ショールームは、主に消費者に対して自社製品の認知度を深めてもらう場だ。そう考えると、自社で開発した技術の粋を一堂に集めて紹介している「企業科学館」も広義のショールームといえる。そこで今回は、日本の企業科学館のはしりとして知られる「東芝科学館」に足を運んだ。そして、虜になった。

色気のない地味な入り口がたまらない!!

東芝科学館は、東芝研究開発センターに隣接する企業科学館で、東芝がリリースする各ジャンルのエポックメイキングな製品が展示されているほか、最新テクノロジーを駆使した体験コーナーも多数設けている。その歴史は、なんと1961年までさかのぼる。東西冷戦時代の象徴である「ベルリンの壁」が作られた年だ。それから壁やソ連やバブル経済が壊れ、約50年が経った今でも、連日多数の小中学生が詰めかける人気スポットであり続けているのだ。

東芝科学館の入り口。無骨なフェンスに、イメージキャラクター・フューチャー君の案内看板だけが貼られている

その入り口からして、さすがに普通とは違う。大企業が用意する一般向けの施設なら、華々しいゲートを用意しそうなものだが、東芝科学館のそれは写真の通りとても地味だった。隣接する東芝研究開発センターと門を共有しており、科学館に入るには、警備室で入館バッジを受け取って施設内をしばらく歩かなくてはならないのだ。

これはきっと、「アトラクションパークに来たみたいな浮ついた気持ちは捨てな。ここは科学の粋を堪能するところだぜ」といった東芝科学館の隠れメッセージに違いない。

同館の荘司 金秋氏は「昔は科学館専用の入り口があったのですが、修学旅行のバスなどが隣接する国道一号線にたびたび渋滞を作ってしまったため、仕方なく現在のような入場方法をとりました」と語っていたが、多分そんなことはなく、最初から狙っていたのだろう。僕には分かる。これは、相当に硬派な展示物が期待できそうだ。

センター内を右に進むと、東芝科学館の入り口が見えてくる。その光景を眺めていると、工業大学に通っていた頃が懐かしくなってきた。なお、国道一号線からは東芝科学館の巨大な看板が目印になる

東芝科学館 館長附 荘司 金秋氏。「2007年の来場者は13万5000人でした。そのうち6割は小中学生ですね。当館の隣には研究開発センターがあるので、依頼があれば、その道で名の通った博士を気軽に呼べるのも人気に結びついていると思います」と話してくれた

50万Vを流し込まれて、怒髪天をついた!!

科学館のアテンダントさんにナビゲートしてもらった。展示品や体験コーナーの中にはアテンダントさんの操作が必要なモノも多い

館内は3フロアで構成されており、1階は「環境とエネルギー」、2階は「デジタル技術と映像」、3階は「半導体・医療・歴史」と、それぞれのテーマに沿った展示品が並ぶ。そして、すべてのフロアに目玉となる体験コーナーが用意されている。まずは1階から制覇していこう。

取材当日、複数の小学校が修学旅行や社会見学に訪れていた。皆、展示品や体験コーナーに大喜びで群がっており、我々取材班に付き添ってくれたアテンダントさんの説明がたまに聞き取りにくくなるほど、館内は騒がしかった。

しかし、その騒がしさもアトラクションパークとは明らかに種類が違った。ちょうど超伝導実験コーナーでは、マイナス196度の液体窒素によりリニアモーターカーのミニチュアを浮かせる実験を行っており、1クラスの子供達が夢中になっていた。耳を傾ける。

 子供達の担当アテンダントさん「リニアモーターカーが浮いていますねー。これ、どうして浮いてるか、分かる人いますかー?」
 子供A「マイスナー効果ぁ!」
 子供達の担当アテンダントさん&僕「!?」

マイスナー効果とは、磁場を持つ物体を超伝導状態にすると磁場が外部に押し出される性質のこと。この状態で磁石を超伝導体の上にバランス良く乗せると、磁石が浮遊するというわけだ。…ってか、そんなこと学校で習った記憶はない。ましてや小学校では、超伝導という言葉すら聞いたことがなかった。今は理科の教科書に書かれているのだろうか? いや、おそらく子供Aが自発的に調べてきたのだろう。おそるべし、子供A。ここには、そんな科学好きの子供達が集結しているのだ。僕も負けていられない!

静電気発生装置。平和な顔をしたキノコみたいな伝導体が目印だ

そこで目をつけたのは、1階で一番人気のコーナーとなっている静電気発生装置だ。ボックスの中にある巨大なキノコみたいな伝導体に触ると、体内に静電気が流れて髪の毛が逆立つという。運良く空いていたので、係のおじさんに声をかけて、すぐに体験することができた。

ボックス内に入るために、携帯電話や家の鍵など、身に付けていた伝導体と電子機器をおじさんに預ける。空港の手荷物チェックで引っかかったような心持ちで、室内に入った。

僕がキノコみたいな伝導体に触ると、おじさんがスイッチを入れる。室内は掃除機のような音がして、キノコに生えた毛のようなものも逆立ち始めた。僕の体にも電気が流れる。その電圧は50万ボルト。家にあるコンセントの5000倍だ。ちなみにこれを2000倍すると、天然のカミナリと同じ電圧になる。少なくとも人体には到底関係ないほどの膨大なパワーが、いま、みなぎっているのだ! 当然、僕の髪も激しく逆立つ。あとで写真を確認すると、下敷きでこすったくらいでは太刀打ちできないくらいの怒髪天ぶりだった。

「間違って大量の電流が流れたら嫌だなあ。てか、死ぬなあ」と、内心ビクビクしながらキノコに触る

50万ボルトを体験中も、意外と電流の感触はなく、髪の毛が逆立っている感触だけがあった

1階の主役を制覇したことでちょっとした勝者の気分になったが、東芝科学館には、第2、第3のフロアが残されている。ここで気を抜かずに、目玉コーナーを味わい尽くそう! 中編へ続く。

1階で、なにげに気に入ったのは、リニアモーターカーの乗車体験コーナー。画面に車窓の景色と速度が表示され、速度に応じて椅子の振動が変わるというもの。さすがに時速500キロともなると、落ち着いてキーを打てないくらいにガタガタした。なんて(バカ)正直なコーナーなんだろう!

ショールーム情報
■名称:東芝科学館
■受付時間:9:00~16:45
■休館日:日曜日、祝日
■入館料:無料
■住所:神奈川県川崎市幸区小向東芝町1番地(東芝研究開発センター内)
■URL:http://kagakukan.toshiba.co.jp/