前回は、SAPの導入コンサルタントについて2回にわたりお伝えしました。今回からの2回は、運用コンサルタントに焦点を当ててみましょう。

NTTデータGSLでは、長年にわたるSAPソリューションに関する経験や知見をもとに、導入から運用保守までをワンストップで提供することを強みとして、多くのお客様にサービスを提供しています。システム運用は、そのライフサイクルの中では「後半」に位置づけられますが、実際にはユーザーが稼働開始から使い始め、お客様のビジネスの一部となるフェーズです。システムのライフサイクルとしては「本丸」とも言えるとともに、その実績をもとに次の展開を見定める戦略的な意味合いも持ちます。運用コンサルタントは、このように重要なフェーズに対する役割を担っていますが、その位置づけをどのように捉えているのでしょうか。

運用コンサルタントの実態

運用保守サービスを提供する事業部を統括するBは、そのキャリアにおいて多くのSAPシステムの導入プロジェクトに携わっていました。その経験の中で、運用保守の重要さに気づき、運用コンサルタントとしてのキャリアを開始しました。それでは、導入プロジェクトにおける経験や知見を持つからこそたどり着いた運用保守の価値と、SAPシステムを取り巻く環境がBの目にどのように映っているのでしょうか。

システムのライフサイクル

他のあらゆるシステムと同様に、SAPシステムにもライフサイクルがあります。SAPシステムのライフサイクルの特徴のひとつは、ほとんどの企業においてグローバルや多拠点でビジネスを展開しているため、その本社と拠点という関係を意識する必要があるところです。

さらに、コラボレーションツールなどのように、拠点間であっても同じ機能で並列な関係でカバーするのではなく、それぞれの拠点におけるビジネスの実態に要件を合わせると同時に、データやプロセスにおいて共通化、標準化という要素を持たせなければいけないという、相反する要素を常に求められるところが特徴の1つといえます。たとえば、法改正への対応は、国ごとに発生する内容もタイミングも異なります。しかし、SAPアプリケーションのサポートライフサイクルへの対応は、すべての国で共通です。このように、個別部分と共通部分のバランスを求められるのが、1つのポイントになるでしょう。

海外展開とガバナンス

このような背景のもと、NTTデータGSLのアウトソーシング事業部ではAMS(アプリケーションマネジメントサービス)という形で運用保守サービスを提供しています。AMSというサービス形態は一般的なもので、アプリーションの保守サービスと理解されていることも多いと思います。しかし実際の守備範囲はもっと広く、システムの拡張や機能追加、利用範囲の拡大やシステムバージョンアップなども、システムライフサイクルのサポートという観点でその対象となり、その1つに「グローバルロールアウト」も含まれます。これは、日本の本社で利用しているSAP ERPシステムを、海外拠点にも展開することを指します。それでは、NTTデータGSLの特長の1つでもある、グローバルの観点での運用保守について紹介しましょう。

インフラとアプリケーション

海外の展開においては、その拠点にお客様側の十分なITに関する人的リソースがあるとは限りません。そのため、なにか障害が発生したときにはSAPアプリケーションだけを運用対象にしていては、不十分な場合があります。たとえば、ユーザーがSAPアプリケーションに接続できないという場合、ネットワークの問題か、サーバーの問題か、アプリケーションの問題か、または認証システムの問題かもしれません。どこに問題があるのかを切り分けて、原因を特定してから対応しなければなりません。そのため、SAPアプリケーションに障害が発生したときにのみ対応しますという姿勢は、お客様からの期待値に十分こたえられているとは言えない場合が出てきます。

そのため、NTTデータグループの強みを生かし、グローバルのグループ会社と連携しながら、よりお客様の期待に応えられるようにしていきたいと考えています。

グローバルロールアウトはアウトソーシング

NTTデータGSLでは、お客様のグローバル拠点への展開をアウトソーシング、つまり運用保守の中で行うこともあります。もちろん、前回までご紹介したような導入コンサルタントが対応し、新規導入と同様の体制で行うケースもありますが、日本の本社ですでに導入されて運用保守のフェーズに入っている場合、その一環としてグローバル拠点への展開を対応することもあるのです。

その場合に課題となるのが、あとから海外への展開が検討されるケースです。ほとんどの場合。すでに日本で運用されているシステムにおいて海外での利用が想定されていないのです。日本での利用を前提に要件やユーザーの使い勝手を作りこんでいることが多く、また仕様書すらないということも珍しくありません。

このような場合は、日本の仕様をグローバル展開するのではなく、海外の要件に合わせてテンプレートを作り直すという提案になったりします。これはお客様によってケースバイケースであるものの、運用でそのシステムを理解しているからこそできる提案ではないかと考えています。

最初の導入のコンセプトが重要

上述のような状況に陥らないためにも、日本での導入時に海外展開も想定して要件や仕様を決めておくのが理想なのは言うまでもありません。しかし、現実には日本での導入でも多くのリソースと期間を費やし、そこまでの余裕があるプロジェクトはむしろ稀です。たとえば、日本でのみ使うことを前提に、処理やコードなどをハードコーディングしてあると、別の国で使用するときにそのままは使えないので、改修が必要になってしまうということが頻繁に起きるのです。そのため、まずは日本の導入を進めて安定運用の段階に入り、そこで海外展開の検討が本格的になることも多いのです。このような状況において、またはこのような状況にならないためにも、そのシステムの運用経験やそこで得られた知見をもとに運用コンサルタントを交えた形で支援することで、よりスムーズなグローバル展開が可能になるのです。

本当のワンストップとは?

これまでは、グローバルの運用をワンストップで支援するという側面が強かった運用コンサルタントの視点ですが、最近では別の視点でカバーの拡大を検討しています。当然のことながら、お客様のビジネスはSAPシステムだけで成り立っているわけではありません。そこで、SAPシステムを連携する各システムも含めて、どのようにサポートするかということと、アプリケーションだけではなくインフラも含めてどのように支援できるのか、という点です。前回までにご紹介した導入コンサルタントのご紹介でも、SAPソリューションだけではなく、エコシステムを活用した対応範囲の拡大について触れました。それはそのまま運用コンサルタントの活動にも反映されてきます。

お客様のビジネスをサポートすることが運用コンサルタントの使命だと考えると、サービスの提供も含めてNTTデータGSLにとっても大きな挑戦であるとともに、チャンスでもあると考えています。

次回は、運用コンサルタントとしてのテーマのもう1つの柱となる、「SAP S/4HANA」マイグレーションについてご紹介します。

著者プロフィール

𡌶俊介(はが しゅんすけ)
大学卒業後、1994年、日系の監査法人系コンサルティング会社に入社。SEとして会計システム構築および社内システムの構築を担当。
2001年、日本マイクロソフト(現)に入社、主に製造業向けプリセールスや製品マーケティングを約10年にわたり担当。
2010年、デスクトップ仮想化やアプリケーション仮想化ソリューションを提供している最大手のシトリックス・システムズ・ジャパンに入社、約7年間にわたり、アライアンスやマーケティングを担当。
2018年より、NTTデータグローバルソリューションズに入社し、事業戦略推進部副推進部長として、マーケティング全般、人材育成に携わる。現在に至る。