自動車業界における注目技術「自動運転」に関する本田技術研究所 横山利夫氏とプロトラブズ社長 トーマス・パン氏による対談の第二回目。今回は、自動運転技術の実現性から、これからの自動車業界におけるものづくりの将来について話が及んだ。横山氏によると、日本は自動運転の実現において、有利な環境にあるとのことである。その理由とは一体何か。

(右)株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター上席研究員 横山利夫氏
(左)プロトラブズ合同会社社長&米Proto Labs, Inc.役員 トーマス・パン氏

自動運転の実現に日本が有利な理由

トーマス・パン氏(以下 パン氏):日本における自動運転の実現に関して、技術的なハードルと社会的なハードルについて伺いましたが、一方でインフラ面でのハードルもあるかと思います。その点についてはどのようにお考えでしょうか?

横山利夫氏(以下 横山氏):自動運転の実現という点で考えるなら、日本のインフラは非常に有利な状況にあると考えています。国土が狭いのでインフラが整備しやすい。しかも道路整備がほぼ完了している。この条件が揃っている国は、実はそんなにはありません。
例えば、前回、GPSを用いても位置の特定は難しいということをお伝えしましたが、道路には信号や標識など、目印になるものは沢山あります。これらのすべてに緯度経度のタグを付けデータベースで管理を行い、そこから位置情報を特定する方法をとれば位置も正確に割り出せる。インフラの整った日本だから迅速にできることもある。そこを関係省庁と議論しながら進めていきたいと考えています。

パン氏:日本が比較的恵まれたテスト環境にあることはわかりました。ただ、自動運転システムを将来的にはグローバルに展開していく、という視点で考えた場合、日本の整ったインフラに合わせてしまうと、逆に他の国では困難になる部分もあるのではないでしょうか?

横山氏:それは十分に考えられます。確かに日本は自動運転の実現について恵まれた環境にあります。ただし、日本の環境に合わせ過ぎてしまうちに、ガラパゴス化する可能性もあります。ですが、信号や標識は世界中どの国でもあります。グローバルスタンダード化するのは、それほど難しいことではないと思っています。

目前に迫る自動運転の実現

パン氏:自動運転システムのみならず、燃料電池や各種センサーの搭載からソフトウェアやITなど、現在の自動車には次々と新しい複合技術が取り入れられています。このような状況が、自動車業界のものづくりの進め方と将来について、何か大きな影響を与えることはあるのでしょうか?

横山氏:変化はあると思います。ただ、今とまったく違ったものになるとは思っていません。これまでも、自動車には数多くの新しい技術が採用されてきました。自動運転も、この流れの中にあると考えています。
ただ、私たちのような自動車メーカーだけではできないこともあります。例えば、私たちはスマートフォンの無線通信を利用して、他の車両や歩行者の位置を把握する「協調型自動運転技術」を開発しています。これには端末メーカーや通信キャリアなどの方々からの協力が不可欠になります。そのような関わりの中で変化を求められることもあるかもしれません。そしてそれがお客様のメリットとなるのなら、大きく変わることも必要だと考えます。

パン氏:私は、これまでいろいろなものづくりの専門家の方々と対談させていただきましたが、東京大学教授 藤本隆宏氏とのお話の中で、日本が得意とするものづくりは「顔を突き合わせて行う"擦り合わせ型"だ」というものがありました。自動車業界も例外ではないとのことでしたが、実際のところはどうでしょう? ITの登場によって変化している部分もあるのではないでしょうか?

横山氏:確かに、ITの登場によって自動車業界も、かなりバーチャルな部分が増えてきました。モデルチェンジもサイクルも早くなってきているので、必要な部分はITを取り入れなくてはならない。
ただ、どういうコンセプトなのか、それを実現するために必要な技術は何か、その部分については人間が考えるしかありません。顔を突き合わせて意見を出し合い、擦り合わせる。その手順は簡単には変わらないと思います。
特に自動運転の技術については、現状ではバーチャルで対応するのは難しい状況です。今は、とにかくリアルワールドで走り込んでデータを蓄える、その段階です。データが十分に蓄えられれば、バーチャルな検証も可能となることでしょう。

パン氏:バーチャルとリアルをうまく使い分けるということですね。弊社の顧客が使うバーチャルな3DCADとリアルな試作品との関係に似ています(笑)。
お話を伺って、自動運転を実現させる大変さは非常に多面的であるということがよく分かりました。私自身も通勤に自動車を利用していますが、渋滞も多いので時間がかかります。自動運転でクルマを楽しみながら通勤時間を他のことにも使えるようになると、選択肢が広がり嬉しいですね。ぜひ、一日も早く実現していただきたいです。

横山氏:高速道路の自動運転は、かなり早い段階で実現すると思います。期待していてください。

ITS世界会議2013にて公開されたホンダの自動運転技術

協調型自動運転技術

無線通信を用いて位置情報を確認する技術。GPSとWi-Fi通信の機能を搭載したモジュールやスマートフォンを車両に搭載。歩行者は専用アプリをインストールしたスマートフォンを使用。他の端末の通信カバーエリアに入ると、互いに位置情報を交換して、カーナビや車載ディスプレイ、スマートフォンに互いの存在を知らせる。「ASIMO」が培った、周囲の人の動きを分析する技術を応用している。

自動バレーパーキング

駐車場の送迎エリアを想定した場所で車を停車させると、駐車場内の空きスペースの情報を受け取った車が無人で走行して駐車を行う。

ホンダの自動運転技術の試走