この連載では、富士通ゼネラルの“ウェアラブルエアコン”「Cómodo gear(コモドギア)」シリーズを誕生当時から追いかけてきました。2020年に初代Cómodo gearが産声をあげ、翌年には冷却機能に暖房機能を加えたCómodo gear i2が登場しています。
今回は2023年5月に発売を迎えた新製品「Cómodo gear i3」を体験してきました。第3世代機が進化したポイントや発売後の反響について、Cómodo gearシリーズの商品企画を担当する佐藤龍之介氏と、設計担当の阿部祐也氏に聞いています。
冷暖房に1年中使えるウェアラブルエアコン、買い取りも可能に
Cómodo gearは、ネックバンドの内側・左右・後方に配置した合計3つのプレートに「ペルチェ素子」を埋め込んでいます。電気を流すと、ペルチェ素子の効果(熱を反対側へ移動)によって首のまわりを冷やすウェアラブルエアコンです。
ペルチェ素子は片側から吸熱して反対側から放熱します。その熱を活用する暖房モードも搭載していますが、冷却モード時にはペルチェ素子からの放熱を循環水で冷やす方式を採用。水を循環させるラジエーターとチューブ、電源を合わせてひとつのデバイスとなります。
ネックバンド部はユーザーによって異なる首のサイズに合わせられるよう、LとSの2サイズ展開です。トータルの重さはLが930g、Sが915gです。
それぞれ(ラジエーター、チューブ、電源、ネックバンド)をまとめて身に着けやすいように、富士通ゼネラルはCómodo gear i3専用のポシェットをパッケージに同梱しました。別売のオプションとして、ボディバッグとワークベストも用意しています。
基本的にCómodo gearは、過酷な厚さの現場作業に携わるプロフェッショナルのために、富士通ゼネラルが開発したBtoB向けの製品です。前モデルのi2までは日本国内の企業向けに月額10,000円(税別)で有償レンタルを行ってきました。最新モデルのi3は月額10,000円(税別)のレンタルサービスか、または1台60,000円(税別)で購入もできます。
佐藤氏によると、i2から冷房だけでなく暖房の機能を追加した結果、「年間を通して使う機会があるので購入したい」という声が多く寄せられたそうです。この声を受けて、販売方法を追加しました。その背景には、シリーズ開始以来、ユーザーの感想や要望に対して課題をていねいに解決してきたこともあります。最新モデルのi3はユーザーに買い取ってもらえるクオリティに到達したとし、「売り切り」の販売スタイルに踏み切りました。
佐藤氏によると、i2から冷房だけでなく暖房の機能を追加したことや、一年中暑さ対策が必要な鉄鋼現場などから「年間を通して使う機会があるので購入したい」という声が多く寄せられたそうです。この声を受けて、販売方法を追加しました。その背景には、シリーズ開始以来、ユーザーの感想や要望に対して課題をていねいに解決してきたこともあります。最新モデルのi3では、ユーザー自身が循環水を補給できるようにしたり(販売向け)、仕様変更や品質向上を図ったりしたことから、「売り切り」の販売スタイルに踏み切りました。
生のユーザーボイスを聞きながら改良を加えてきた
Cómodo gear i3が前のモデルよりも進化したポイントを、実機を体験しながら紹介しましょう。i3は内部の設計や部品を見直し、冷却性能が向上。従来は35℃までだった使用環境温度が40度まで対応し、より過酷な現場でもしっかりと冷えるようになりました。
佐藤氏は開発チームや営業部のメンバーと手分けしながら、これまでCómodo gearをレンタルで使った実績があったり、関心を寄せてくれたりしたクライアントの現場を訪ねて、生の声にもとづくニーズをていねいに聞き取ってきたそうです。
「私自身、新機種の発売後も各社の作業現場に足を運んでいます。とても暑く過酷な作業環境なので体調を崩すことも多く、作業員の安全対策がままならないという企業もたくさんあります。技術力の高い作業員の離職を食い止めたいという声もうかがいました」(佐藤氏)
例えば、冷却ファン付きの作業着などもありますが、十分な冷却効果が得られなかったり、現場によっては危険があったりもします。鉄鋼業の作業現場では鉄粉なども多く舞うことから、作業着のファンが粉塵を吸い込んで内側へ取り込んでしまうと、粉塵が身体にまとわりついてケガにつながる可能性も考えられます。
「Cómodo gear i3は40℃を超える環境でも、安全に高い冷却効果が得られることを、現場で作業に携わる方々から高く評価いただきました。身に着けて移動することに無理のないサイズ感、バッテリー交換で長時間の連続使用ができる仕様も好評です」(佐藤氏)
充実の冷感。Ecoモードでもしっかり冷える
筆者は首が細めなのでSサイズの実機を体験。ネックバンド部のパネル(ペルチェ素子)は首の後ろに1つ、あごの下左右あたりに1つずつあります。i3は前モデルよりも冷却面積が86%アップ。ぴたりと首に密着するフィット感が得られます。
運転モードは3段階。「Eco」と「Normal」は3つのパネルを交互に動かして、長時間運転を図ります。Ecoモードでもしっかりと冷える印象です。「Full」モードは3つのパネルをすべて動かす約2時間の連続冷却。ラジエーター側面のスイッチでモードを切り換えるシンプルな操作にも好感が持てます。
Cómodo gearシリーズの設計を担当する阿部氏は、「最新モデルのi3でペルチェ素子とラジエーターまわり、水冷システム(水の流れ)まで、あらゆるところの設計を見直して冷却効果を高めました」と話しています。
「やろうと思えば、いくらでも冷やせます。ところが冷やしすぎると、今度はラジエーターの排熱が落ち着かなかったり、本体が大きくなったりし使い勝手を損なってしまいます。ペルチェ素子はメーカー数社からサンプルを取り寄せて、すべて試しながら最新のCómodo gear i3が求めるパフォーマンスに最適なものを選んでいます。冷却能力と消費電力のバランスを整えることにも腐心してきました」(阿部氏)
筆者が体験して、前モデルのi2から使いやすさが向上したと感じたポイントがふたつあります。
ひとつは、運転時のラジエーター動作音が静かになったこと。ラジエーター本体を薄くしながら、空冷用ファンを見直したことで騒音レベルは50dB以下に。数値としては、i2から10dBほど改善しています。
音の聞こえ方としては、特に甲高い高周波の騒音が減って、より目立ちにくい低周波の回転音だけが鳴っている感覚です。今回、富士通ゼネラルの会議室でCómodo gear i3を着用して電源オン、待機状態のまま取材していましたが、ファンノイズをジャマに感じることはありませんでした。
もうひとつは、ネックバンドの後方につながっているチューブのぶらつく感じが減ったことです。ネックバンドに電源と冷却水を届けるチューブが、i3では背中にまっすぐフィットするよう下に向かって垂直出しのデザインになりました。チューブも柔らかく取り回しがよくなり、チューブが身体に当たる違和感がかなり少なくなっています。
発売後の反響。海外の暑い地域からも引き合いが
佐藤氏によると、最新モデルのCómodo gear i3は発売直後からとても多くの反響を得ているそうです。40℃以上の作業環境で確かな冷感効果が得られるようになったことから、特に鉄鋼製作、化学プラント、火力発電所など熱源が近くにある現場から強い引き合いがあるといいます。
佐藤氏は「現場の課題は現場にある」という考えから、ていねいにニーズをくみ取ってきた成果が製品に反映されたことで、ユーザーの期待に応える製品を届けられたらうれしいと語っていました。
富士通ゼネラルは、本社所在地の神奈川県川崎市と一緒に、Cómodo gearシリーズを使ったSDGsの共同研究も行っています。二酸化炭素の排出量を減らすことや、熱中症予防、省エネ問題の解決など、広範囲にまたがる課題の解決に向けて、ウェアラブルエアコンを役立てるという取り組みです。
また、川崎市のごみ処理施設や学校給食室センターのような行政施設においても、ウェアラブルエアコンの有用性を確かめる試験運用にも積極的です。今後、どのような成果が聞こえてくるでしょうか。
最新モデルのCómodo gear i3発表後も、Cómodo gearシリーズには中東、欧州、東南アジアなど海外からの問い合わせが多く寄せられているそうです。佐藤氏は「来年(2024年)以降に海外でもCómodo gearのフィールドテストが始められるように準備を進めています」と話してくれました。
富士通ゼネラルは7月26日から28日まで、東京ビッグサイトで開催される「第9回 東京 猛暑対策展」にCómodo gear i3を出展します。Cómodo gear i3を体験、あるいは現場に導入することを検討されている方々は、ぜひ訪れて試してみるとよいでしょう。