒の場合の計算です。これをフルカラーにすると、69万1200バイト、つまり691.2キロバイトになるわけです。

-一瞬、意外とたいした容量じゃないと思いましたが、これって画像1枚のデータ量ですよね…。映像となると…。

そうです。映像は1秒間に24枚の絵が表示されています。1/24秒が691.2キロバイトですので、1秒では16メガバイト、1分では995メガバイト、10分になると9ギガバイトにまでふくれあがります。

-たった10分の動画で9ギガバイトですか…。

実際にはこの動画に圧縮をかけるので、10分の動画は150メガバイトくらいになります。配信するときに回線速度を考慮しなければいけないからです。たとえば1秒間に30メガビットのデータを送れる30Mbpsの回線速度で、150メガバイトのデータをダウンロードしたらどのくらいかかるでしょう?

-150÷30で5秒…じゃなかった。回線速度の単位はビットですものね。150メガバイトは1200メガビットになるので、40秒かかることになります。

そうですね。ということは10分=600秒で150メガバイトのデータをスムーズにダウンロードするには、1200メガビット÷600秒で2Mbpsのダウンロード回線速度が必要になります。配信するサーバ側は、ユーザーのダウンロード速度を提供できるだけの速度を出さなければいけません。

-なるほど、数学を使って速度や容量を計算するわけですね。

ダウンロードするユーザーの回線速度を考慮しなければいけないので、サービスを設計する際には同時視聴利用者数の見積もりが重要となってきます。このように計算は必須ですよね。

-スムーズに動画を見てもらうためには、計算は大切なんですね! ところで、中村さんは数学が得意でしたか?

算数や数学は好きでした。けれども計算ミスなどが多く、なかなか点数に結びつかなかったので、文系の経済学部に進みました。

-インターネットに対する興味はいつ頃からお持ちになったんですか?

大学に入ってからですね。僕は大学で応援団に所属していたのですが、野球部から試合の結果をウェブサイトに載せてほしいという依頼があり、そこが興味の始まりでした。

キバンインターナショナルの創立メンバーになったのも、その流れです。

-業務上、数学を使うことも多そうですね。

はい。社会人になってから数学の重要性は意識するようになりました。適切な場所で適切な数式を使うためには、単に数式を覚えるだけではなく、数式の意味をきちんと理解しなければいけません。これは社会で数学を応用していくために必要な力だと思います。

そのための数学教育を広げるお手伝いができたらいいなと思いますね。

-中村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

中村さんのお話を聞いて、一般の人もウェブサイトで動画を楽しむようになった今、それにともなう数字を理解することも必要なのかもしれないと思いました。バイトやビットのような学校の問題では習わなかった単位が生活の中に入り込んできています。1ビットがどれくらいの大きさなのか、通信速度を考えるとどれくらいの早さでダウンロードできるのか、そういった単位の大きさを感覚として捉える力が求められているのかもしれませんね。

今回のインタビュイー

中村央理雄(なかむら おりお)
株式会社キバンインターナショナル代表取締役社長
1977年山梨県出身。
駒澤大学経済学部卒業後、現在のキバンインターナショナルの元となる有限会社キバンの設立に携わる。
現在はeラーニング教材の製作やパンダスタジオの運営を行っている。

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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