muiボードは、宅内に配置したいろいろなIoT家電を遠隔操作するスマートホームコントローラー。天然木で作られたタッチパネルに触れて操作します。京都のスタートアップ企業のmui Lab(ムイ ラボ)は2023年、スマート家電の共通規格「Matter(マター)」に対応する第2世代のmuiボードを発表しました。2024年はいよいよ商品として発売を迎えます。

今回は、mui Labの共同創業者兼CEOである大木和典氏と、ビジネス開発部門アカウント・マネージャーの稲田昌平氏に、第2世代muiボードが目指す「生活に溶け込むスマートホームデバイス」の設計思想と今後の展望を聞きました。

  • mui Labが開発を進めている第2世代のmuiボード。Matterへの対応など数々のパワーアップを果たしています

生活を楽しくするスマートホームコントローラー

欧米に比べて日本国内ではスマートホームの普及が立ち遅れていると言われてきましたが、近年は少しずつ環境が変わりつつあるようです。

Echoシリーズのスマートデバイスを展開するAmazonが先日、8インチのタッチスクリーンを搭載する新しいスマートホームコントローラー「Echo Hub」を日本国内でも発売しました。その記者会見では、Amazonが独自に実施したスマートホームの普及に関連する調査の結果を公表。日本国内では特にコロナ禍の間にAmazonのスマートデバイスがよく売れ、導入したデバイスとサービスをしっかり使っているアクティブユーザーの数が伸びたそうです。

ECサイトのAmazon.co.jpが取り扱うAlexa対応のIoT家電は、2019年から2023年にかけて製品数が4倍以上に。Echoシリーズに複数種類のIoT家電を連携させて使いこなすユーザーの数も、同期間に7倍以上になったといいます。これからは複数のスマートホーム、IoTデバイスを一手に操作・管理できるスマートホームコントローラーが必要になるという見立てから、アマゾンはEcho Hubを商品化しました。

  • 8インチのタッチスクリーンを搭載するAmazon Echo Hub。Alexaに対応するスマートホームデバイスを直感的に操作・管理できるコントローラーとして期待されています

筆者の感触としては、自宅などでスマートホームデバイスを導入して活用しているユーザーと、反対にスマートホームにあまり関心のない方々が二極化しているように見えます。後者の方々に聞くと「デジタル機器に興味が持てない」「スマートホームで何が便利になるのかわからない」という声がよく返ってきます。

ならば、住宅のインテリアと自然になじむオーガニックなデザインで操作も簡単、生活を楽しくしてくれるデバイスであればスマートホームにあまり関心のない人たちも注目するのでは――? ということで誕生した製品がmuiボードです。

スマートホームをシンプルにするMatter対応が重要だった

muiボードは、Echo Hubのようなデジタルディスプレイを持ちません。代わりに自然素材の木板に単色LEDライトの光を透過させて、テキストやアイコンを象(かたど)りながら表示します。ユーザーが木板に浮かび上がるメニューに触れて操作する「タッチ・オン・ウッド」インタフェースがmuiボードの特徴であり、魅力です。タッチパネルはワコムとmui Labが共同開発しています。

そのmuiボードでは、Wi-Fiでホームネットワークにつながった照明器具やエアコン、スマートロック、オーディオといったスマートホーム機器を操作したり、パネルに動作状況を表示して確認したりすることもできます。テキストメッセージの受信と表示、タイマー機能など、ほかにも多彩な機能を備えています。

第2世代のmuiボードは、2024年の初めからスタートしたKickstarterでのクラウドファンディングを無事に成功させました。支援者には2024年内に実機の発送を予定しているそうです。

新しい第2世代muiボードも、初代モデルと同じ天然木の本体を採用しています。テクノロジーがユーザーの生活に溶け込みながら穏やかに支える「カーム・テクノロジー」の思想に基づく、シンプルなデザインと使い心地を初代モデルから踏襲しています。

  • mui Labの共同創業者兼CEO 大木和典氏

新世代のmuiボードは、新しいスマートホームの国際統一規格として注目されるMatterの認証を取得しています。Matterに対応した理由を大木氏に聞きました。

「Matterはメーカーやブランド、プラットフォームの違いを超えてデバイス間のシームレスな通信を可能にする新しい共通規格です。スマートホームにつながるデバイスがもっと欲しい、シンプルに使えるコントローラー機器が欲しいというユーザーの声が高まったことを受けて、mui Labは2021年からMatterを開発するCSA(Connectivity Standards Alliance)の規格策定のワーキンググループに参加しました」(大木氏)

muiボードは日本のメーカーでいち早くMatterへの対応を発表したデバイスです。しかも第2世代のmuiボードは、Matterに対応するデバイスを制御できる「コントローラー」カテゴリのMatter認証を取得しています。

大木氏は「Apple、Amazon、GoogleなどMatterに参加する大手企業以外で、当社のようなスタートアップがコントローラー規格に準拠する製品を発売する例はあまり見ない」と胸を張ります。もちろん、その道のりは平坦ではなく、mui Labがいち早くCSAのワーキンググループに参加して、積極的にMatter対応への準備を進めてきたことが実を結びました。

第2世代のmuiボードが出荷されるころに、国内でもMatterに対応するスマートホーム向けのデバイスが増えて、環境が充実していることを期待しましょう。

  • muiボードは日本のスマートホームのメーカーによる製品の中で、もっとも早くMatter対応を表明しました

パートナーとのスマートホームビジネスの共創も進む

mui Labは、オリジナル製品のmuiボードを開発設計するハードウェアメーカーであり、同時にソフトウェア開発のエキスパートが集うデベロッパーでもあります。

ユビキタスコンピューティングの祖として知られる科学者、マーク・ワイザー氏が提唱する「カーム・テクノロジー」の設計思想に立ち、デジタルテクノロジーが人の生活と自然に溶け込む技術やユーザーインタフェースのデザインを追求しています。外部のパートナー企業と一緒に展開しているスマートホームのサービスや実証実験的なプロジェクトについて、mui Labの稲田氏に聞きました。

  • mui Labビジネス開発部門アカウント・マネージャー 稲田昌平氏

mui Labはデザイン規格住宅ブランドのジブンハウスと協調して、muiボードを標準搭載する住宅を提供しています。

「リビングルーム、寝室など複数のmuiボードを導入した高機能住宅をジブンハウスとのコラボレーションによって提供しています。生活空間になじむデバイス(muiボード)が、家族で過ごす時間をリッチな体験に高める役割を担い、とても好評を得ています」(稲田氏)

第2世代のmuiボードには、2023年にmui Labが三菱地所と共同開発した家庭用エネルギーマネージメントのインタフェース「Energy Window」が搭載されます。MatterやECHONET Liteに対応するスマート家電、およびスマートエナジー関連機器によるエネルギー利用量を一目でわかりやすく可視化して、節電体験の向上を図ります。

また、mui Labは2019年からワコムと一緒に、AIやデジタルの筆跡データを活用する「デジタルインク」の技術を実用化するための研究開発を進めています。第2世代のmuiボードでは、クラウドサービスと連携する手書きAI認識の機能を載せる計画もあります。どんな使い勝手になるのか、イメージを大木氏に聞きました。

「muiボードは家族の生活を支援することも想定したデバイスです。家族が手書きで残したメッセージやメモの内容をAIが読み取り、適切な答えを返すような機能を検討しています。人の筆跡は高い精度で個人認証にも使えます。家族それぞれのプライバシーを守りながら個人宛のメッセージを伝えたり、家族の誰かを判定して情報やサービスを提供したりといった用途にも、筆跡による個人認証のニーズがあると考えています」(大木氏)

  • 第2世代muiボードの設計やインタフェースのデザインに関するさまざまな意見が交わされる、mui Labオフィスの開発風景

ユーザーのコミュニケーションを生成AIがサポートする

第2世代のmuiボードは、出荷後のソフトウェアアップデートによって、ChatGPTとのAIチャット機能を追加する予定です。2024年頭にラスベガスで開催された大規模展示会のCES2024では、muiボードに手で書いたメッセージに対して、ChatGPTが応答する使い方の事例を紹介していました。スマートホームと生成AIのテクノロジーをどのように融合、活用するのか、大木氏が描く展望を聞きました。

  • タッチパネルに手で書いた言葉に対して、ChatGPTが応答するような使い方をイメージしています

「ChatGPTの開発環境はとてもオープンです。生成AIの認知が拡大したことでAIが身近になり、さまざまな可能性が見えてきたように思います。生成AIがスマートホームの中で果たせる役割も、これから徐々に具体化してくるはずです。ChatGPTを介して、AIが子どもの勉強や省エネな暮らしをサポートするような使い方なども、模索していきたいと考えています」(大木氏)

mui Labは目指す「生活に溶け込むスマートホーム」の実現に向けて、柔軟かつスピード感を大事にしながら積極的に挑戦しています。mui Labによる情熱の結晶ともいえる第2世代のmuiボード、多くのユーザーの手に渡る日が楽しみです。