ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が7月19日に発売する、メディアストレージサーバー「nasne(ナスネ)」の合同体験会が5月21日に行われた。体験会の詳細については、レポート記事を参照して欲しいが、ここでは、ミニマムな録画環境としてのnasneについて、筆者が知り得た範囲のことをお伝えしようと思う。

nasneはデジタル放送チューナーを搭載したNASなのだが、使い方によっては、ミニマムなデジタル録画環境を構築することが可能だ

まずは、基本的なことだが、nasneはHDMIなどの直接的な映像音声の出力手段を持たない。そのため、nasneで録画した番組を視聴するには、DTCP-IPに対応したDLNAプレーヤーが必要になる(もちろんホームネットワーク環境も必要だ)。

背面の端子は、アンテナ端子とネットワーク端子、ACアダプターを接続するためのDC IN端子、HDDを接続するためのUSB端子のみとシンプルだ。USB端子には2TBまでのHDDを接続できる。対応しているフォーマットはFAT32形式だ。なお、ここに接続できるのはHDDのみで、他デバイス、例えばフラッシュメモリーなどを接続することはできない

各メーカーのテレビでは昨今、ネットワークに対応しているものが増えている。それらは基本的に、ビデオのオンデマンドサービス(VOD)や「Youtube」などの利用を主眼とするものだが、DLNAプレーヤー機能も多くの機種に搭載されている。例えばソニーでは「ソニールームリンク」として、現行のブラビア全てに実装されている。nasneではこの機能を使用して、録画した番組を視聴することになるわけだ。

DLNAプレーヤー機能を搭載しているのはブラビアだけではない。パナソニックでは「お部屋ジャンプリンク」として「C5」シリーズ以外の現行モデルで搭載。東芝では「Z」「R」の各シリーズが対応、シャープでは「V5」以上の全モデルがDLNAプレーヤー機能を搭載している。もちろん、これらのテレビ全てがnasneで録画した番組を再生できるという保証はないが、特にソニー製のテレビのみで動作するような制限は掛けないということなので、おそらくは、普通に動作するのではないかと思われる。

見にくい写真で申しわけないが、XPERIA上で「Gガイド.テレビ王国CHAN-TORU」を動かしているところ

さて、録画した番組を見るには、まず録画を行わなければならない。nasneは、「torne(トルネ)」を初めとするソニー製品から録画予約操作を行うことが可能だ。しかしそれ以外にも、nasneで録画予約を行う手段は存在する。それが、同社のBDレコーダーをスマートフォンやPCから操作するためのWebアプリ「Gガイド.テレビ王国CHAN-TORU」(以下CHAN-TORU)だ。

Google Chromeで動作中の「CHAN-TORU」。レコーダーの電子番組表からの録画予約と、感覚的には変わらない。マウスなど、使い慣れたポインティングデバイスを使用している分、こちらのほうが快適だったりもする

CHAN-TORUは、PCやタブレットでは、Google Chrome、あるいはApple SafariといったWebkit採用ブラウザで利用できる。また、Android 2.2以降やiOS 4.3以降でも動作する。

現状のCHAN-TORUでできることは、使用しているBDレコーダーによって異なるが、対応機種ならば、最低でも番組表の表示と録画予約は可能だ。ソニーのBDレコーダーの2008年以降のモデルならば、録画予約リスト・録画タイトルリストの閲覧、予約のキャンセル、録画タイトルの選択削除・まとめて削除が可能だ。

最近のテレビ+スマートフォンという組み合わせならば、既に両方とも持っているという人は少なくないだろう。CHAN-TORUで録画予約動作を行い、DLNA対応のテレビで視聴するという組み合わせならば、16,980円で、3波対応のレコーダーを導入することができることになる。

では、この環境の使い勝手はどうなのだろうか。個人的には、CHAN-TORUは、直接リモコンで操作する場合に比べてレスポンスがイマイチだという印象がある。とくに起動時の遅さが気になるところで、外出先で自宅のBDレコーダーに予約を入れようとすると、BDレコーダーが起動するまでかなり待たされることになる。ところがnasneの場合、レコーダーの場合と違って"サーバー"に類する製品なので、常に起動状態にしておくことが多い。起動までの待ち時間は発生しないし、起動後の通常の操作も、会場で見た限りはBDレコーダーをCHAN-TORUで操作するよりは速い。また、スマートフォンの小さい画面で録画予約を行うのは少々つらいが、PCやタブレットならば、レコーダーに搭載されている番組表から予約を行うのと、感覚的には変わりはない。

CHAN-TORUは、GoogleやYahoo!、Twitter、mixi Open IDのアカウントでログインして使用することになる。1つのアカウントでは、1つの機器しか制御することができない。別のアカウントでログインし直すことで、複数の機器の操作を行うことも可能だが、やはり少々手間に感じる。現在、CHAN-TORUを利用しているユーザーは、基本的に同社のBDレコーダーのユーザーということになる。そこに、見たい番組が重なったときのための追加のレコーダーとしてnasneをプラスすると、現状のCHAN-TORUは面倒な印象だ。

しかし、安心して欲しい。これに関しては、nasneの発売時期にあわせて、CHAN-TORUのアップデートを行うべく、開発を進めているらしい。会場で伺ったところによると、最低でもBDレコーダーとnasneといった、2台の機器は登録できるようにしたいとのことだ。

このように、ミニマムな環境でnasneをレコーダーとして使用すると、録画予約はPC、タブレット、あるいはスマートフォンで行うことになり、再生のための操作は、テレビのリモコンで行うことになる。録画と再生で、操作に使用するデバイスが異なるというのは、少々手間かもしれない。しかし録画に関しては、家の中でも外でも同じ操作体系になり、ある意味シンプルだと言えるだろう。

また、現状ではnasneに録画した番組をBDメディアに書き出す際、Windows 7以降を搭載するVAIOが必要になる。レポート記事にもあるとおり、nasneのリリースにあわせて、Windows 7以降を搭載するVAIOユーザーが利用できる形で「VAIO TV with nasne(β版)」が提供される予定だ。

BDに書き出すためだけにVAIOを用意するというのはさすがに気が引けるが、ミニマムなデジタル録画環境としてnasneを見た場合、比較対照になるのは、BDレコーダーではなく、おそらく、テレビに録画機能を付加するといったイメージのシンプルなデジタルレコーダーということになるのではないだろうか。それらの機器の多くはやはりBDへの書き出し手段を持っていない。さらに、nasneとは異なり、長時間録画モードやネットワーク経由での録画予約などはサポートされていない。

手元にあるデバイスを有効活用することで、フレキシブルな録画環境を構築することができるnasneは、PS3ユーザーや、VAIOユーザーだけでなく、幅広い層にとって、手軽なチョイスとなるのではないだろうか。